大学と高校の教育をつなげる「高大連携」の取り組みの一つに、「出前講義(出張講義)」があります。大学の教員が高校に出向いて講義を行うというもので、そのスタイルはまさに講義の「出前」。今回は、さまざまな大学が用意している出前講義(出張講義)のプログラム例を紹介すると共に、高校生にとってのメリットなどを説明します。
「高大連携」と「出前講義(出張講義)」とは?
まず「高大連携」とは、簡単にいうと高校と大学が連携して行うさまざまな取り組みのことです。高校側と大学側が、取り組みを通じてそれぞれの教育について理解を深め、高校までの学びと大学での学びをスムーズにつなげて、より高い教育効果を上げることなどがねらいです。
高大連携の取り組みのうち、高校生に直接関わってくるのが「(高校生向け)公開講座」と「出前講義(出張講義)」です。前者の公開講座は、個々の大学がキャンパス内で高校生を対象に開催する講義を指します。公開講座の詳細は、下記リンクの記事をご覧ください。
一方、今回のテーマである「出前講義(出張講義)」は、大学のほうから高校に出向いて高校生の前で大学の講義を行うというもので、「出前授業(出張授業)」という場合もあります。
「出前講義」は学校・学年単位で参加するのが基本
「出前講義」も「公開講座」も、大学の教員が講義を通じて大学の学びの一端を伝えてくれるという点では変わりはありません。ただし、出前講義の場合は、大学の教員が来て特定の高校に講義をするので、学校・学年単位(またはクラス単位など)での参加が基本になります。
また、講義の場所は高校の教室や講堂になるため、大学のキャンパスや校舎の雰囲気を味わうことはできません。逆に考えると、慣れ親しんだ学校の教室や講堂で、いつもの友人と一緒に大学の講義を受けられるということです。
高校・大学・大学入試の一体改革を指す「高大接続」
ちなみに、「高大連携」に似ている言葉に「高大接続」があります。こちらの言葉を聞いたことがあるという人もいるかもしれませんね。高大接続も、高校と大学が教育面で連携を図ることに変わりはありません。ただ、高大接続といった場合は、高校教育、大学教育に加えて大学入学者選抜(大学入試)の三者が一体となって進める教育改革のことを指します。
「出前講義(出張講義)」の特徴と高校生にとってのメリット
出前講義(出張講義)について、もう少し詳しい内容を見ていきましょう。
出前講義は、名前のとおり、大学の講義を高校に「出前して」行うものですが、正確には大学の講義を「そのまま」出前するわけではありません。大学の多くは、出前講義用のメニューを用意していて、その中から高校側が自校に合うものをチョイスするような形になっています。
また、大学によってはあらかじめ決まった講義メニューを用意せず、高校から申し込みがあった段階で、どのような内容にするかを高校の要望も聞きながら検討するようです。
対面での実施が基本だが、オンラインで開催する場合も
出前講義は対面で行うのが一般的です。そのため、大学によっては、出前講義を行う高校の所在地を同じ地域・地方などに限定している場合もあります(移動時間がかかるなどの理由から)。
ただし、コロナ禍もあり最近はオンラインで出前講義を行うケースも増えているようです。その場合は、大学と高校の間の距離に関わりなく出前講義を依頼できるケースもあります。
なお、すべての大学が出前講義を実施しているわけではありません。
高校生にとっての「出前講義」のメリット
高校生にとっては、大学レベルの学びにじかに触れられることが出前講義の最大のメリットと言えるでしょう。また、大学ならではの講義を聴いて、受験へのモチベーションが上がることも期待できます。
大学ごとに異なりますが、個々の学問の基本について一から学べる講義や、理工系などでは最先端の研究内容を知ることができるる講義もあります。自分がどんなことに関心があるのかなど、進路選択について改めて考える機会になることもメリットの一つと言えそうです。
「出前講義(出張講義)」を実施している大学の例
大学によって、出前講義(出張講義)で扱うテーマはさまざまです。ここでは、3つの大学の出前講義を例に取り、それぞれ簡単に紹介します。
京都大学(「学びコーディネーター」による出前授業)
京都大学では、高大連携事業の一環として「学びコーディネーター」と呼ばれる大学院生が自身の研究内容を紹介する出前授業を実施しています。2022年度の場合、全国の高校の1・2年生が対象で、実施期間は10月3日から12月16日までです(募集はすでに締め切っています)。また、全部で88の授業テーマが用意されていました。下記はその一部です。
・文学研究科 「マンガの語り、歴史学の語り」
歴史叙述の歴史や中世主義に言及しつつ、歴史学と歴史系コンテンツの違いに注目し、両者の関係について考察します。
・理学研究科 「数学的な正しさとは何か」
証明を数学的に考察することにより、証明という概念や正しいという概念を厳密に定義します。
・アジア・アフリカ地域研究研究科 「旧ソ連地域における紛争・内戦・戦争とは何か?」
旧ソ連地域における内戦・紛争・戦争について、歴史や国内外の事情、また紛争などはどのように沈静化し・沈静後何が起きているかという3つの観点から講義します。
・2022年度 京都大学高大連携事業 大学院生等(学びコーディネーター)による授業を希望する高等学校の募集について
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news/2022-06-23-1
(授業のテーマについては、ページ内の「2022年度 学びコーディネーター事業 提供授業一覧」を参照のこと)
山梨大学(出前講義)
山梨大学の「出前講義」は、例年5~12月に実施されています。講義のテーマが数多く用意されているのが特徴の一つで、2022年度の場合は、教育・医学・工学・生命環境の各学部とクリーンエネルギー研究センターや機器分析センターといった専門機関による、合計308の講座が用意されていました。下記はその一部です。
・教育学部言語教育学科 「中国語統語論」
現代中国語の構造を言語学見地から検討します。
・医学部薬理学講座 「最近わかってきた新しい脳の仕組み」
最近わかってきた、脳で重要な役割を果たす「グリア細胞」を紹介しながら、脳が痛いとか、旨いなどの知覚情報を感じる仕組みとその破綻について解説します。
・工学部メカトロニクス工学科 「ウェアラブルロボット、人と関わるロボットについて」
ウェアラブルロボットなどの人と深く関わるロボットについて、機器の体験などのデモンストレーションを交えつつ講義を行います。
・山梨大学 高大連携 公開授業(2022年度)
https://www.yamanashi.ac.jp/social/3690#D-1
(授業のテーマについては、ページ内の「2022出前講義」を参照のこと)
名古屋学院大学(高大連携出張講義)
名古屋学院の出張講義は、SDGs(持続可能な開発目標)のキーワードを意識した講義テーマが特徴です。SDGsのゴールを選んで該当する講義を探していくこともできます。また、対面のほかオンライン対応が可能な講義もあります。2022年度の場合、約140の出張講義が用意されていました。下記はその一部です。
・経済学部 「iPhoneはどこの国の製品ですか?」
携帯電話の製造過程を振り返り、現在の国際貿易や企業の生産活動の実態に迫ります。 (SDGs/9・企業と技術革新の基盤を作ろう)
・外国語学部 「社会的差異とは何だろう?」
アイデンティティーとも深く結びついている社会的差異(人種、ジェンダーなど)について、歴史的考察により差別・他者への理解を深めます。(SDGs/10・人や国の不平等をなくそう)
・スポーツ健康学部 「スポーツと食事」
体力づくりやスポーツのパフォーマンスに食事は大きく影響します。体力や運動能力を向上するための正しい知識を学びます。(SDGs/3・すべての人に健康と福祉を)
・名古屋学院大学 高大連携事業
https://www.ngu.jp/and-n/cooperation/
(講義内容については、ページ内の「出張講義一覧」の「学部別一覧」または「テーマ別一覧」を参照のこと)
「出前講義(出張講義)」を受けてみたい場合
出前講義(出張講義)は、基本的には高校側の要望があって実施されるものです。大学側でいくらメニューを用意していても、高校側からの申し込みがなければ実施はありません。
もし、在籍している高校でこれまで出前講義の開催実績がない場合、先生に出前講義について質問してみるのも一つの手と言えるでしょう。もちろん、それぞれの学校には事情があり、希望しても必ず出前講義が実現するとは限りませんが、生徒が大学の講義に関心を持つことは歓迎されるのではないでしょうか。
または、出前講義の代わりに、すでに述べたような大学の高校生向け公開講座などに参加してみるのもよいでしょう。