大学生の新生活

「iPhone」価格も、留学も円安影響!? 学生もひとごとではない【為替】のしくみ

ニュースで「円安」を耳にする機会が増えました。実は高校生の日常生活にも影響を及ぼす身近な問題です。今回は身近な例も取り上げつつ、円安の影響などについて解説します。

一気に加速した「円安」、実は身近な問題

先日、スマートフォンの最新機種「iPhone 14」が発売されました。人気機種ですので気になる人も多いのではないでしょうか。

衝撃を与えたのがその価格です。直販ストアを見るともっとも安いモデルでも11万9800円(消費税込み)と10万円を軽く超えました。前モデル「iPhone 13」では9万9800円でしたので、2万円ほど値上がりしたことになります。

「新モデルだから値上げされたんでしょう」と思ったら大まちがいです。米国向け直販ストアの価格は799ドル。「iPhone 13」の登場時も同じ799ドルでした。米国では値段据え置きなのに、日本では2万円も値上がりしてしまったのです。

なぜ日本だけ値上がりしてしまったのでしょうか。値上げの波は、スマートフォン本体だけではなく、海外から輸入されるあらゆる製品やサービスに広がっています。

「円が安い」「ドルが高い」とは?

「円安」という言葉は最近ニュースでも多く取り上げられており、耳にしたことがある人も多いと思います。とはいえ、普段利用しているお金が「安くなる」「高くなる」と聞いてもピンとこないかもしれません。

ここで言う「安い」「高い」というのは、日本以外で流通している通貨に対する相対的な価値を示しています。

日本をはじめ、海外ではそれぞれの国、地域で通貨を発行しており、「1米ドルは130円」、「1ユーロは140円」といったように、それぞれに交換比率(為替レート)があります。この比率は日々変動していて「為替相場」と呼ばれています。

通貨は市場で取引されていて、価値の高い低いは、人気投票のように決まります。多くの人が「ドルを欲しい」と思えばドルの価格が上がりますし、逆に売られた通貨の価値は相対的に下がってしまうのです。

急激な円安が進んで輸入品の値段が高騰

2022年に入り、急激に円の価値が安くなる「円安」の状態となりました。特に米国のドルの価値が上がっており、「円安ドル高」の状態となっています。1月ごろ、1ドルは115円ほどで取引されていました。それが130円、140円とジリジリと上がり、ついには10月に1ドルが150円を突破する日も出てきたのです。

具体的にはどのような影響があるのでしょうか。1ドルのお菓子を買うことを考えてみましょう。まったく同じお菓子が1月は115円で買えていたものが、10月には150円を出さないと買えなくなってしまったのです。

同じ799ドルの「iPhone」ですが、1月だと単純計算で、799ドル×115円で9万1885円。これに消費税を加えると「10万1073円」です。日本で売られていた税込み価格9万9800円とほぼ一致していることがわかります。

しかし、そのあと円安が加速していきました。もし、799ドルを150円で換算すると11万9850円、消費税を加えると13万1835円にもなります。

「iPhone 14」の発売時、米国で799ドル、日本では11万9800円と価格が示されましたが、これは1ドルあたり約136円を想定した価格です。これでも今の為替相場の急激な変動を反映していないくらいなのです。

国内で輸入品を買う場合に限らず、ドルで支払う英語能力試験「TOEFL」の試験料や、海外の渡航費用なども円安の影響を受けます。今回の急激な円安は留学生や留学を希望している学生にとって大きな痛手となりそうです。

かつては円高に苦しみ、円安を望んでいた日本

為替相場は常に変化しています。実は高校生のみなさんが生まれて小学校に入ったころの十数年前には、今から考えると驚くほどの「円高」の状態にありました。安定した価値を持つ通貨として「円」に人気が集まっていたのです。

2011年8月には1ドル76円台を記録しています。仮に1ドル77円と換算して799ドルのものを当時買ったとすれば6万1523円。10%の税金を加えたとしても6万7675円と7万円も出さずに買えてしまったのです。

さらに歴史をさかのぼると、戦後から1973年までの固定相場制の時代では1ドルあたり360円の固定レートで取引されていました。円の角度が360度に由来するとの話もあります。今から見るととても円の価値が低い時代でした。

「円高」がいいのか、「円安」がいいのか

これまでの例では、円高だと海外の製品が安く買えて魅力的に感じたかもしれません。しかし、コインに表と裏があるように、「円高」「円安」も単純に良い悪いと考えることはできません。

輸出産業には不利な「円高」

たしかに円の価値が高くなり「円高」となれば、海外から安く輸入ができます。日本は資源が乏しく、石油や工業製品の原材料、食料なども海外からの輸入に依存していますので、これらが安く購入できるのは大きなメリットです。

しかし、「円高」は輸出産業にとってとても不利な状況です。

十数年前、当時の日本はその「円高」に苦しんでいたのです。というのも日本は「ものづくりの国」でもありました。自動車や家電など、国内で生産して海外へ輸出することで経済成長を続けてきたのです。

仮に日本で150万円の自動車を海外に輸出した場合、もし1ドル150円であれば、米国では1万ドルとなります。しかし円高で仮に1ドル75円となれば、米国での価格は2万ドルと倍の値段になってしまいます。当然、価格競争力が大きく低下し、輸出に依存が大きい産業界からは円安を望む声も出ていました。

「円安」の恩恵を観光産業に期待

それでは、最近の円安はどうでしょうか。たしかに輸出産業には追い風と言えるでしょう。とはいえ、以前ほどの恩恵はないと言われています。というのも、円高に苦しんだ際、生産拠点を日本から海外に移してしまったケースが少なくないからです。

円安の恩恵が期待されているのは「観光産業」です。海外の人々が安く日本国内の旅行を楽しめるため、「インバウンド需要」を期待できるからです。新型コロナウイルスの影響で、海外からの渡航を一時制限していましたが、状況も徐々に変わりつつあります。

なぜ、円安が急に進んだのか

なぜ急激に円安になってしまったのでしょうか。為替相場は、さまざまな要因が影響しますが、今回に関しては、米国の「利上げ」が与えた影響が大きいと考えられています。

米国ではコロナショックも終わり、経済が動き出して一気に景気が良くなりました。求人が増え、給料も上がり、それにともなって物価も上がる「インフレーション」の状態ですが、その幅が大きすぎるため米国内の経済が不安定な状態となっています。

近年、不景気で世の中にたくさんのお金を使ってもらおうと各国の政府は、お金を貸す際の「金利」を下げていました。利息を払うことなく、お金を借りられていたのです。しかし、こうした状況は「インフレ」を加速させる一因にもなります。

そこで米国では物価などを安定させるため、市場に貸し出すお金の「金利」を引き上げることにしたのです。利息を高く設定し、企業がお金を借りることが難しくすることで、出費の抑制を促し、急激な物価の高まりを抑え込もうとしています。

一方、金利が上がるとドルで預金すれば高い利息を期待できますので、ドルの人気が高まりました。さらにドルの価値が高まるとの思惑もあり、ドルを買い集める動きが加速していったのです。

日本では景気がまだ良くなっておらず、お金を借りやすいよう金利は依然低いままです。ドル以外も金利を上げる動きが出ており、他国の通貨に対して円安の状態となっていきました。

多くの人を巻き込む経済を学ぶ重要性

こうしてみると、経済はさまざまな要因と絡みあって動いており、単純に「円安」「円高」を良い、悪いなどとも言えません。とはいえ、多くの人の生活に係る重要な問題であり、バランスを取っていかなければなりません。

新型コロナウイルス感染症の動きによって経済が停滞したり、ロシアのウクライナ侵攻によって穀物やエネルギーが値上がりするなど、国内外の情勢が世界各国の経済に影響を及ぼします。

もし、経済が不安定な状況に陥れば、国として借金が増え、企業の業績に影響を与え、人々が職を失ってしまうなど、影響が拡大します。それこそ高校生のお小遣いを直撃することさえもあるのです。

今回お話した「為替相場」は、経済活動のひとつに過ぎませんが、ニュースに気を配ると、普段の生活からでも経済を学ぶ重要性を実感できます。

また「経済学部」は多くの大学が開講しており、非常にポピュラーな学部と言ってもよいでしょう。経済の動きに関心があれば目指してみてはいかがでしょうか。