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新たな観光地も創り出す 【コンテンツツーリズム】の研究。アニメ聖地巡礼で地域活性化!

映画やアニメの世界をより深く体感するために、作品の舞台となった土地やゆかりのある土地を訪れるのが「コンテンツツーリズム」です。アニメの「聖地巡礼」がその代表例です。訪れたファンを喜ばせるために、自治体などがさまざまな観光施策を打ち、さらに盛り上がりを見せ経済効果が出るなど、地域振興と結びついている点も重要です。コンテンツツーリズムとは何か、その成功例や大学で何を学ぶかなどについて紹介します。

コンテンツツーリズムとは?

コンテンツの舞台となった土地やゆかりのある土地を訪れて、作品を体感する観光行動が「コンテンツツーリズム」です。ここでいうコンテンツは幅広く、映画やテレビドラマ、小説、アニメーション、ゲームなどエンターテインメント系の作品全般が含まれます。

日本で「コンテンツツーリズム」という言葉が初めて登場したのは、国土交通省などによる2005年の「映像等コンテンツの制作・活用による地域振興のあり方に関する調査報告書」です。同報告書には、「地域に関わるコンテンツ(映画、テレビドラマ、小説、漫画、ゲームなど)を活用して観光と関連産業の振興を図ることを意図したツーリズムをコンテンツツーリズムと呼ぶことにしたい」と書かれています。
つまり、高校生の皆さんが物心ついた頃には、コンテンツツーリズムはすでに各所で展開されていたことになります。

・「映像等コンテンツの制作・活用による地域振興のあり方に関する調査報告書」
https://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/souhatu/h16seika/12eizou/12_2.pdf

アニメの舞台となった土地やゆかりのある土地を「聖地」と称して、その土地をファンが訪れる「聖地巡礼」もコンテンツツーリズムのひとつ、アニメツーリズムとも呼ばれています。そもそも聖地巡礼という言葉は宗教用語で、宗教の創始者にゆかりのある場所を信者が訪れることを意味します。それを、アニメファンが自分たちの行動になぞらえて、「聖地巡礼」と呼んだのでしょう。聖地巡礼の起源には諸説あります。長野県飯島町の田切駅には「アニメ聖地巡礼発祥の地」という記念碑があり、アニメ「究極超人あ~る」の舞台としてファンが訪れています。また、他のアニメが起源となったという説もあります。

聖地巡礼という言葉が広がったのは比較的最近ですが、コンテンツツーリズムはもっと古くから行われてきました。例えば、夏目漱石の小説「坊ちゃん」を読んで舞台となった愛媛県松山市を訪れたり、「アンネの日記」を読んでアウシュビッツ収容所を訪れるブックツーリズム(書籍の舞台を訪れる旅)。また、映画「ローマの休日」を見て、ローマへ旅行し主人公のまねをして「真実の口」に手を入れたり、スペイン広場の階段を歩いてみるといったフィルムツーリズム(映画の舞台を訪れる旅)なども、コンテンツツーリズムに含まれます。

コンテンツツーリズムで地域活性化

ファンが訪れたことでその地域が活性化されたことを受け、自治体などがさらにファンに来てもらい、楽しんでもらうための取り組みを行っている事例を紹介します。

作品が追体験できる環境を整備ーー「君の名は。」

2016に公開され大ヒットしたアニメ映画「君の名は。」で重要な舞台のひとつなっている岐阜県飛騨市では、映画に登場した飛騨市内の場所を一覧できる「聖地マップ」を作成したり、廃線になっていたバス停を作中のシーンに合わせて復活させたり、作中に登場する組紐の体験プログラムを導入するなどの取り組みが行われました。このように、ファンが聖地巡礼をする際の環境を整えたことで、観光客が大幅に増加しました。

架空のお祭りを再現ーー「花咲くいろは」

2011年に放送されたテレビアニメ「花咲くいろは」の舞台となった温泉街のモデルとなったのは、石川県金沢市の湯涌温泉です。作中に登場する架空のお祭り「ぼんぼり祭り」を、湯涌温泉観光協会が実現させました。お祭りは2011年から毎年10月に開催し、来訪者数は初めは約5000人だったのが、2016年には約1万5000人と3倍に増加しました。作品にちなんだイベントを毎年継続して開催したことや、温泉街自体に観光資源としての魅力があったことが、成功の要因といえるでしょう。

県が中心となって観光施策を展開ーー「西郷どん」

2018年に放送されたNHK大河ドラマ「西郷どん」の舞台となった鹿児島県では、地元の市町村と連携を図りながら「西郷どん」にちなんだ観光施策を展開しました。鹿児島市に「西郷どん大河ドラマ館」、指宿市に「いぶすき西郷どん館」を設置。また、「西郷どん」ゆかりの地である「鰻温泉(西郷の湯治先)」や「西郷南洲史跡周辺(幕府から身を隠した地)」などを整備しました。鹿児島市には歴史ロード「維新ドラマの道」をオープン。道沿いに設置されたモニュメントにスマートフォンをかざすと、幕末から明治維新にかけて活躍した偉人のエピソードを見ることができる仕掛けが来訪者を迎えます。こうした取り組みが一因となり、鹿児島市の2018年の宿泊観光客は410万人と、過去最高を記録しました。

ロケ地マップや関連商品を提供ーー「あまちゃん」

2013年放送のNHK連続テレビ小説「あまちゃん」のロケ地となった岩手県久慈市では、久慈商工会議所の職員が「あまロスなげき隊」を結成。「あまちゃん」目当てで訪れる観光客の満足度向上に向けて、観光客向けのロケ地マップを作成したり、「あまちゃん」の追体験ができる関連商品を企画しました。久慈市の観光客数は、2013年は前年比87.9%増となる113万人を記録。その後は減少したものの、「あまちゃん」の放映前以上の観光客数を維持するなど、コンテンツツーリズムの効果は続いています。

コンテンツツーリズムの課題は

成功例を紹介してきましたが、課題もあります。コンテンツツーリズムによる観光振興は一過性のブームに終わることが多く、どのように継続していくかが課題です。作品と観光施策の相乗効果で一定の知名度を獲得した後は、継続的に地域振興策に取り入れることによって、地域ブランドとして認知させることが求められるでしょう。例えば埼玉県春日部市が舞台のアニメ「クレヨンしんちゃん」。主人公のしんちゃんは春日部市に住民登録されており、2009年度より市の子育て応援キャラクターとして活躍しています。

もうひとつの課題は、オーバーツーリズムです。観光地にキャパシティーを超える大量の観光客が押し寄せることで、地域住民の生活や自然環境、景観に悪影響を及ぼすことをオーバーツーリズムといいます。例えば漫画「スラムダンク」の舞台のひとつである江ノ島電鉄・鎌倉高校前駅近くの踏切にファンが集まり、電車が通過するたびに撮影会になるという現象が起き、苦情が市役所に寄せられたといいます。地域住民が、ここが「聖地」であると知らない場合もあり、そういった認識の違いがあつれきを生む可能性もあります。

作品の人気が高ければ高いほど、人が集まってこうしたオーバーツーリズムが起きる可能性があります。アニメの価値観と地域の価値観のずれをなるべくなくし、観光客にマナーを守ってもらうなど、オーバーツーリズムのマネジメントも重要になってきます。

また、新型コロナウイルス感染症の影響で、今は観光自体を控える風潮になっています。人が集まるイベントなどの観光施策を打ちにくくなっており、今後はコロナ禍における新たなスタイルのコンテンツツーリズムを考える必要があるでしょう。

大学でのコンテンツツーリズム研究とは

大学でのコンテンツツーリズム研究では、主に成功事例の分析を行います。その研究成果を、コンテンツツーリズムによる地域振興を考えている地方自治体に還元することで、官学連携で地域を盛り上げる観光施策を生み出すことができます。また、コンテンツツーリズムによる地域振興を一過性のもので終わらせず、地域の観光資源として根付かせるにはどうすればいいかなどを研究することもできます。

「コンテンツツーリズム」が学べる大学の学部、学科

コンテンツツーリズムそのものを学べる大学はまだ少ない状況ですが、横浜商科大学商学部観光マネジメント学科では、「コンテンツツーリズム/観光メディア研究」を開講しています。そのシラバスによると、アニメや漫画に関わるコンテンツツーリズムに焦点を当て、構造や調査法、事例について学ぶとされています。

また、観光学部でもコンテンツツーリズムをテーマに選ぶことができます。観光学部がある主な大学は、立教大学、和歌山大学、玉川大学、東洋大学、帝京大学など。立教大学の説明によると、観光学部では、ビジネスとしての観光、地域社会と観光、文化としての観光などをテーマに、経営学、経済学、社会学、地理学など幅広い学問を基盤とした研究が行われています。

参考

・「フィルムコミッションによる地域活性化に関する考察」西南女学院大学
https://www.tuins.ac.jp/common/docs/library/2020gensha-PDF/201910-02taniwaki.pdf

・「大河ドラマの舞台地となった自治体の施策について」
https://researchmap.jp/ta-nakamura/published_papers/19856213/attachment_file.pdf

・「コンテンツツーリズムの概念についての研究ノート」西南女学院大学
https://www.jstage.jst.go.jp/article/contentstourism/3/0/3_34/_pdf/-char/en

・「コンテンツツーリズムの新たな方向性 ~地域活性化の手法として~」
https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/keizai_prism/backnumber/h25pdf/201311002.pdf

・「アニメ×町おこし。聖地巡礼や観光誘致に繋がる取り組みとは?」
https://www.publicweek.jp/ja-jp/jichitimes/article/anime210913.html

・「江ノ電の踏切がスラムダンクファンの聖地化…アジア圏から殺到、オーバーツーリズムの問題も」
https://maidonanews.jp/article/12670201