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【衛星ネット回線】世界の隅々までインターネット接続を可能にする技術。スマホと衛星が直接通信する時代に!

スマートフォンのモバイル回線がつながる電波エリアは、地上基地局が近くに設置されているかどうかが決め手です。基地局から遠く離れた場所では、モバイル通信ができません。今回は、山間部や海上など基地局がない場所でも回線に接続できる、「衛星インターネット(ネット)回線」について解説します。

どこでもインターネット接続ができることは重要

スマホやIoT機器などモバイル回線を使う場合、その場所が電波の届くエリアであることは重要です。

モバイル回線は、地上にあるビルや電柱などの高い場所にアンテナを建てて設置された基地局と、スマホなどを電波でつなぐことで利用するもの。その基地局はインターネットに接続されています。つまり、基地局を通してインターネットにつながることで、スマホなどのモバイル機器でネットが利用できるわけです。そのため、基地局周辺の電波の届く範囲がモバイル通信のエリアとなります。

しかし、この基地局の設置が難しい、山間部や海上、人が極端に少ない場所などではモバイル回線に接続できません。

一方、ケーブルを接続した光回線やCATV回線(ケーブルテレビを利用した回線)であれば、どこででもネット通信ができるかといえば、そうでもありません。まずケーブルを使う有線の回線は、当然ながら、物理的にケーブルを接続しないと利用できません。

人口の多い都市部は、縦横無尽にケーブルが引かれているので困ることはありませんが、都市部から遠距離にある人口の少ない離島や山間部など、ケーブル敷設コストが見合わないと、なかなか設置することが難しくなります。

このようにユーザーに届く最後のエリアを「ラストワンマイル」と呼びます。

衛星通信を使った回線は技術的に新しくはない

基地局のない場所、ケーブルが敷設されていない場所であってもインターネット接続をできるようにするには、さまざまな手法が考えられていますが、近年注目されているのが、専用の人工衛星を使った「衛星ネット(インターネット)回線」です。

なお、衛星を使ったデジタル通信自体はまったく珍しくはなく、極地での通話やテレビなどの中継回線として長期にわたって運用されています。ここでは、個人向けのインターネット回線に限って解説しましょう。

主に固定して使う衛星ネット回線「スターリンク」

衛星ネット回線は、地上でパラボラアンテナを人工衛星に向け電波をキャッチする方法が主ですが、人工衛星からの電波を小型モバイル機器で直接送受信する方法もあります。

後者のケースではスマホに人工衛星の電波を受信できる通信機能を内蔵させれば通信が可能になります。これとは別に、スマホなどで受信できる5Gや4Gといったモバイル通信向け電波を人工衛星から直接送信するという方法もあります。

地上にパラボラアンテナを展開するネット接続では、「スターリンク(STARLINK)」が有名です。スターリンクは、イーロン・マスク氏がCEOを努める宇宙ロケットを開発している企業「SpaceX」がネット接続サービスとして提供しています。ネットが寸断されたウクライナの戦地に無償提供し続けていることでも話題になりました。

スターリンクをはじめとした最近の衛星ネット回線は、衛星の高度が地上550km程度と低軌道であることが大きな特徴です。そのおかげで高速で低遅延のブロードバンド通信を実現しているのですが、エリアを広げるにはたくさんの衛星を飛ばさなければなりません。現在(2022年)3000基ほどですが、将来は約4万基まで増やす予定になっています。

これは、パラボラアンテナをWi-Fiルーターに接続し、スマホのアプリでコントロールします。

すでに日本でも沖縄など離島を除く全国(2022年末現在)で接続が可能になっています。全世界で通信可能なエリアは下記リンクから見られます。au(KDDI)は、このスターリンク回線を、光回線ではつなぎにくい場所にある基地局のバックホール(基地局同士をつなぐ)回線に活用する予定にしています。

・STARLINK MAP
https://www.starlink.com/map

<Starlink Mission/SpaceX>

衛星ネット通信はモバイル向けになっていく

スターリンクのサービスは基本的に自宅など固定した場所で使うものです。契約によっては車に乗せることもできますが、パラボラアンテナを持ち運んで設置するので手軽とはいえません。とはいえベースキャンプ地や戦地などで、電源さえあればネットに接続できることは大きな意味があります。いずれ、小型デバイス向けのサービスも追加されることは大いに考えられます。

人工衛星と小型モバイル機器の通信は実現済み

移動しながら使う場合には、人工衛星と小型モバイル機器などを直接接続するという手法をとります。

この方式はこれまでも、音声通話やテキストメッセージに限って送受信できる機器が使われてきました。「イリジウム」や「グローバルスター」の衛星携帯電話や「Garmin inReach」などのサービスがあり、極地への冒険者や海上での非常通信向けなどで使われています。

・Garmin inReach
https://www.garmin.co.jp/minisite/inreach/personal/

<つながる安心をあなたの手元に/Garmin Japan>

スマホが直接衛星と通信する時代になった

それと似たような衛星通信機能は、北米向けのiPhone14でサービスが始まり話題になりました。「グローバルスター」社の低軌道衛星との緊急通信(SOS)をiPhone14のみで行えるというもので、あらかじめ登録されたテキストメッセージと位置情報データで救助のやり取りをするというものです。

通信はスマホですでに使われている5Gの2.4GHz帯を使っています。使用前にアンテナを正確に衛星に向けるセッティングが必要なのですが、スマホが直接、衛星と通信できるということは画期的で可能性を感じさせられます。

今後多くのスマホで似たような機能が搭載されたり、緊急時以外にもメッセージのやり取りが可能になることも十分考えられるでしょう。

<The Rescue | Emergency SOS via satellite | iPhone 14 | Apple>

楽天モバイルが衛星ネット通信を使ったサービスを提供する

日本では、このiPhone14の衛星通信サービスは受けられませんが、楽天モバイルが米「AST・スペースモバイル(SpaceMobile)」と提携し、スマホ向けに衛星通信を行うことを発表しています。スマホ側は特別な機能は必要なく、これまで同様4Gや5Gの通信ができれば利用でき、国内で地上基地局とつながりにくかったエリアを補完するという利用方法になり、スマホを使っているユーザー側は、衛星を使っていると意識することはないでしょう。

・「スペースモバイル」でどこでもつながる通信へ、楽天モバイルの挑戦
https://corp.mobile.rakuten.co.jp/blog/2022/0519_01/

AST・スペースモバイルの衛星は、宇宙で大きく展開することが特徴です。プロトタイプとなる「BlueWalker 3」が2022年9月10日にSpaceXのロケットを使って打ち上げに成功しています。今後さらに大型化した「BlueBird」を100機以上打ち上げる予定にしています。多数の低軌道衛星をリンクさせ、移動しながら地球規模で通信エリアを途切れないようにする「衛星コンステレーション」という技術を使って展開します。

<BlueWalker 3 Satellite’s Assembly, Launch, and Deployment/AST SpaceMobile>

広がる衛星ネット通信の可能性と注意点

人工衛星を用いたネット通信ができるようになると、通信可能なエリアが大幅に広がります。これまでモバイル回線では圏外だった山間部で林業や登山で使われたり、日本周辺海域での海上における航行時の通信もできるようになります。今まで使われなかった場所にIoT機器を設置できるようになるというメリットもあります。

基地局を新しく高速な接続方式に更新する場合には、すべての基地局を置き換えていく必要もあります。現在、4G(LTE)から5Gへの更新が進んでいるところで、エリアによっては5Gで接続できたり4Gのままだったりします。衛星通信では、衛星を換えることで広いエリアで変更の恩恵を受けられますので、ある日を境に急に通信速度が向上することになります。逆に衛星1基や衛星と通信する地上局が故障すると、広いエリアで影響を受けるというデメリットもあり、豪雨や雪といった天候の影響も受けやすいため、補完しつつ双方を使っていくということになると考えられます。

「衛星ネット回線」が学べる大学の学部、学科

近年の衛星ネット回線で使われているのは、550km程度の低軌道衛星です。宇宙通信を学べるのは、主に理系の工学部や理工学部です。電気電子工学や情報工学、通信工学といった専攻がある学部、通信関連の研究室を持つ大学を目指すとよいでしょう。

衛星通信研究施設を持つ大学もいくつかあります。このような施設があれば、より実践的な研究が行えるでしょう。

・大阪電気通信大学 衛星通信研究施設
http://www.osakac.ac.jp/satellite/index.html