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悲しむ人を支える【グリーフサポート】とは? 多死社会の日本でこれから重要に

あなたの身近に、深く悲しんでいる人はいますか?家族や友人など、かけがえのない人を亡くして嘆き苦しんでいる。そんな人にどう接し、支えたらよいでしょうか。そのための専門的な考え方「グリーフサポート」が日本でゆっくりと広まっています。今回はグルーフサポートについて解説します。

なぜ今、グリーフサポートが注目されるのか

大切な人・かけがえのない存在を失うことは誰にとっても辛く悲しいものです。人は昔から、その悲しみに耐え、周囲の人に支えられながら、人生を過ごしてきました。それではなぜ今になって、悲しむ人を支えるグリーフサポート(またはグリーフケア)が注目されるようになったのでしょうか。理由として次の3つがあります。

家族や地域の人たちとのつながりが薄くなった

昔の日本では、3世代同居などの大家族世帯が多く、村落共同体などの地域コミュニティーも機能していました。ところが都市化や高度経済成長により1960年代以降に核家族化が進み、さらに1990年代に入ると単身世帯が増加します。個人と地域社会とのつながりも希薄になりました。

不幸な出来事が起きたとき、昔なら家族や地域の誰かが、悲しむ人に寄り添い、支えることができました。しかし今は周囲のつながりが薄れ、一人ひとりが孤立しています。

2040年には多死社会へ

高齢社会にある現在の日本は、次の局面である「多死社会」に向かっています。厚生労働省の統計によれば、2021年の死者数は145万人で戦後最多。2040年には死者数はピークに達し、168万人になるとの予想が出ています。これからの日本は、年齢を重ねた人々と死別する機会が増えていくのです。

災害の多発

グリーフサポートの重要性が日本で認識されるようになったのは、1995年の阪神・淡路大震災がきっかけといわれています。日本では、ここ20年を振り返っても、新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震など、多くの人が犠牲になる大地震が発生しました。最近は集中豪雨や台風による甚大な被害も目立っています。

ある日突然、大切な人々の命が奪われ、悲しみの底に突き落とされる――。

残念ながら、そんな状況が、災害大国日本では繰り返されています。被災地では不適切な「心のケア」により、人々がさらに傷つく事態も問題となりました。こうしたなかでグリーフサポートの重要性が認識されるようになりました。

支えるべき「悲しみにある人」とは?

ここから、グリーフサポートとは何をするのか解説します。「深い悲しみにある人への具体的な接し方や言葉のかけ方」がわかるものと、あなたは期待するかもしれません。しかしグリーフサポートはそんなに単純ではないのです。まず、サポートを必要とするのはどんな人なのでしょうか。「グリーフ」の状態について説明します。

グリーフとは、悲しみにフタをした状態

かけがえのない存在を失うと、誰でも深い悲しみを抱え、身が引き裂かれる辛さを経験します。喪失をきかっけに湧き上がるこうした感情・状態をグリーフと呼びます(そのため、グリーフにある人を支える活動がグリーフサポートなのです)。

グリーフ(Grief)は日本語で「悲嘆」などと訳されます。グリーフサポートではこの言葉を、喪失などを経験して湧き上がってきたさまざまな感情が「閉じ込められた状態」と定義しています。つまり、気持ちを抑え込んでフタをしてしまっているのが「グリーフ」なのです。

逆に、深い悲しみにあっても、その感情や思いを自分らしく表現し、人と共有できる。そんな心のさまを、心理学用語では「モーニング(Mouning)」と呼びます。

人生を前向きに踏み出せるようにするのがグリーフサポートの目的

グリーフの状態にあると、現実に向き合うことができなくなります。例えば、わが子を、ある日突然、交通事故で亡くした母親がいるとします。子どもの死を受け入れることができない母親は、その子が生きているかのように毎日を過ごします。涙を流せば、子どもの死を認めることになるから、悲しい気持ちにフタをします。子ども部屋は、在りし日の頃と変わらずに維持し、誰かが少しでも部屋を片付けようとすると、半狂乱になって怒ります。彼女の人生は、わが子がいなくなった日で止まってしまいます。

一方、辛い喪失を経験した人でも、現実を受け入れ、気持ちに折り合いをつけることで、以降の人生を再び歩み出せます。グリーフサポートは、グリーフにある人が抑え込んでしまった感情を、その人らしく表現できるよう支えます。そのプロセスを通じて、再び人生を前向きに踏み出せるようにするのが、グリーフサポートの大きな役割です。

<グリーフサポートの第一人者・GSI橋爪謙一郎「グリーフサポート」説明映像【6分】>

深い悲しみにある人が抱えるストレス

深い悲しみにある人は、実は私たちが思う以上に、さまざまなストレスを受けています。気持ちの面ばかりフォーカスされますが、身体や人間関係などからも影響が及んでいます。そのストレスは相当に大きなもの。代表的なのは次の3つです。

悲しみは、身体の症状としても現れる

大きな悲しみは、身体にもさまざまな症状をもたらします。例えば、息苦しさ、だるさ、眠れない、または眠りすぎるなどの症状、食欲不振、頭痛や吐き気、肩や首のこり、腹痛など。また、免疫力が下がることも指摘されています。

怒り、不安、無気力などの感情も

グリーフにある人には、悲しみのほかにもさまざまな感情が湧き起こっています。例えば、絶望感、罪悪感、怒り、不安、いら立ち、無気力、無関心など。複数の感情を同時に抱くこともあれば、それぞれが変化して現れることもあります。感情の波の起伏も激しくなります。

故人を取り巻く人間関係が変わる

グリーフにある人を取り巻く、生活や人間関係の変化も、大きな影響を及ぼします。例えば、専業主婦の女性が働き盛りの夫を突然失ったとします。すると、夫を通じてつながっていた親族、友人、夫の仕事仲間といった人間関係が変わります(希薄になったり、途絶えたりします)。また、夫が亡くなったことで、暮らしを支える収入源や、日常生活で必要なサポート(電球の交換や庭の手入れなど)も失います。

頼る人がいなくなり「明日からどうやって生きていけばよいのか」という現実的な不安が襲います。誰かが亡くなるということは、その人を取り巻く人間関係そのものも変わってしまうのです。

再び前向きに人生を踏み出すためのプロセス

それでは、グリーフサポートは具体的に何をするのでしょうか。ここから、グリーフにある人を、どう支えていくのかを説明します。グリーフサポートが目指すのは、悲しみにある人が現実に折り合いをつけて再び人生を前向きに踏み出せるようにすること。そのためには、次の6つを満たす必要があると考えられています。

6つの満たされるべきニーズ

グリーフにある人に必要だと考えられているのが、次の6つです。これらのニーズを満たすために、寄り添い支えるのがグリーフサポートです。順にステップを踏むわけではなく、同時に進んだり、戻ったりします。

  1. 死別の現実を受け入れる
  2. 抱えた悲しみを表現する
  3. 故人の思い出を共有する
  4. 悲しみに折り合いをつける
  5. 周りからのサポートを受け入れる
  6. 生きる意味や生きがいを探す

①死別の現実を受け入れる

大切な人が亡くなった現実を、頭では理解しても認めたくない、という気持ちは誰もが抱きます。その現実を、時間はかかっても受け入れてもらうことがまずは最初のステップです。

②抱えた悲しみを表現する

悲しみにある人が、その感情や思いを把握し、ありのままに表現することはとても大切です。ところが日本人は、喜怒哀楽の感情表出にそもそも慣れていません。加えて「いつまでも悲しんでいてはダメだ」「前向きになろう」などと言う人もいるでしょう。さらに、悲しみにある当人が、仕事を優先するなどで、悲しみを我慢したり無視したりしてしまいます。これは後々、グリーフを長引かせることになります。

③故人の思い出を共有する

大切な人との思い出を持ち続け、共通する知人とシェアする機会は貴重です。葬儀や仏教の年忌法要の際に人が集まり、故人の思い出を語り合うことは、グリーフサポートの面でもとても意味があります。

④悲しみに折り合いをつける

大切な人を失うということは、その人だけでなく、故人と一緒にいたことで出来上がった個性や自我も一緒に失います。こうしたことに気づき、やがて新たな自我を見つけることで、再び人生を歩み出す力が生まれます。

⑤周りからのサポートを受け入れる

何かをすればグリーフから卒業できる、というものではなく、グリーフプロセスは長い年月が続きます。そのため、悲しみにある人は孤立せず、周囲のサポートを受け入れることが大切です。

⑥生きる意味や生きがいを探す

悲しみにある人は、自身が生き続けるための原動力や生きがいを無意識に探しています。そのとき、周囲は治療法や具体的なアドバイスをする必要はありません。当人が自分のペースで気持ちを表現したり考えたりしながら、探し続けることが重要です。

グリーフサポートが活用されている分野

ここまで、グリーフサポートの概要をお伝えしました。グリーフサポートの考え方は、大切な誰かが亡くなるなどの、死別の悲しみだけが対象ではなく、さまざまな喪失にあてはまります。ペットロスはもちろん、長く勤めてきた会社を辞めたり、住み慣れた家を離れたり、人によっては肌身離さず持ち歩いていた大切なモノをなくしたり、といったことも喪失体験です。その意味では、人の心のあり様を広く対象としています。

グリーフサポートの考え方を取り入れたサービス

グリーフサポートの考え方はもともと欧米で始まり、現在もイギリス、オーストラリア、アメリカで活動が盛んです。日本では、自助グループやボランティアを中心とした支援活動、セミナーや研究会活動が展開しています。

そんななかで近年、ビジネスの世界において、人の気持ちに配慮したサービスの大切さが重視されるようになり、グリーフサポートの考え方を取り入れた接客やサービスが始まっています。代表的なのは、病院などの医療機関、介護施設、葬儀会社など。最近では金融機関でも、遺族に配慮のない対応をしないようにと、グリーフサポートの観点からマナーを学ぶ姿勢がとられています。またここ数年のコロナ禍により、グリーフサポートの大切さは一層注目されています。

「グリーフサポート」が学べる大学、学部

上述のとおり、日本では自助グループによる勉強会などの活動が主なものでした。そのなかで大学院を中心に、心理学、人間学、死生学、宗教学、社会福祉の分野でグリーフサポートを扱うところが現れています。代表的な教育機関は上智大学のグリーケア研究所です。興味のある方は、それぞれ調べてみてください。

・上智大学グリーフケア研究所
https://www.sophia.ac.jp/jpn/otherprograms/griefcare/index.html

・武蔵野大学大学院人間学専攻
https://www.musashino-u.ac.jp/gakumu/youran/2015/daigakuin/ningensyakai/corse04.html

参考

・グリーフサポート研究所
https://www.griefsupport.or.jp/