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「デジタル円」で紙幣はなくなる? 電子マネー、CBDC、ステーブルコイン、暗号資産【デジタル通貨】の違い

最近では交通系ICカードやQRコードが広く普及したので、すでに財布を持たない生活をしている人もいるかも知れません。今回は紙幣や硬貨ではない、デジタル情報のみを所有し売買のやり取りもする「デジタル通貨」について解説してみます。

「デジタル通貨」はデジタル化したお金

誰でも日常的に慣れ親しんでいると思いますが、通貨やお金とは、商品やサービスを購入するために使われる流通貨幣のことです。国が信用を与えて、一定の価値の尺度で交換や支払い、価値の貯蔵ができるように発行しているものです。国ごとに決めた国内の通貨レートで価値を認めています。

「デジタル通貨」という概念は、キッチリ定義が定まっているわけではありませんが、紙幣や硬貨のような現金ではなくデジタルの状態で持つことができたり、支払いができるデジタルの「お金」と考えるとよいでしょう。支払い方法の観点では、「キャッシュレス決済」と呼ばれます。

デジタル通貨の種類

種類 発行主体
電子マネー 民間 Suica、PayPay、楽天Edy
中央銀行デジタル通貨(CDBC) 国(中央銀行) デジタル円、デジタルドル、デジタル人民元
ステーブルコイン 民間 Tether、DAI、JPYC
暗号資産(仮想通貨) 基本なし ビットコイン、イーサリアム

身近なデジタル通貨「電子マネー」

デジタル通貨のもっとも一般的な使われ方は、電子マネーでしょう。スマホやICカードを使ってタッチ決済したり、QRコードを使って支払いをするタイプなど、利用方法はさまざまありますが、いずれにしても、支払う前にスマホアプリやICカードに必要な分だけの金額をチャージしておいてから使う、プリペイド型が大多数です。

ほかにもアプリを使った送金サービスと支払いが可能なサービスや、デジタルギフト券、ポイントサービスも広義ではデジタル通貨といえるでしょう。

<国内のキャッシュレス決済利用率 初の30%超 韓国では96%(2022年6月1日)>

<キャッシュレス決済の種類と仕組みを理解しよう:消費者庁>

国が発行するデジタル通貨(CBDC)も出現

このように多様なデジタル通貨を使ったキャッシュレス決済サービスが出現していますが、これらはすべて日本円(日本の場合)という法定通貨をベースに交換できることで通貨の価値を保証しています。これを一歩進め、国が発行主体になった中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)も、世界的に見るとすでにいくつか使われています。

例えばカンボジア国立銀行は「バコン」というQRコード払いのデジタル通貨を、日本企業との共同開発で2020年から実際に使いはじめています。中国人民銀行の「デジタル人民元」は、北京五輪や深セン市などで実証実験を始めています。

アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)では「デジタルドル」も検討され、日本では日本銀行が「デジタル円」の実証実験を2021年から行っています。実際に発行して広く使えるようになるには、法改正が必要になりますが、2022年以降の発行を目指しています。

・中央銀行デジタル通貨 日本銀行
https://www.boj.or.jp/paym/digital/index.htm/

このような国が発行する法定通貨建てのデジタル通貨は、デジタルのため偽造が困難なこと(偽造防止にブロックチェーンが使われることが多い)、持ち運ぶ必要がなく盗難が難しいこと、支払時に触れる必要がないこと(特にコロナ禍では重要です)、さまざまなサービスやアプリケーションに結びつけやすいなどのメリットがあります。

ブロックチェーンを活用した通貨「ステーブルコイン」

ほかにも「デジタル通貨フォーラム」は、民間が開発する日本円をベースとしたデジタル通貨「DCJPY」を、2022年内発行を目指しています。こちらは国ではなく民間が主体になっていることと、ブロックチェーンを使いデータの真正性を保っているデジタル通貨で、日本円による価値を担保した「ステーブルコイン」であることが特徴です。企業間の商取引にメリットが多いことから、プライチェーンでの業務効率化の実証実験が行われています。

<ブロックチェーンの基礎 サイバー大学>

<決済の未来フォーラム デジタル通貨分科会:中央銀行デジタル通貨を支える技術 日本銀行>

ビットコインだけじゃない。【ブロックチェーン】はデジタル社会を支える重要な技術!仮想通貨という言葉をニュースなどで聞いたことがあるのではないでしょうか。現金とは異なる、新しいしくみのお金のことです。この仮想通貨を支え...

暗号資産(仮想通貨)は投資目的?

ブロックチェーンを使ったデジタル通貨としては、ビットコインに代表される暗号資産(仮想通貨)がありますが、こちらはプログラムが計算により生み出したもので発行主体もなく、中央銀行の信用の裏づけもない通貨です。

ブロックチェーンを使っている点では同じデジタル通貨ですが、自国通貨の裏づけのあるステーブルコインとは分けて考える必要があります。特定の国で使われることを想定したものでもなく、無国籍の通貨であることも特徴です。暗号通貨はプログラムにより複雑な計算をさせる「マイニング」作業をすると、誰でも資産を得ることができることも特徴です。

暗号資産交換所を介して法定通貨や電子マネーやほかの暗号資産に交換することができ、短期間で大きく価値が上下することから、主に投資対象として扱われています。支払い方法として対応した店で購入に使うこともでき、通貨の信用が低い国の通貨から預金目的で使われることもありますが、変動が激しく決済にも時間がかかることから、実用的な貨幣ではありません。資金洗浄(マネーロンダリング)に使われやすいことや、マイニングに電力を大量消費することによる環境破壊などの問題も指摘されています。

ビットコインを、国の正式な「法定通貨」とする動きも

とはいうものの、ビットコインは2021年にエルサルバドルの法定通貨になっています。自国通貨を持たないエルサルバドルでは米ドルが通貨として使われていましたので、大胆な決定ができたのだと思われますが、経済の弱い国では国際的な送金サービスが利用できるだけでもメリットがあります。ほかにも中央アフリカも2022年4月から法定通貨としてビットコインを採用するほか、アルゼンチンやパラグアイでも採用の動きがあります。

日本では、2022年6月に資金決済法の改正案が成立し、1年以内に施行される予定です。これによりブロックチェーンを使った金融商品は、法律によって「国の信用で裏づけしたデジタル決済のステーブルコイン」と「投資対象としての暗号資産」に分類されたといえるでしょう。これから数年で、ステーブルコインは広く普及していくと思われます。

<初心者でもすぐにでも始められる暗号資産(仮想通貨)投資>

「デジタル通貨」が学べる大学の学部、学科

デジタル通貨に興味を持ったなら、金融関連について学ぶとよいでしょう。金融に関するテクノロジーはフィンテックとも呼ばれ、金融を技術的な面から学ぶことも考えてもよいでしょう。文系か理系かは関係なく双方の知識が必要で、学問としての分野は金融学、経済学などが考えられます。

例えば、武蔵大学経済学部には金融学科があります。金融工学やブロックチェーンに関しては、工学部や理工学部などで学ぶことができます。各大学の研究機関をチェックしてみると、関連の学部や教授がいることが分かります。大学の研究機関としては「東京大学金融教育研究センター」や「慶應義塾FinTEKセンター」などがあります。

・武蔵大学経済学部 金融学科
https://www.musashi.ac.jp/faculty/economics/finance/index.html

・慶應義塾FinTEKセンター
https://ies.keio.ac.jp/attached-center/fintek/

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