データを分析し、ビジネス課題を解決するデータサイエンティストの需要が高まり、データサイエンスの授業を行う大学も増えています。今回「スタディラボ」が注目した授業は、慶應義塾大学で田代光輝先生が行っている「情報と社会のデータサイエンス」。田代先生に授業内容や「データサイエンス」を学ぶ上で大切なことをお聞きました。
慶應義塾大学大学院
政策・メディア研究科 特任教授
田代光輝(たしろ みつてる)先生
研究テーマは、インターネット上でのいじめや未成年誘い出しの予防策、「炎上」と呼ばれるネットトラブル対策など。自身のTwitterでは、ケーススタディとして坂道シリーズ(坂道G)に注目。フォロワー数などから分析を行い、写真集の売上部数を予測している。
田代先生が語る「情報と社会のデータサイエンス」の特色
<データサイエンスを学ぶ心得とは>
提案ができないデータ分析は、意味がない
売上データや顧客データなどを持っていても、多くの企業ではそれらを活用しきれていません。この授業では、データを扱うための手法だけでなく、実社会でデータサイエンスをどのように活用していくか、実務での例を交えながら教えています。
授業は、提案書を作るというゴールに向けて、講義と演習で進めていきます。提案ができないデータ分析は、意味がありません。提案書を作るためにどう分析していくかを、考えることが重要なのです。
データを渡されたら、「クライアントは誰」で「何を求めているか」を確認し、「何のために」「何を変えるのか」を考えます。相手の心を動かすためには、相手のリスクを最小限にして、相手が実行可能な提案をしなければなりません。
授業の初日は皆さん、データを見ても何をしたらよいかわからない状態です。そこから、自分の足りないところに気づき、データに基づいた分析や判断が下せるようになっていきます。
目指すのは「分析のやり方を示せる力」を身につけること
この授業では、統計学の専門家を育てるのではなく、データサイエンティストをマネジメントできる人を育てたいと思っています。ですから、将来、人の上に立つ立場を目指す人にぜひ受講してほしいです。
統計ソフトを使いこなせる人は、工学部などにたくさんいます。不足しているのは、データを活用するためのオーダーが出せる人や統計のウソを発見できる人です。統計を使えば、自分に有利になるようなデータだけを集めて、それらしい提案をすることもできてしまいます。ですから、提出されたものをチェックできる力が必要です。
授業の中では、統計ソフトを使った分析も行いますが、ソフトを使いこなすことだけが目的ではありません。起業したり、組織のリーダーになった時に、データ分析のオーダーが出せて、分析のやり方を示せる力を身につけることを目指しています。
先生の授業、ここにも注目!
田代先生は、企業での勤務経験がある実務家教員です。企業での経験を活かして、社会のニーズを踏まえた授業を行っています。
社会に出たら、新人だからといって、細かく丁寧に指示を出してもらえるとは限りません。限られた時間の中では、「精度よりも時間優先」で仕上げなければならないこともあります。
田代先生の授業では、指示や依頼でよく使われるフレーズや、知らないとやってしまいがちな失敗例などを取り上げて解説。実社会でよくある話を盛り込みながら、ビジネス文書の作り方なども教えています。
起業した人が投資家に何かを説明する場合、相手の貴重な時間を奪わないように、要点をまとめて話す力が必要です。エレベーターに乗ってから降りるまでの短い時間でも説明できるように、“エレベータートーク”と呼ばれる「伝える技術」なども学ぶことができます。
授業の基本情報 「情報と社会のデータサイエンス」
科目名 | 情報と社会のデータサイエンス |
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単位 | 2単位 |
大学、学部 | 慶應義塾大学 総合政策学部 環境情報学部 |
多様なデータを大量に蓄積できるようになったが、多くの企業ではそれらを活用できる人材が不足している。授業では、統計のテクニックだけでなく、与えられたデータから、「何を目的に何を変えるか」を明確にし、相手を説得できるレポーティング力を身に着けられるように構成。Microsoft Excelや統計ソフト「R」を利用したデータ分析、ビジネス文書の作り方などを学び、決裁者向けの提案書を作成することを目指す。