高校を卒業する前に、大学に入学できる「飛び入学」の制度。実は、日本では23年前に導入され、これまでに約140名が制度を利用しています。対象となるのは、特定の分野で非常に優れた能力を持つ高校生です。「飛び入学」制度の内容と、「飛び入学」に関する最新の話題を紹介します。
「飛び入学」制度とは?
そもそも「飛び入学」とはどのような制度でしょうか。文部科学省では、「特定の分野について特に優れた資質を有する学生が、高等学校を卒業しなくても大学に入学することができる制度」と説明しています。
ただし、高校に2年以上在学していることが条件なので、高校1年生や中学生以下ではどんなに優れた能力があっても、飛び入学の対象にはなりません。一方、高校に通っていなくても、「高等学校卒業程度認定試験(高卒認定試験)」の必要な科目に合格した満17歳以上であれば、例外措置として同様に飛び入学の条件を満たします。
「飛び入学」専用の入学試験を経て、入学が認められたら、高校2年生が終了した段階で大学に入学することができます(春入学の場合)。
大学⇒大学院にもある「飛び入学」の制度
この記事では紹介しませんが、大学から大学院に進む際の「飛び入学」制度もあります。
大学⇒大学院の飛び入学は、大学に3年以上在学(またはこれに準じている)学生のうち、必要な単位を優秀な成績で取得した人が対象です。飛び入学を利用する場合は、大学4年を経ずに大学院に進学することになります。
「飛び入学」制度が設けられた理由は?
さて、飛び入学という制度はなぜ作られたのでしょうか。文部科学省では、飛び入学制度の目的を次のように説明しています。
飛び入学制度は、一人一人の能力・適性に応じた教育を進める観点から特定の分野で特に優れた資質を有する者に早期に大学入学の機会を与え、その才能の一層の伸長を図ろうとするものです。
(文部科学省:大学への飛び入学について)
つまり、ある分野で突出した能力を持っているような学生は、飛び入学によって少しでも早く大学に進み、早めに専門的な勉強を始めてその能力を一層伸ばすといいですよ、ということなのです。
また、飛び入学制度によって優秀な人材を増やすことは、国の将来にとってもプラスになります。
背景にあるのは戦後の教育制度が抱える問題点
飛び入学制度が生まれた背景には、戦後日本の教育制度が抱える問題点があります。戦後の日本では、年齢別に同じ教育を受けるという教育の平等性を重視してきました。もちろん、誰もが同じ教育を受けることは非常に重要で、全体的に教育水準を向上させることにつながりました。
その一方で、一人ひとりの能力や個性を伸ばす教育については、取り組みが十分ではないという指摘もありました。そして、さまざまな議論を経た上で、1997年に学校教育法が改正。特に優れた能力を持つ学生を対象とする「飛び入学」の制度が導入され、翌98年に千葉大学で初の飛び入学合格者が誕生しました。
「飛び入学」制度のある大学・学部
現在、飛び入学制度を設けているのは下記の8大学です。
「飛び入学制度」を設けている大学
大学名 | 対象学部 | 導入年度 | 累計入学者数(2020年度まで) |
---|---|---|---|
千葉大学(国立) | 文学部・理学部・工学部・園芸学部 | 1998年度 | 95名 |
名城大学(私立) | 理工学部 | 2001年度 | 26名 |
エリザベト音楽大学(私立) | 音楽学部 | 2005年度 | 3名 |
会津大学(公立) | コンピュータ理工学部 | 2006年度 | 9名 |
日本体育大学(私立) | 体育学部 | 2014年度 | 2名 |
東京藝術大学(国立) | 音楽学部 | 2016年度 | 2名 |
京都大学(国立) | 医学部 | 2016年度 | 0名 |
桐朋学園大学(私立) | 音楽学部 | 2019年度 | 1名 |
すでに廃止しているため表には入れていませんが、過去には昭和女子大学や成城大学でも飛び入学制度を設けていた時期があります。
理系だけでなく文系の学部でも
飛び入学というと、なんとなく理系のイメージを持つ人もいるかもしれません。しかし、表を見てわかるように文学部(千葉大学)や音楽学部(エリザベト音楽大学、東京藝術大学、桐朋学園大学)、体育学部(日本体育大学)といった学部でも飛び入学を実施しています。
なお、表の中では飛び入学による入学者が0人となっている京都大学医学部ですが、2021年度に初めて飛び入学による合格者を出しています。
「飛び入学」の二つの条件
冒頭で触れたように、飛び入学を利用するには二つの条件を満たす必要があります。一つめは、高校に2年以上在学していること(=高校2年生)で、二つめは「特定の分野について特に優れた資質を有していること」です。
飛び入学に必要な資質はどれくらい?
飛び入学を検討している人にとって気になるのは、「特に優れた資質」のレベルではないでしょうか。文部科学省の飛び入学に関するQ&Aページでは、例として以下の二つを挙げています。
- 国際化学オリンピックなど各種の国際的なコンテストにおける成績
- スポーツや芸術分野などの国内外のコンテストにおける顕著な成績
実際、日本体育大学や東京藝術大学、桐朋学園大学では、国際大会での実績が飛び入学の出願条件の一つになっています。
ただ一方で、国際的なコンテストなどでの入賞が出願の必須条件ではない大学・学部もあります。コンテストなどでの実績がなくても、自分の能力と意欲に自信がある場合には、目当ての大学のWebサイトで、飛び入学のページで出願条件を確認した上で、学校の先生などに相談してみるとよいでしょう。
・飛び入学制度に関するQ&A(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shikaku/07111318/001/001.htm
飛び入学の入学試験では「面接」が必須
飛び入学の出願条件を満たしている場合は、必要な書類を提出して出願し、試験を経て合格が決まります。もちろん、試験で不合格になるケースもあります。
試験の詳細はそれぞれの大学によって異なりますが、必ず行われるのが面接です。また、音楽学部では実技試験も必須となっています。ほかには、英語など学科試験や、小論文、あるテーマに関するプレゼンテーションや口頭試問などを課す大学もあります。
「飛び入学」のメリット
飛び入学の最大のメリットは、1年早く大学に入学して専門的な学びを人より早く始められることです。
また、大学によっては飛び入学した学生が思う存分学び、能力を十分に発揮できるように、さまざまな「特典」も用意していて、それらも飛び入学ならではのメリットといえます。
例えば、千葉大学の場合は、所属する学部・学科の授業科目に加えて、飛び入学の学生専用カリキュラムに基づいた少人数教育を受けることができます。また、東京芸術大学では、個人レッスンの時間を通常カリキュラムから倍増したり、海外一流演奏家による特別レッスンなどの機会を優先的に提供したりするとしています。
「飛び入学」をしているのはどんな人?
日本では、これまで飛び入学で大学に進んだ人の絶対数が非常に少ないため、飛び入学はなかなかイメージしにくいという人が多いのではないでしょうか。一部の大学では、飛び入学関連のWebページなどで飛び入学経験者のインタビューや紹介を掲載しています。ぜひ一度読んでみることをお勧めします。
飛び入学利用者がもっとも多い千葉大学では、複数の先輩からのメッセージを掲載しています。飛び入学を決めたきっかけや実際に進学してみての感想、どのように将来の夢に歩みを進めているかなど、飛び入学に興味のある人にとって参考になります。
・千葉大学 先輩からのメッセージ
https://www.cfs.chiba-u.ac.jp/early_admission/s_message/index.html
名城大学のニュースページでは、2021年4月理工学部数学科に飛び入学した学生を紹介しています。名城大学では27人目の飛び入学生です。
・名城大学 「飛び入学生」を迎え、理工学部数学科が新風を期待
https://www.meijo-u.ac.jp/news/detail_24630.html
「飛び入学」の問題点と解消に向けた歩み
では、飛び入学にデメリットはないのでしょうか。
人によっては、高校の友人と一緒に卒業できないことや友人と離れ離れになること、高校3年の行事に参加できないことなどを挙げるかもしれません。また、大学ではもっとも年下になるので、飛び入学後に友人ができるか不安だという人もいるでしょう。
しかし、最大の問題点は、仮に大学を中退してしまった場合、最終学歴が中卒(中学卒業)になってしまうことだといわれています。現在の飛び入学の制度では、高校を中退して大学に入る形になっているため、高卒資格は得られないのです。
ただ、この問題点は今後解消されていくと見られています。「飛び入学が普及しないのは、高卒資格が得られないことが一因ではないか」。最近になって、ようやくそんな議論がされるようになってきたためです。
2021年2月などに開かれた教育再生実行会議合同ワーキング・グループでも、飛び入学の場合には高校の早期卒業を認めてもよいのではないかという意見が出ていて、そう遠くない時期に新たな「飛び入学」制度が創設される可能性があります。
参考
大学の飛び入学について(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shikaku/07111318/001.htm