大学受験の基礎知識

大学での研究を社会に生かす【大学発ベンチャー】とは? 多い業種と具体例

大学は、学修や研究の場です。でも、それだけではありません。実は、新しい事業やそれを運営する企業を次々に世に送り出している拠点でもあります。そうした企業は「大学発ベンチャー」と呼ばれ、特に大学での研究成果を生かして、これまでにないモノやコトを生み出せる点に強みを持っています。「大学発ベンチャー」とはどんなものか、その基本を知っておきましょう。

そもそも「ベンチャー企業」とは?

「大学に入ったら、仲間を作って起業したい」という夢を持っている高校生もいるのでは? 「大学発ベンチャー」は、そのような人たちにとって非常に関心の高いテーマではないでしょうか。

大学発ベンチャーの話に入る前に、まずは「ベンチャー企業」とは何かを確認しておきましょう。

一般的にベンチャー企業とは、時代の変化などに応じて既存の企業にはない新しい技術やアイデアを開発し、事業化している新興企業のことです。普通の企業との違いは、これまでにない「新しい技術やアイデア」の有無といえるでしょう。

「大学発ベンチャー」の分類と主な業種

大学発ベンチャーは、大学との関わりが深いベンチャー企業を指します。

日本総合研究所が、2020年2月に発表した「産業技術調査事業(大学発ベンチャー実態等調査)」によると、2019年の大学発ベンチャーの企業数は2,566件です。大学発ベンチャーは、調査が開始された2014年度以降、年々その数を増やしています。

大学発ベンチャーデータベース:経済産業省
https://univ-startups.go.jp/

大学からベンチャー企業が生まれやすい理由は、大学で進められている最先端の研究成果を、ベンチャー企業として事業化することで広く社会に還元できるからです。

大学発ベンチャーは、大学に潜在する研究成果を掘り起こし、新規性の高い製品により、新市場の創出を目指す「イノベーションの担い手」
<経済産業省「大学発ベンチャーについて」より>

大学発ベンチャーには5つの種類がある

「大学発」と付いているので、学生あるいは教授や准教授などの教員が始めるベンチャー企業だけを指すと考える人もいるかもしれません。しかし、大学発ベンチャーにはさまざまな種類があります。先ほど紹介した調査では、以下の5つに分類しています。

大学発ベンチャー5つの分類

分類 概要
研究成果ベンチャー 大学での研究成果に基づく特許や、新たな技術などを事業化する目的で新規に設立されたベンチャー
共同研究ベンチャー 創業者の技術やノウハウを事業化するために、設立5年以内に大学と共同研究などを行ったベンチャー
技術移転ベンチャー 既存事業の維持・発展のため、設立5年以内に大学から技術移転を受けたベンチャー
学生ベンチャー 大学と深い関連のある学生ベンチャー
関連ベンチャー 大学からの出資があるなど、大学と深い関連のあるベンチャー

この中で、最も数が多いのは大学での研究成果を事業に結びつけるという、研究成果ベンチャーです。大学発ベンチャー全体の57.4%を占め、1,473件に上ります。また、2番目に多いのは学生ベンチャーで、全体の21.9%、企業数は563件です。

この調査では、学生ベンチャー以外の分類で学生が関わっているかどうかは不明です。しかし、少なくとも大学発ベンチャーでは学生の存在感が小さくないことがわかります。

大学発ベンチャーで多い、IT系やバイオ・ヘルスケア系

次に、大学発ベンチャーの業種を見ていきましょう。こちらも、日本総合研究所の調査に2019年度のデータがあります。

大学発ベンチャーの業種別数

業種 VB数
IT系(アプリケーション、ソフトウエア、ハードウエア) 969件
バイオ・ヘルスケア・医療機 769件
ものづくり(ITハードウエア除く) 487件
環境テクノロジー・エネルギー 243件
化学・素材などの自然科学分野(バイオ関連除く) 217件
その他サービス 726件

大学発ベンチャーで特に多い業種は、新しい技術が次々に開発され、進化のスピードが非常に速いIT系、また世界的にも注目度の高いバイオ系、ヘルスケア系などです。ただ、「その他サービス」も726件あり、多様な業種で大学発ベンチャーが生まれていることがわかります。

大学でどんな分野に進んでも、大学発ベンチャーを志す道はありそうです。

「大学発ベンチャー」の具体例

大学発ベンチャーにはどのような企業があるでしょうか。ここでは、いくつか企業を簡単に紹介します。いずれも、現在は証券取引所に株式を上場し、多くの人に知られている大学発ベンチャー企業です。

「mixi」や「モンスト」でおなじみのミクシィ

株式会社ミクシィhttps://mixi.co.jp/)は、日本発のSNS「mixi」やスマホゲームアプリ「モンスターストライク」などで知られる企業です。創業者は、東京大学在学中の1992年に求人情報サイト「Find Job!」の運営を開始し、2年後には会社を設立しました。

「ミドリムシ」で社会の問題解決を図るユーグレナ

株式会社ユーグレナhttps://www.euglena.jp/)は、藻の一種で栄養豊富なミドリムシ(学名はユーグレナ)を使った食品や化粧品の製造販売をしている企業です。また、ユーグレナによるバイオ燃料の研究開発も行っています。創業者は、東京大学在学中にユーグレナの研究開発に携わり、一般企業を経て2005年にユーグレナを設立しています。

企業などへのWeb会議サービスを提供するブイキューブ

株式会社ブイキューブhttps://jp.vcube.com/)は、2020年現在ではすっかりおなじみになったWeb会議システムなど、Webを介したコミュニケーション関連サービスの提供を、いち早く始めた企業のひとつです。創業者は、現在の会社の前身となる有限会社を、慶應義塾大学在学中の1998年に設立。2002年には母校である慶應義塾大学と資本提携もしています。

遺伝子医薬品の研究開発を行うアンジェス

アンジェス株式会社https://www.anges.co.jp/)は、遺伝子医薬品などの研究開発を行う創薬ベンチャーです。1999年に、当時大阪大学医学部で助教授として遺伝子治療の研究に取り組んでいた創業者が、前身となる企業を設立しました。現在は、新型コロナウイルス感染症向けに関わる研究開発もしています。

大学によるベンチャー創出の支援策

大学によっては、さまざまな形で「大学発ベンチャー」の育成や支援を行っています。

最も多いのは、ベンチャー育成・支援に関する相談窓口の設置です。また、他にもインキュベーション施設(ベンチャーとして創業を目指す人たちが利用できる研究施設や事務所スペース)を貸し出したり、起業家育成のための独自プログラムを用意したりという大学もあります。

国立大学・私立大学、ベンチャー育成・支援の実例

ここでは、2つの大学の取り組みを紹介します。

東京大学 「起業・大学発ベンチャー支援」

東京大学は大学発ベンチャーの件数が最も多い大学で、支援にも力を入れています。学内には「産学協創推進本部」という部署があり、起業や経営の相談に応じたり、インキュベーション施設を用意したり、また「東京大学アントレプレナー道場」という講座も設けています。
https://www.ducr.u-tokyo.ac.jp/activity/venture/index.html

関西大学 「イノベーション創生センター」

関西の私立大学・関西大学では、「社会連携部」の中に「イノベーション創生センター」を設置。インキュベーションセンターなどの設置のほか、起業を目指す人向けの講座や、関西大学の最先端技術や研究成果を対象としたビジネスアイデアコンテストなども実施しています。
https://www.kansai-u.ac.jp/renkei/innovation/index.html

「大学発ベンチャー」は誰でも目指せる!

どの大学、どの学部に進んでも、「大学発ベンチャー」を志すことはもちろん可能です。大学によって差はあるものの、創業に向けて何らかの支援を受けられる可能性もあり、さらに大学によっては起業家を目指すサークルなども存在しています。

起業に関心がある人は、将来のベンチャー創業も視野に入れながら、今からさまざまな方向に好奇心のアンテナを高く張っておくとよいでしょう。

参考

・令和元年度 産業技術調査事業(大学発ベンチャー実態等調査)報告書
https://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/start-ups/r1venturereport_r.pdf