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【フェアトレード】で発展途上国を支援! 持続可能な社会の実現を目指す仕組み。大学でも取り組み増える

毎年バレンタインデーの頃には、「フェアトレード」のチョコレートが話題に上ります。実際、2022年2月もニュースなどで取り上げられていました。しかし、発展途上国の農産物や製品を適正な価格で購入する「フェアトレード」は、季節ネタや一過性の話題で終わるべきものではありません。今回は、「フェアトレード」の基本や日本での取り組みの状況などを説明します。

「フェアトレード」とは?

フェアトレードとは、直訳すると「公正・公平な貿易」のこと。発展途上国で生産・製造された農産物や製品などを適正な価格で継続的に購入することで、途上国の生産者や労働者の経済的自立や社会的発展を目指すという「貿易の仕組み」を指します。

発展途上国から輸入された食料品や衣料品、日用品とその原料の中には、相対的に非常に低価格のものがあります。消費者にとっては、低価格はうれしいことですが、その背景にあるのは途上国の労働者の不当な低賃金や強制労働、違法な児童労働などかもしれません。フェアトレードの目的は、端的にいうとそのような途上国の状況をよりよい方向に変えることです。

適正な価格で貿易が行われるようになれば、労働者の賃金がアップして、児童も働かずに学校に通えるようになります。そして、生活に余裕が生まれ、適切な教育を受ける人が増えていけば、途上国を経済的に社会的にも発展させていくことが可能になります。

フェアトレードを見分けるための認証システム

では、どの商品がフェアトレードによるものなのか、一般消費者はどうやって見分ければよいでしょうか。

フェアトレードには国際的な認証システムがあり、それぞれの認証基準をクリアした商品や団体は「認定ラベル」を商品などに表示することができます。消費者は、ラベルを見ることでフェアトレード商品を見分けることが可能です。

フェアトレードには複数の認証基準がありますが、代表的なものは次の二つのフェアトレード関連組織によるものです。

① 国際フェアトレード・ラベル機構(FLO)

フェアトレードの最低価格保証といった経済的基準、安全な労働環境や児童労働の禁止などの社会的基準、農薬の使用削減などの環境基準という3三つの基準を満たした商品に「国際フェアトレード認証ラベル」を与えます。フェアトレードの対象となる地域や、コーヒー、カカオ、スパイス、ナッツといった対象産品・製品にも規定があります。

② 世界フェアトレード機関(WFTO)

フェアトレード活動に取り組む企業・団体が加盟できる組織です。加盟企業は、生産者に公正な対価を支払う、 児童労働および強制労働を排除する、環境に配慮するといった10の指針を遵守する必要があります。加盟企業が扱う製品には、別途審査の上「WFTO認証ラベル製品」が与えられます。手工芸品や衣料品など、「国際フェアトレード認証ラベル」の対象とならない製品などが中心です。

<「フェアトレードとは? 国際フェアトレード認証のしくみについて」フェアトレードジャパン>

「フェアトレード」は世界全体にとって意味がある

フェアトレードは、発展途上国を支援するだけのものではなく、先進国も含めた世界全体にとって意味のあるものです。なぜなら、フェアトレードによって発展途上国が豊かになれば、世界全体の経済を押し上げる効果があるからです。また前述のとおり、フェアトレードの認証基準には環境に関わるものもあり、フェアトレードの普及によって環境に配慮された農産物や製品が市場に増えていく効果も期待できます。

フェアトレードとSDGsとの関わり

2030年までに世界が達成すべき目標として国連サミットで採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」も、フェアトレードと深い関わりがあります。SDGsの17の目標の中には、フェアトレードが目指すものと重なるものがいくつもあるからです。

具体的には、

  • 目標1.貧困をなくそう
  • 目標4.質の高い教育をみんなに
  • 目標8.働きがいも経済成長も
  • 目標10.人や国の不平等をなくそう
  • 目標12.つくる責任つかう責任
  • 目標15.陸の豊かさを守ろう

などです。SDGsは、持続可能な社会を実現するために、世界中の人がみんなで取り組むべき目標です。このことからも、フェアトレードが発展途上国の人々だけでなく、誰にとっても重要であることがわかるのではないでしょうか。

日本国内の「フェアトレード」の現状

フェアトレードは、日本国内でも徐々に浸透しつつあります。ただし、欧米に比べると現状は「まだまだ」といわざるを得ません。

10代では約80%が「フェアトレード」を知っている

2019年に一般社団法人日本フェアトレード・フォーラムが実施した調査によると、フェアトレードの知名度(言葉を見聞きしたことがあるか)は53.8%で、全体の約半数が知っているという結果でした。

年代別では、10代の知名度が78.4%なのに対して、60代では39.3%にとどまっています。若い世代は、学校などでSDGsを学ぶ機会が多く、その際に併せてフェアトレードも学ぶのではないかと考えられます。これから先、消費の主役そして社会の主役になっていく若い世代の知名度が高いことで、フェアトレードは今後ますます広がっていくことが期待できそうです。

※出所)フェアトレードに関する意識・行動調査(日本フェアトレード・フォーラム)
http://fairtrade-forum-japan.org/wp-content/uploads/2019/10/265e39faa78ff62d9fb9ef5661682779.pdf

コロナ禍でも増加を続ける国内のフェアトレード市場

フェアトレード製品の国内の市場規模も見ておきましょう。すでに述べたように、フェアトレード製品の認証方法には複数のものがありますが、ここでは「国際フェアトレード認証ラベル」を取得した製品の販売数値から推定しています。

フェアトレード認証製品の2020年の推定市場規模は、131.3億円でした。直近5年間の推移では、

推定市場規模
2016年 113.6億円
2017年 118.6億円
2018年 124.1億円
2019年 124.1億円
2020年 131.1億円

と右肩上がりで増えています。

また、国民1人当たりのフェアトレード製品の年間購入額

年間購入額/人
2016年 90円
2017年 94円
2018年 98円
2019年 98円
2020年 104円

と 毎年少しずつ増えています。

特に、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、消費全体は前年から減少したにもかかわらず、フェアトレードの市場規模は拡大し、1人当たりの購入額も増えています。フェアトレードは、日本国内でじわじわと広がっているといえるでしょう。

フェアトレード先進国と比較するとまだまだ小規模

フェアトレード先進国と言われる欧米と比較すると、少し違った状況も見えてきます。

2020年のドイツの推定市場規模は2374億円で、131.3億円の日本の約18倍です。また、データを公表している国の中で、1人当たりのフェアトレード製品の年間購入額がもっとも多いスイスと比較すると、スイスの1万1267円に対して日本は104円で、実に約108倍もの差がある状態です。

※参考)【国内海外フェアトレード市場動向】国内市場規模131.3億円とコロナ禍にも関わらず伸張
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000082348.html

地域全体、大学全体で「フェアトレード」に取り組む

フェアトレードをもっと普及させるにはどうしたらよいでしょうか。その方法の一つとして挙げられるのが、地域全体でフェアトレードに取り組む「フェアトレードタウン」という活動です。また、大学全体でフェアトレードに取り組む「フェアトレード大学」という活動もあります。

2000年にイギリスで始まったフェアトレードタウンの活動は、現在では世界30カ国以上で実施されています。一方、フェアトレード大学は、2003年にイギリスのオックスフォード・ブルックス大学が第1号として認定されています。

日本では、フェアトレードタウン、フェアトレード大学とも、日本フェアトレード・フォーラムがイギリスなど海外の基準を参考に認定基準を策定して、認定を行っています。

熊本や名古屋など「フェアトレードタウン」は国内に6都市

フェアトレードタウンは、地域の行政や企業・商店、市民団体などが一体となってフェアトレードを推進することで、その輪を広げていこうという活動です。地域全体で盛り上げることで、住民の間にもフェアトレードが浸透していくことが期待できます。

世界には2182カ所のフェアトレードタウンがありますが、日本国内では現在、熊本県熊本市、愛知県名古屋市、神奈川県逗子市、静岡県浜松市、北海道札幌市、三重県いなべ市の6都市が認定されています(2021年10月時点)。各フェアトレードタウンでは、フェアトレードに関するイベントやセミナーの開催、フェアトレード商品の取り扱いの推進といったさまざまな活動を行っています。

「フェアトレード大学」は青山学院大学など現在4大学

フェアトレード大学は、大学としてフェアトレードの理念に賛同し活動に取り組んでいる大学を認定するものです。世界的には欧米を中心に、285大学(2021年10月時点)がフェアトレード大学に認定されています。国内では、2018年2月に静岡文化芸術大学が認定され、その後、札幌学院大学、北星学園大学、そして2021年7月に国内4大学めとなる青山学院大学が認定されました。

フェアトレードの普及を目指す学生団体があること、大学当局がフェアトレードの製品を継続的に調達している、複数のフェアトレード製品がキャンパス内で買えるなど、フェアトレード大学の認定を受けるには六つの基準をクリアする必要があります。

例えば青山学院大学では、複数の学生団体がフェアトレードに関する活動を実施しているほか、学内のカフェではフェアトレードコーヒーを販売、学生が企画・開発したオリジナルのフェアトレード商品も販売しています。

・青山学院大学 フェアトレードの取り組み
https://www.aoyama.ac.jp/outline/effort/fairtrade

※参考)日本フェアトレード・フォーラム
https://fairtrade-forum-japan.org/

「フェアトレード」について学べる大学の学部、学科

フェアトレードは、狭義では発展途上国の経済問題であり、「経済学部」で学ぶことができます。特に、日本と諸外国間、諸外国同士などグローバルな経済問題を扱う「国際経済学部(学科)」が関わりが深いといえるでしょう。

また、現代社会が抱えるさまざまな課題を政策面から考える「総合政策学部(学科)」なら、多様な視点からフェアトレードについて研究できます。グローバルな政策課題を取り上げる「国際政策学部(学科)」も同様です。

さらに、前の項目で紹介した「フェアトレード大学」の認定基準の一つには、「フェアトレードに関する研究・教育活動がキャンパス内外で行われている」とあります。フェアトレード大学に認定されている4大学でも、さまざまな形でフェアトレードの研究活動に携われる可能性があるでしょう。