注目の研究テーマ

【インクルーシブ社会】とは? 障害、性別、年齢、宗教などの多様性を受け入れる社会

障害を抱える方や高齢者にとって暮らしやすい「バリアフリー社会」。これをさらに一歩進めようとしているのが「インクルーシブ社会」です。障害だけでなく、性別、年齢、国籍や宗教、文化などの多様性(ダイバーシティ)を認め合い、ともに暮らしていく社会を作ろうというインクルーシブ社会は、日本の大学教育でも重視され始めています。

「インクルーシブ社会」は、多様性を認め合う社会

私たちの社会には、健常者だけでなく、体が衰えている高齢者、障害や病気を抱える方も暮らしています。しかし街頭や施設のなかには、体が不自由な人にとって使いにくいものがあります。例えば、階段や床の上の段差。車いすで移動する人にとって、これらの段差は大きな障壁となります。

そういう障壁(バリア)をなくして、体の不自由な人でも暮らしやすい社会を作ろうというのがバリアフリーの考え方です。

みなさんも、階段のある場所にはエレベーターやスロープ(傾斜路)、あるいは手すりを用意して、移動しやすいように配慮している設備を見たことがあるのではないでしょうか。他にも障害者にとっても使いやすい「多目的トイレ」、道に用意された「点字ブロック」、段差の小さいバスである「ノンステップバス」や「低床バス」など、バリアフリーを考慮したものがたくさんあります。

このように、「体の不自由な人にとっても暮らしやすいものに変えていこう」という取り組みは、国内外の各地で行われています。

さまざまな差異を包み込んで受け入れる「インクルーシブ社会」

ところが、この社会に暮らしにくさを感じるのは、体の不自由な高齢者、障害を持つ人たちだけではありません。

社会の中には「自らの性的思考や国籍、宗教などが周りと異なる」ということで悩んでいる人々が少なからずいます。そのような「違い」を受け入れずに無視することは、社会からの「排除」につながりかねません。

そこで、バリアフリーの考え方を一歩進めて、社会的なマイノリティーを受け入れていこうというアプローチが、「包括」を意味する「インクルーシブ」(インクルージョンとも呼ぶ)を用いた「インクルーシブ社会」です。

まずは学校におけるインクルーシブ教育から

バリアフリーで広がってきた多目的トイレや点字ブロックなどは、物理的な対策です。しかしインクルーシブとなると、精神面、文化面も大きな比重を持ちますので、物理的な対策だけでは限界があります。

学校教育で多様性を重視することの意義とは

従来、障害を持つ子どもは、特別支援学校、特別支援学級のように、他の子どもたちと異なる環境で教育を受けることが一般的でした。しかし、インクルーシブ教育では人種や障害などの違いを区別することなく、全員が同じ場に参加できるようにという方針を重視しています。日本でも学校教育法を改正した2007年以降、インクルーシブ教育に注力してきました。

現在のところ「障害を持つ子どもの教育」という見方をされがちなインクルーシブ教育ですが、必ずしもそれに限った話ではありません。文化や言語、国籍、民族などの違いを受け入れ、ともに社会の一員として暮らすための考え方を育てようというのがインクルーシブ教育といえます。

大学でもインクルーシブ教育を推進

インクルーシブ教育に注力している大学も少なくありません。早稲田大学のインクルーシブ教育学会は、文部科学省の委託を受けて実施した「発達障害に関する教職員育成プログラム開発事業」に集まった研究者たちが、インクルーシブ社会の実現を目指して設立した学会です。また愛知教育大学では、インクルーシブ教育推進センターを設置し、県内外の教育機関と連携した活動を推進しています。

インクルーシブ教育が普及すれば、すべての子どもたちに平等な教育が提供される環境が整っていくでしょう。また、それぞれの子どもたちに他者を思いやる心を育ませるだけでなく、「人によって、不自由を感じるポイントが異なる」といった問題について考えるきっかけにもなります。

「インクルーシブ社会」はSDGsの目標のひとつに

インクルーシブ教育を受けた子どもたちや学生が、将来、社会の一員として活躍することにより、インクルーシブ社会の実現は進んでいきます。しかしそれ以外の方法でもインクルーシブ社会へ推進することは可能です。

インクルーシブデザインに配慮された製品やサービスも

教育や福祉だけでなく、製品やサービスのデザインにもインクルーシブの視点は用いられています。障害を持つ人でも使いやすい製品はバリアフリーデザインといわれていますが、近年では障害者だけでなく、言語の異なる外国人でも使いやすいものとして「インクルーシブデザイン」が注目され始めました。これは、建物の設計や商品の開発はもちろん、各種サービス、Webデザインも含まれます。

そのように、社会のさまざまなシーンでインクルーシブなものが増えれば、人々は不都合な制約を受けることなく、暮らしやすい社会が到来することでしょう。

多様なものが当たり前の社会に

これまで、社会におけるマイノリティーは、ともすれば排除される存在とされていました。これからは人々の多様性を認め、ともに社会を構成するものとして受け入れていく世の中にしていかなくてはいけません。

2015年に国際連合で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)においても、「すべての人に包括的、かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習学の機会を促進する」ことが挙げられています。ここでいう包括的とはまさにインクルーシブのこと。インクルーシブ社会は、これからの社会が目指すべき指標といえます。

「インクルーシブ社会」について学ぶ学部や学科

前述のように、インクルーシブ社会を実現する第1歩としては教育があります。教員を養成する教育大学、教育学部では、インクルーシブ教育についても学ぶことになるでしょう。教育学部には、「特別支援教育 教員養成課程」「特別支援教育先攻」「特別支援教育コース」、あるいは「発達教育学部」といった、障害を持つ子どもへの教育を学ぶ学科があります。

また東京福祉大学、東北福祉大学のように、福祉を専門に扱う大学でもインクルーシブ社会について学べるでしょう。

工業デザイン、商業デザインを学ぶ工学部やデザイン系の学部、マーケティングを学ぶ経済学部なども、インクルーシブ社会について学ぶ意味があるといえます。

<大阪府立大学 教育福祉学類 【模擬講義】>

これからの社会に必要な【セーフティーネット】とは? 「ベーシックインカム」の実証的な研究も進む働き方の多様化やコロナ禍の影響で、雇用保険や生活保護に代表される社会の「セーフティーネット」にも変化が求められています。また、現状の制度...