自動車やバス、ドローン、宅配サービスで自動運転を行うには、正確な地図が必要になります。地図を元に位置を正確に知ったり、走行ルートを決めるためです。しかも地図は常に最新に更新されていくことが重要です。今回は、リアルタイムで地図を提供する仕組み「ダイナミックマップ」を解説します。
鮮度の高い地図が自動運転を快適にする
マイカーをお持ちの家庭ならカーナビにはお世話になっているかと思いますが、カーナビは長く使い続けていくと地図が更新されず、ナビと実際の道や施設がだいぶ変わってしまい、道案内が不正確になって困ることがあります。
カーナビはオンラインで無料更新されていくスマホの地図アプリと異なり、使い始めて年数が経過すると地図の更新に別途料金がかかるようになります。これが意外と高価なので、放置してしまうケースも見受けられます。地図上にない道は経路として案内されず、強引に新しく開通した道路を走っていくと、道なき道をトレースしていくことになってしまいます。
スマホで使う地図も、オンライン上で比較的すぐに更新されていきますが、それでも店舗や事務所の情報は古くなっていることがあります。
古い地図でも人間が参考程度に使う場合には、ちょっと不便に感じる程度ですが、これが人工知能(AI)を搭載されたクルマ、あるいはロボットなどが活用する地図の場合、現実と異なっている状態は致命的です。正確な位置や周囲の状況を知るには、極力新しい情報が含まれた高精度なデジタルマップが必要になります。
最新情報に常に更新し続ける地図「ダイナミックマップ」
自動運転では、車体に付けた高感度カメラやソナー、ミリ波レーダー、LiDARといった多くのセンサーを使って情報を得ていますが、センサーで得られるのは「車両に近い位置の状況」のみです。しかし近くの状況がわかるだけでは自動走行には不十分で、高速で移動していくためにはその先の道路がどうなっているのかを予測できる情報があると安定した運転ができるようになります。
<次世代HDマップ コンセプトムービー ダイナミックマップ基盤>
そのための詳細なデジタルマップに、可能な限り新しいデータ(規制や工事、天候、渋滞などの情報)、さらに周辺の人や対向車などのリアルタイムの動的な情報を加えたモノを「ダイナミックマップ」と呼んでいます。
ダイナミックとは“動きのある”という意味で、リアルタイムで更新されていく、生の情報が表示されている地図になります。今のところ、主にクルマの自動運転や安全運転支援に使われるデータとして提供されていますが、いずれこの技術はGoogleマップなどのスマホで見る地図上でも表示されるようになるなど、活用が広がっていくでしょう。
国をあげて詳細なデジタルマップを作っている
ダイナミックマップのベースとなる地図は「高精度3次元地図データ」と呼ばれていて、「ダイナミックマップ基盤」という企業が内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム」を受けて、自動車メーカー各社や地図製作(ゼンリン、ジオテクノロジーズ、トヨタマップマスター)、測量(アイサンテクノロジー、パスコ)、「みちびき(準天頂衛星システム)」(三菱電機)などの国内メーカーが一丸となって出資し作製しています。2022年現在、高速道路と自動車専用道路の作製が終わったところで、2023年には一般道路を加えていき、2024年に約13万kmまで作られる予定になっています。
・ダイナミックマップ基盤
https://www.dynamic-maps.co.jp/
4つのレイヤーでリアルタイムの動的情報を表示するシステム
この「高精度3次元地図データ」には、車線や路肩、道路上に描かれた停止線や進行方向を示す矢印、信号機と規制標識(右左折時に表示される矢印など)といった実際に路上に存在するものと、路上には描かれていない車線中心線という、走行時に基準となる仮想的な走行ラインも加えられていて、このラインをトレースすることで車線を逸脱しないで走行できるように考えられています。また3Dの構造物や建物の情報も含まれています。
これに3つのレイヤーを加え、以下の4種の情報を同時に得ることで、リアルタイムで詳細な動的情報をセンチメートル単位で得られる仕組みになっています。
- 高精度3次元地図(静的情報)
- 交通規制、道路工事、広域の気象予報(準静的情報)
- 事故や渋滞情報、ピンポイントの気象情報(準動的情報)
- 車両周辺情報、歩行者の動き(動的情報)
このうち④の動的情報がもっとも更新の早い動的情報になりますが、これには「高度道路交通システム(ITS)」が活用されます。自動車と道路、人との間で情報通信ができるようにするシステムの総称で、日本ではITS Japanが中心になり推進しています。
<次世代HDマップ 一般道路のデータイメージ ダイナミックマップ基盤>
<次世代HDマップ 6つの効用シーン ダイナミックマップ基盤>
<【ITS Connect】出会い頭注意喚起 トヨタチャンネル>
大学では名古屋大学と同志社大学が、複数企業と共同で「ダイナミックマップ2.0コンソーシアム」を立ち上げ、ダイナミックマップの交通情報サービスを提供できるシステム開発を行っています。2020年と少し前のことにはなりますが、ここで開発されたシステムが「ダイナミックマップ2.0プラットフォーム」として研究に使われています。
・名古屋大学 ダイナミックマップ2.0の高信頼化技術に関するコンソーシアム
https://www.nces.i.nagoya-u.ac.jp/ddm2/index.html
また、同志社大学ネットワーク情報システム研究室では、ダイナミックマップを活用し、コネクテッドカー(インターネットに接続されたクルマ)での「自動運転時における、高速道路の合流部でのスムーズな合流を可能にするアルゴリズムの研究」など、ダイナミックマップを活用した研究も盛んに行われているようです。
・同志社大学 ネットワーク情報システム研究室
http://w3.doshisha.ac.jp/
http://w3.doshisha.ac.jp/topics/wxmtlgA2jMipYXMGOTwkL/
デジタルマップも進化が著しい分野
ダイナミックマップ基盤が作製中の地図は主に自動運転向けのものです。しかし、スマホなどで使われる地図アプリでも、すでに3Dの立体情報や歩道や施設入り口などの詳細な地図、リアルタイムの動的情報を表示する機能が組み込まれつつあります。多くの人が携帯しているスマホの位置情報から渋滞情報やエリアの混雑状況を表示することはすでに行われていますし、バスや電車の遅延、気象情報、工事などでの道路封鎖、施設や店舗の営業状況といった動的な情報も表示されるようになっています。
これらも広義ではダイナミックマップとみなしてもよく、自動運転だけではなく身近に使われつつある技術になっているといえるでしょう。
なお、デジタルマップのデータは、「GIS(Geographic Information System)」や「地理情報システム」と呼ばれ、こちらも研究が続けられています。スマホの地図アプリなどもこれに該当しますが、地図内にデータベースとして多くの情報が組み込まれるようになってきていて、進歩の著しい分野になっています。
<CNET Apple Maps (2022) vs. Google Maps (2022): Watch the Reveals>
「ダイナミックマップ」が学べる大学の学部、学科
ダイナミックマップは、主に自動運転で使われる技術ですので、自動車やドローンなどを研究している工学部などを目指すと良いでしょう。群馬大学では、「次世代モビリティ社会実装研究センター」を産学協同で設置していて、完全自動運転を目指す研究をしています。こういった研究を積極的に行っている大学を目指すのも近道になります。
また、GISを含め地図自体の研究をしたいケースでは、文理学部や都市デザイン関連の学部なども考えられます。文学部では地理学科にて地図学や地理学が学べる大学もあります。
自動車やドローン、小型モビリティ、自立ロボットの自動運転、安全運転支援、渋滞緩和、駐車場の効率化、物流ネットワーク支援、ARコンテンツ、位置情報を使った情報表示、観光への応用、移動最適化予約システム(バスなど公共交通機関や優先パスを購入した車両などを優先させるなどの活用)、災害時の避難支援など。