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理系が活躍?!新しいアート【サイエンスアート】とは? テクノロジーを駆使してアートを作る

アートというと絵画や彫刻、オブジェというイメージが強いのですが、デジタル技術によってアートは新たな局面に進もうとしています。新しいセンサーや美しい表示機器が登場したことで、プログラミングを使って、状況に応じて多様に表示を変化させる新しいアート「サイエンスアート」が生まれてきているのです。

サイエンスとアートとテクノロジー

アートも比較的新しいジャンルでは、現代アートとして、メディアアートやビデオアート、コンピューターアートなどがあります。モニターやコンピューターを使って、アートの表現をすることは、1960年代からすでに盛んに行われてきました。

近年、テクノロジーを駆使して、動きやインタラクティブ性、ARやVRなどを加え進化させたアートが生まれてきています。これらは「サイエンスアート」や、もっと単純に「デジタルアート」などと呼ばれることがあります。

「サイエンス」と「アート」は、実はとても親和性の高いものです。なかには、数学や数式がアートに近いという感覚を抱く人も多いかと思います。例えば、サインカーブ(正弦曲線)というジグザグの曲線は、三角関数「y=sinx」という式で描くことができることは、ご存じかと思います。この基本形にとどまらず、多くの複雑な図形や動きも、式を使って表現できるでしょう。このように直接数式を使うことはなくても、図形描画ソフトなどを使ったアートの表現には、間接的に数式が使われていることが多いのです。

これは音楽にもいえることで、音楽の裏側に数式が使われていることもあります。

このようにアートとサイエンスという、文系と理系のもっとも対極にあるジャンルで共通点が多いことは、とても興味深く研究も多くなされています。

変わるアートの楽しみ方

サイエンスアートの登場によって、これまでのように絵画や彫刻を美術館で鑑賞するだけでなく、動きやインタラクティブ性のあるアート作品をアーティストの音楽コンサートの演出や演劇、公共の場を活用したパフォーマンスや広告など、エンターテインメントとして楽しんだりすることは盛んに行われるようになってきました。

また、ビエンナーレなどの美術祭などで、ある地域内の屋外を活用したデジタルアート作品が展示され、多くの人に楽しんでもらうというイベントも開催されるようになってきています。これには、高速なモバイル回線「5G」の普及により、より実現しやすくなってきています。従来のアートとは違った楽しみ方ができるようになり、社会のなかで日常に彩りを与えてくれることでしょう。

サイエンスアートの例

アートと、進化したテクノロジーが出会ったときに、どういったアート作品が生まれるかは、進化の過程にありますがとても興味深いものです。その一部を紹介しましょう。

主にプロジェクションマッピングを使ったインタラクティブなアート

最近もっともよく目にするものは、「プロジェクションマッピング」を使った作品でしょう。既存の建物に多数のプロジェクターを使ってさまざまな動きのあるCGムービーを投影し、あたかもその場に存在するかのような表現が可能です。建築物に投影されるので、臨場感があり、さまざまなイベントなどで使われますが、内容によってはアートに利用できます。

部屋内にプロジェクションマッピングを投影し、特定の場所にセンサーで感知できるようにしておき、その場所に触れたり人が遮ったりすることで反応し、別の動きを見せることでインタラクティブなアート作品に仕上げることができます。

<ファイナルファンタジーXIV:プロジェクションマッピング>

サイエンスアートなエキシビションを行うアート集団「チームラボ」

こういった仕組みなどを活用して、さまざまなエキシビションを行っているアート集団に「チームラボ」があります。アーティストのコンセプトにエンジニアやプログラマーが動きなどインタラクティブ性を加え、CGアーティスト、アニメーター、数学者、建築家なども参加しています。

作品は、日本国内をはじめ世界各地で展示を行っているので、見た方も多いのではないでしょうか。部屋内や屋外の建築物で、インタラクティブ性の高いアートを実体感でき、没入感は相当なものです。国内の常設展示も多く、いつでも見ることができるので、ぜひ実際に体験してみてください。

このようなサイエンスアートを体感できる有名な施設として、シンガポールのマリーナベイサンズ隣に「サイエンスアートミュージアム」という施設もあります。ここにはチームラボの常設展示もあります。

<チームラボリコネクト:アートとサウナ>

自動生成させたアートも登場

もうひとつ近年のアートでテクノロジーを使った手法として、「ジェネレーティブ(ジェネラティブ)アート」と呼ばれる手法があります。これは、数式などプログラミングされたアルゴリズムなどを使って計算により自動生成されたアート作品になります。これにはよく「Processing」というプログラミング言語が使用されます。人工知能(AI)を使う場合もあります。

フラクタル図形を使ったアートもテクノロジーで進化

例えば古くからは、数式で表現され無限に特定のパターンが続くフラクタル図形のマンデルブロ集合を使ったアートがあります。フラクタル図形とは、図形の部分や全体が再帰的(自己相似性を持っている)なパターンを繰り返している幾何学模様のことです。全体と同じような形状が拡大した部分にも見られ、拡大していくと特定のパターンで連続して見えます。

ここで重要なのは、このフラクタルやマンデルブロ集合という用語ではなく、アートが数式によって表現(生成)できるという部分です。計算の密度はテクノロジーの進化で、より深く緻密な表現が短時間で生成可能になっていきます。

従来フラクタルを使ってよく作られていたのは、以下のような映像でした。

<Deepest Mandelbrot Set Zoom Animation ever>

これが近年では、主にフラクタル3D生成ツールの「Mandelbulb 3D」を使い、以下のようなリアルな映像作品を作ることができるまでに進化しています。

<Fractal Universe (Mandelbulb 3D fractals)>

マンデルブロ集合の図形は、以下のサイトで自由に生成させることができますので、興味がある方は試してみてください。

Mandelbrot set – online generator
http://mandelbrotset.sellit.pl/

自動的に生成されたアートの存在意義は

自動生成された作品がアートなのかどうなのかは、もっと議論される必要がありますが、AIを使って描かれた肖像画はオークションにて、43万2500ドル(約4800万円)で落札されたことがあります。音楽は、いずれ自動生成された演奏がほとんどを占めることも予想されています。

ちなみにフラクタル図形は、コンピューターで作られるだけでなく、自然界にもよく現れることが知られています。野菜のロマネスコはその典型です。また、生物や生命を素材として使った「バイオアート」も盛んになってきています。生物や生命、自然界の現象が自然に変化していく様子を含め、広くアートの素材として扱います。

「サイエンスアート」を学べる大学の学部、学科

現代アートを学ぶことができる美術系の大学であれば、サイエンスアートに関する学科があるはずです。ただし常に進化する新しい領域ですので、現代アートの基本をしっかり学び、進化した手法として取り入れていけばよいと思います。例えば東京藝術大学 美術学部には先端芸術表現科があります。また、大阪芸術大学には芸術学部アートサイエンス学科という、日本唯一のそのものズバリの名称の学科もあります。

また、芸術系ばかりではなく、数式が得意な理系の人が活躍することも可能です。理系の知識をつけてから、プログラミングやデザイン、建築といった分野の知識を掛け合わせることで、サイエンスアートの作品に生かすことができます。

<大阪芸術大学:アートサイエンス学科>

大阪芸術大学 芸術学部アートサイエンス学科
https://www.osaka-geidai.ac.jp/departments/artscience

『サイエンスアート』の活用が期待できる分野

エキシビション展示体験、美術品、エキスポ(博覧会)、イベント式典、音楽ステージ演出、街中での展示、サイネージ広告