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【グリーンデータセンター】海底にサーバを設置!? 究極の省エネを目指す、SDGDs時代のデータセンターの研究

私たちはインターネットを使ってさまざまなクラウドサービスを利用していますが、その裏側でサービスを提供してくれるのがデータセンターという場所です。しかし、データセンターの運用には、膨大な電力が必要となります。そこで開発が進められているのが、少ない電力でも運用可能なデータセンター「グリーンデータセンター」です。今回はグリーンデータセンターについて解説します。

インターネットのサービスを支えていたのは「データセンター」

データセンターといっても、高校生の皆さんにはなじみのない用語に聞こえるでしょう。しかし、実は見えないところでスマートフォンのサービスや各種インターネットサービスを支えている、とても身近で重要なものなのです。

例えば、皆さんが次のようなことをしたとします。

  • ネットで情報を検索する
  • ネット対戦型のゲームを楽しむ
  • SNSやチャットで友達を交流する
  • インターネットで商品を購入する

そのようなとき、皆さんが操作しているのは、目の前にあるスマートフォンやパソコン、タブレットなどの端末でしょう。しかし、その端末はインターネットがつながっており、さらにその先には各種サービス(のプログラム)が働いている場所があるのです。そのプログラムが稼働したり、ユーザーがデータをクラウド上に保存したりする場所が、データセンターというわけです。

データセンターの仕組み

データセンターでは大量のサーバーやネットワーク機器が稼働しており、その上で各種サービスが動いています。サーバーとは、簡単にいえば「たくさんのユーザーがアクセスして利用されるコンピューター」のこと。ニュースなどで目にする超高性能なコンピューター「スーパーコンピューター」もサーバーの一種です。

私たちがインターネットのクラウドサービスを利用する際には、世界のどこかに設置されているデータセンターのサーバーとつながっていると考えていいでしょう。

もっともデータセンターはさまざまな用途で使われるため、クラウドサービス以外でも活用されています。

データセンターの問題は電力消費量

そのデータセンターにおける大きな問題のひとつが電力消費量です。データセンターには高性能なサーバー類が数多く並んで稼働しているため、大量の電力を消費します。さらに近年はサーバー上で人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット=さまざまなデバイスがインターネットにつながること)の活用が進んだことで、サーバーにも高い計算能力が求められ、データセンターで消費する電力は増加傾向にあります。

冷却にも膨大な電力が消費される

データセンターで消費される電力は、サーバー類の稼働にのみ使われているわけではありません。意外に大きいのが、冷却に使われる電力です。

皆さんのスマートフォンも、ゲームのような重い処理をさせると熱を持つことは知っていることでしょう。熱くなる弊害は「手で持つのが不快になる」だけではありません。もっとも大きいのは、熱くなると、処理能力が低下したり動作が停止することもあるということです。

発熱すると処理能力が低下する問題は、データセンター内のサーバーでも同じです。そのため、データセンターでは、サーバーの性能を維持、安定稼動させるために常に冷却しているのです。古いデータセンターではサーバーの消費電力以上に冷却に電力を消費しているような非効率なところもあります。

そこで求められるのが「グリーンデータセンター」と呼ばれる、省エネ型のデータセンターです。グリーンデータセンターは自然環境への影響を抑えて、SDGsにマッチしたものといえます。

次世代グリーンデータセンター協議会も設立

データセンターの省エネ問題は国家レベルの重要な課題であり、2022年4月には、日本で次世代グリーンデータセンター用デバイス・システムに関する協議会(次世代グリーンデータセンター協議会)が設立されました。

次世代グリーンデータセンターの以下のサイトでは、世界のデータセンターの電力消費量について「現在、総電力の約3%を占める程度」だが「2030年には10%を大きく超えていくとの予想」と言及されています。

・産総研:次世代グリーンデータセンター用デバイス・システムに関する協議会
https://unit.aist.go.jp/pprc/gdc/about/index.html

つまり、人類が使用する電力の1割以上をデータセンターで消費されると見込まれているということなのです。この問題を解決するには、データセンターでの電力消費を以下に抑えるかが重要になります。

グリーンデータセンターの省エネ対策

現在のところ主流になっている冷却方法は空冷です。空冷はサーバーなどの機器を直接冷やすのではなく、サーバールームの部屋全体を冷やすことになります。

ただ、部屋全体を均一に冷やそうとするとエネルギー効率が悪くなるので、最近は「冷えた空気を直接サーバーに当てる」「暖まった空気をそのまま外に放出する」というように空気の流れを制御して、エネルギー消費を抑える冷却方法を工夫しています。グリーンデータセンターはそのようにさまざまな工夫がされているのです。

また、新しいデータセンターを作るときに寒い地域を選ぶことも行われています。日本でいえば北海道、世界的に見れば北極圏に近い地域が選ばれます。

さらに新しいタイプの冷却方法が研究されているので、いくつか紹介します。

サーバーを液体に沈める液浸冷却

多くのデータセンターでは、用いられている「空冷」は、サーバー類によって熱せられた空気を排出し、冷たい空気を取り入れるといった仕組みです。その空気の代わりに、電気を通さない特殊な液体で冷却しようというのが、液浸冷却です。

この液浸冷却は、特殊な液体で満たしたタンクの中に、サーバーなどの機器を丸ごと沈めるというシステムです。サーバー類が発した熱は、そのまま特殊な液体へと伝わり、対流によって放出されます。

液浸冷却のメリットは冷却能力と設置面積です。空冷は、「冷たい空気をサーバーに当てる」ことで冷やすのに対して液浸冷却は「液体が直接サーバーに触れて熱を奪う」ので、効率よく冷やせるのです。また、空冷は空気を流すための広い空間が必要になるのに対して、液体で満たしたタンク内で冷却できるので、設置面積も少なくて済みます(=狭い場所にたくさんのサーバーを置ける)。

<冷やして省エネ「データセンター」 KDDIなどが実験>

液浸冷却は日本の大学でも研究されています。東京工業大学のスーパーコンピューターTSUBAME-KFCは油を使った液浸冷却システムを利用しており、2013年、2014年にスーパーコンピューターの省エネのランキングで世界1位に輝いています。

・東京工業大学:東工大スパコンTSUBAME-KFCが省エネ性能スパコンランキング2期連続世界1位を獲得!
https://www.titech.ac.jp/news/2014/028086

なお、液浸冷却にはさまざまな方式があります。2019年に開催された「クラウド&データセンターコンファレンス 2018-19」では、大阪大学サイバーメディアセンター 先端ネットワーク環境研究部門 教授の松岡茂登氏が、さまざまな液浸冷却方式の特徴などを解説しており、そのレポートは以下のURLで読めます。

・省エネデータセンター「PUE=1.02」を実現する液浸・液滴の冷却システム
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/cdc/report/1178115.html

海の底に沈める海中データセンター

陸上に比べて、海底の温度は低くなります。そのため、海底に無人のデータセンターを作るという研究も行われています。

海中データセンターを作るメリットのひとつは、利用者との距離の近さです。サービスを利用する人(つまりユーザーである皆さん)とデータセンターの距離が遠いと、遅延が生じやすくなります。日本のユーザー向けのデータセンターであれば、北極圏に置くより、日本の近くに置いたほうが遅延しにくくなるわけです。そのため、日本の近海に海中データセンターを作るのは理にかなった方法といえます。

ほかにも洋上風量発電所を近くに設置しやすいというメリットもあります。

海中データセンターの実験を行っている企業としてはMicrosoftが有名です。2018年に水深117フィート(約36メートル)の海底にコンテナサイズの密閉したデータセンターを設置、性能や信頼性をテストし、2020年に引き上げました。

・マイクロソフト:マイクロソフト、海底データセンターの信頼性、実用性、エネルギー消費の持続可能性を実証
https://news.microsoft.com/ja-jp/features/200915-project-natick-underwater-datacenter/

「グリーンデータセンター」について学べる学部、学科

データセンターはIT系の研究になるので、理工系学部で扱うことになりますが、冷却という(ITの世界では)特殊なジャンルになるので、理工系だからといってどの大学でも研究できるわけではありません。

東京工業大学は2022年10月に富士通と協力して、「富士通次世代コンピューティング基盤協働研究拠点」を東工大すずかけ台キャンパスに設置しました。これは次世代コンピューティング基盤の実現に向けた取り組みであり、この中には液浸冷却に関する研究も含まれています。

・東京工業大学:富士通と「富士通次世代コンピューティング基盤協働研究拠点」を設置
持続可能な社会へ向けたイノベーション創出に貢献

https://www.titech.ac.jp/news/2022/065111

また、この記事では冷却技術をメインに解説しましたが、実際には建物、施設などを含めた包括的な取り組みが必要となります。ちょっと古い情報になりますが、2012年、長崎大学は複数の組織、企業と共同でモジュール型のデータセンターの研究を行っています。

・長崎大学:省エネ技術を結集した次世代モジュール型グリーンデータセンターを構築-従来のデータセンターに比べ消費電力を30%削減可能に
https://www.nagasaki-u.ac.jp/ja/news/news1047.html