「文学」と聞くと「詩や小説を読む」ことを想像しがちです。確かに文学を辞書で引くと、「文字による芸術作品」のように説明されています。しかし、大学で学ぶ「文学」の「文」が意味するのは、学問そのもの。「文学」を学ぶとはどういうことか、文学部で研究するとはどういうことかを紹介します。
大学の「文学」は広く文化を学ぶこと
大学で「文学」として研究する対象は、一般的な小説や詩だけではありません。そのカテゴリーは言語を使った表現全般であり、文化のすべてが学問の対象となっています。
人間が生み出してきた文化、例えば心理学、哲学、芸術学、考古学、文化人類学など多岐にわたった分野を学ぶことが文学です。文学を広く考えれば人間の“生き方”を探求する学問ととらえることができます。
文学は文化全般の広い視点の分野を扱う
「文武両道」という熟語を聞いたことがあるかもしれません。この言葉に含まれる「文」と「武」は対局にあって、「学問や文芸<->武芸や運動」の両方にたけているという意味となっています。
もっとわかりやすくいえば「学び<->スポーツ」というところでしょうか。
「学問の対象」としての「文学」は、この「文の分野全般を目指していく」ものと考えれば理解しやすいかもしれません。この学問を専門とする学部は文学部や人文学部などになります。
文学を研究するとは?
人間の生き方を探求する文学を扱う学部である「文学部」ではどのようなことを学ぶのでしょうか。文学部が扱う対象は広いので、すべてが当てはまるわけではありませんが、もっとも文学部らしいのは、日本をはじめ英米仏独など各国の文学を扱う学科といえるでしょう。
ゼミでは、文学について学友とディスカッション
大学では学年が進むにつれ、「一般教養」から「ゼミ」と呼ばれる少人数での演習に移っていきますが、このゼミでの研究発表が文学部で学ぶ醍醐味(だいごみ)です。
ゼミでは、学生が研究テーマに沿った作家を選び課題図書を読んで、自分なりに研究して、その成果を発表し、学生同士のディスカッションを経て、考察を深めていきます。そのようにして人間が作った芸術、ひいては人間の生き方を探求していくことになります。
そういう文芸作品を研究する学科では、書籍を短期間に大量に読むことになりますので、読書家に向いています。それに、自分が発表する課題本だけでなく、一緒に学ぶ相手側の課題本も読んでおく必要があります。逆に読書が苦手だと、ゼミや卒論の課題図書の読み込みが追いつかず、とても苦労します。
<明治大学 文学部|10学部10色のコンセプトムービー>
卒論では研究対象の本の著者の全作品を読む
最終的に研究成果を、卒業論文(卒論)として、研究対象となる作家や文芸作品を選んで論文を仕上げて提出します。卒論のテーマは、ゼミで学んだことから決めることが多いのですが、まったく別に自分の好きなテーマ、課題を設定する場合もあります。
しかし通常は、対象となる1作品だけを論じるのではなく、作家に関する論文となることがほとんどです。つまりその著者の全著作を読んでおかないと卒論は書けません。
そのため多いときは一日で数冊の本を読了する必要があります。文学部に進学するのであれば多読に対応できるようにしておき、興味のある小説家程度は全著作を読破しておくようにしましょう。
文学によって身に付くスキル
文学は、人類の文化全般にわたる広い視点の分野です。大学入学後に、学科を選び研究分野を絞って、いろいろな人と考えを交えながら、研究を深めていくことになると思います。
また文学はビジネスにまったく必要ないものかもしれませんが、人は文学を楽しむ能力を持ちあわせています。これをビジネスに生かしていくことは可能です。
正確な日本語で自身の考えを発表していくスキルは重要
言語という普遍的なコミュニケーションツールをつきつめて学習し、正確な言葉で考えを伝えるスキルは強みになります。また、ゼミでは自分の考えをしっかり持ち、それを正当化して発表し議論を重ねるという学習をすることになるのですが、これは社会に出て仕事を進めたりプレゼンテーションをしたりする上でも大いに役立つ経験です。
科学でも求められる「言葉の力」
科学などの理系の分野であっても、文字や言葉で伝える技術は必要です。実験の成果や論文では、わかりやすく正確に表現する技術が不可欠です。科学と文学はどちらか一方だけでは、うまく進化していかないものです。実験から論証をしていく科学と、言語を追求する文学は、専門分野として進めていくと一見無関係に見えますが、研究を進めていくとそれぞれにヒントを得る部分が多いことに気がつくでしょう。
このような交錯する部分を学ぶ分野として、人文科学や人文学という学問もあります。人間科学、行動学、社会学、心理学などの分野では実験をともなう研究も行われます。
文学を追求すると小説家になれる?
周囲に「文学を学ぶ」「文学部に行く」と話すと、よく「小説家を目指すの?」と質問されたりするのですが、あながち間違いではなく、もし読書が好きで作家や文筆家を目指しているなら、もっとも近い学問といえます。
夏目漱石とか川端康成、最近なら村上春樹など、多くの著名な小説家も文学部出身です。とはいえ文学部は先人の書いた文学作品などを研究する場であり、創作小説の書き方を教えてくれる場ではないので、その点は注意してください。
文学のスキルを力に科学分野に切り込んだ作家も
ほかに科学的な内容の著作が多い立花隆も、文学部(フランス文学と哲学を学んでいます)出身です。科学者ではなく、取材記者の視点から科学や哲学の分野に切り込んだ好例といえるでしょう。
最近では、早稲田大学 文化構想学部や明治大学 文学部 文芸メディア専攻など創作系の学部を選択することもできるようになっていますし、ゼミの内容によっては短編小説執筆が課題になったりもするのですが、残念ながら文学部だからといって、必ずしも小説執筆を経験することはありません。もし経験したい場合には、学科の内容をよく吟味して選ぶと良いでしょう。表現者を目指すのであれば、芸術大学の方が向いているケースもあります。
時代とともに広がる文学の領域
近年、大学では、2013年6月の閣議決定から始まった文部科学省の国立大学改革プランにより、より実践的な職業教育へ学部を再編する動きがあります。これによって文学部も、新たにグローバルな視点の専攻や実践的な専攻が増えてきています。
時代とともに「文学の領域」は広がりつつあるといえるでしょう。
<文学部説明会:高校生のための東京大学オープンキャンパス2020:東大TV>