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重要性増す【メディア・リテラシー】の能力と研究!フェイクニュース、偽情報にだまされない社会を作る

インターネットの発展によりさまざまなメディアが誕生しています。しかし、人工知能(AI)を駆使して、本物と見分けがつかないニュースが作られるといった問題も起こっています。私たちが誤った情報やデータに惑わされず、新しいメディアを活用していくには、正しく情報を受け取り、発信する「メディア・リテラシー」が不可欠です。

「Society 5.0」で重要性を増すメディア・リテラシー

情報やデータは、私たちの生活を支える重要な存在です。日本が目指す「Society 5.0」の社会は、データを活用することで、社会的課題の解決とともに経済発展が期待されています。

しかし、頼りとなる情報やデータに重大な誤りがあれば、誤った判断を招き、社会の混乱など引き起こしかねません。

あらゆるメディアから発信される情報を参照したり、ときには情報の発信側となる場合も含め、私たちはメディアを活用する上で「メディア・リテラシー」が重要となります。

データに支えられる社会では、誰もが「メディア・リテラシー」を身につける必要があり、「メディア・リテラシー」の研究についても重要性が増しています。

「メディア・リテラシー」とは?

「メディア・リテラシー」とは、新旧さまざまなメディアの性質を理解し、主体的に使いこなす能力です。情報を正しく受け取るだけでなく、発信する能力なども指します。

テレビ、新聞や雑誌のほか、特にインターネットにおいては大量の情報が発信されています。これら情報から正しい情報を選択する力が重要となるでしょう。

なかには大げさであったり、誤った情報、悪意を持って流された虚偽の情報も含まれています。大量の情報を取捨選択し、正確な情報をもとに判断をしなければなりません。

誤った情報で社会が混乱に陥った事件も

情報を正しく受け取る「メディア・リテラシー」が欠如した場合、社会にどのような影響があるのでしょうか。

銀行がつぶれるという「うわさ」から取り付け騒ぎに発展

ある地方の金融機関では、つぶれるとの根も葉もない「うわさ」によって、預金の引き出しに殺到する「取り付け騒ぎ」が発生しました。預金者全員が預金を引き出してしまえば、金融機関は営業できなくなってしまいます。

その「うわさ」の出どころを探ると、通学途中の電車内で女子高校生による何気ない会話でした。電車に居合わせた人が話を勝手に誤解し、心配となって知り合いに伝えたことから誤った情報が拡散してしまったのです。

これは1973年とインターネットが発展する以前の話で、メディアの一種である「うわさ」の影響を示した一例です。

新型コロナでは、トイレットペーパー買い占めという社会現象

情報化が進んだ今日、SNSの共有などで情報はあっという間に拡散します。誤った情報はより大きな混乱を招くおそれがあります。

つい先日も新型コロナウイルス感染症が拡大するなか、まったく関係ないトイレットペーパーの買い占めが起こりました。身近なところでも、問題は生じているのです。

「偽情報」が、戦争への流れを加速したことも

恐ろしいことに、メディアを通じて発信された偽情報が、戦争を後押しすることさえあります。そのひとつが1990年に始まった、米国をはじめとする多国籍軍がイラクと戦った湾岸戦争です。

当時、油まみれとなった水鳥の映像がテレビなど大手メディアを通じて世界中に流れました。

これを米国は、クウェートに侵攻したイラクが油を海に流させたと発表し、ショッキングな映像に人々の怒りをかき立て、世論を動かしましたが、その後、油まみれの水鳥の映像は米国による情報操作だったことが判明しています。

トランプ大統領誕生にもフェイクニュースの疑念

2016年の米大統領選挙においても、ドナルド・トランプ氏を当選させ、社会を分断し対立をあおるため、ロシアがSNSを通じてフェイクニュースが拡散されたとの疑惑が持たれています。

このように誤った情報は、世界や国のあり方をも変えてしまうおそれがあるのです。

誰もが情報発信者となる今日「メディア・リテラシー」は必須

「メディア・リテラシー」なくして、「Society 5.0」を迎えることはできません。より良い社会を実現するには、正しい情報を見極め、活用していく能力が重要です。

悪意を持って流された虚偽の情報はもちろんですが、誤った情報は人々の善意によって広がってしまうことがあるのも、問題を複雑化させています。

SNSでは、リツイートなどボタンひとつで簡単に情報を共有でき、誰もが情報の発信者となり、虚偽情報を流してしまう可能性があります。インターネットに支えられた情報社会において、「メディア・リテラシー」の浸透が大きな課題となっています。

「メディア・リテラシー」の浸透に多角的な研究が不可欠

「メディア・リテラシー」の問題は決して新しい問題ではありません。世論を意図的に誘導、操作するプロパガンダなど、古くから存在し、研究されてきました。

しかし、インターネットの発展によって、従来存在しなかった種類のメディアが乱立して複雑性が増しています。「メディア」の研究や分析、周辺技術の研究開発は、より需要が増していく分野といえるでしょう。

IT技術の発展でより巧妙となった「フェイクニュース」

「メディア・リテラシー」の重要性を再認識させたのが、インターネットで拡散する「フェイクニュース」です。

人々の関心がある「フェイクニュース」はまたたく間に広がります。事実を正確に伝えるニュースと比べて、より早く拡散するといった研究結果もあります。

AIが、本物と見分けがつかない偽ニュースを作成

さらにAIをはじめとするICT技術を用いて巧妙に、文章、音声や動画などの偽データを作成する「ディープフェイク」も登場しました。

捏造(ねつぞう)が難しい動画や音声は、これまで真実を示す「証拠」と認識されていました。その性質を逆手にとり、巧妙に作り込んだ情報を人々に本物と信じ込ませ、誤った情報を拡散させるおそれもあるのです。

メディア・リテラシーを研究する意義

発信された情報が正しいものであるか、悪意を持って作成されたものか、解析して人々の「メディア・リテラシー」を助ける技術の開発も求められます。

このようにメディア・リテラシーという分野も時代の変化とともに、変わっていきます。大学で学ぶ場合は、将来の社会における情報のあるべき姿を考えながら研究に取り組む必要があります。

これまで「リテラシー」といえば、「みんな、だまされないように気を付けよう」という注意喚起が主でした。しかし、これからは情報を正しく発信したり判断したりするためのテクノロジー、仕組み作りも欠かせません。

安心して暮らしていける「Society 5.0」の実現には、あらゆる関連技術を常日頃研究していくことが重要となるのです。

「メディア・リテラシー」について学ぶ大学、学部

「メディア・リテラシー」を扱う大学の学部としては、メディアの特性を研究する学部がまず候補に挙がるでしょう。「メディア学部」を設置している大学のほか、社会学部や文学部でメディア学科や新聞学科を設置しているケースがあります。

「ディープフェイク」などで、巧妙に作り込まれた情報を見抜いたり、情報が改ざんされていないことを証明するには、情報技術やセキュリティー技術といった観点からの研究も必要となります。情報学部などにおいて「情報メディア学科」などを設置し、技術とメディアの双方から研究を行っている大学もあります。

立命館大学の産業社会学部メディア社会専攻

例えば、立命館大学の産業社会学部メディア社会専攻では、現代の人々とメディアの関わりについて多角的に学び、「メディア社会」のあり方について学びます。ジャーナリズムなど情報の発信側、コミュニティーの受信側の双方について学んで情報と人の関わりを学んだり、発信する媒体である「メディア」について社会の側面から学ぶことができます。

立命館大学:メディア社会専攻
http://www.ritsumei.ac.jp/ss/introduce/course/media.html/

また「メディア・リテラシー」の背景にある人々の行動様式や心理的な背景など研究したいのであれば、「行動経済学」を学ぶ経済学部や「心理学」など扱う文学部なども有力な選択肢となりうるでしょう。「メディア・リテラシー教育」という観点からは「教育学部」、倫理の側面から捉えれば、倫理学や哲学を学ぶ文学部なども対象となります。

『メディア・リテラシー』の応用が期待できる分野

マスメディア、通信、セキュリティー、教育、政策、外交、防衛、犯罪対策

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