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宇宙にも嵐はある! 【宇宙天気】の観測や研究で宇宙の影響から社会を守る

太陽からは放出されるプラズマや放射線などが地球にも到達して、地磁気などを乱したり通信障害を起こしたりすることがあります。そのため、地球周辺の宇宙環境の状態を「宇宙天気」と呼び、観測して注意するようにしています。今回は「宇宙天気」、および宇宙天気を観測、分析する「宇宙天気予報」について解説します。

宇宙にも「天気」と呼べる現象が起こっている

晴天の日もあれば雨の日、風の日があるように、地上の天気は毎日のように変わるもの。しかし、それは地球上だけに限った話ではありません。実は宇宙にも「天気」と呼べるような現象があるのです。

「宇宙の天気」といってもなかなかイメージが湧きにくいかもしれません。確かに宇宙には雨や台風はありません。しかし、太陽からは「太陽風」と呼ばれるプラズマのガスが吹き出し、地球はもちろん、太陽系の遠くまで届いています。また太陽の表面ではフレア(太陽表面で起こる爆発)やコロナ質量放出(プラズマが大量に放出される現象)なども発生し、そこから発生したエックス線やガンマ線、エネルギー粒子などが、地球周辺にも影響を及ぼし、磁気嵐(地磁気の乱れ)などを起こしています。

太陽風やフレアなどは常に一定なわけではありません。特に大規模なフレアが発生したときには地球にも大きな影響をもたらします。そのように刻々と変化していく宇宙の様子が、あたかも地上における天気のように見えることから「宇宙天気」と呼ばれているのです。

巨大な太陽嵐に襲われ、地球全体で異変が発生

宇宙天気が地球に及ぼす影響としてもっとも「有名」なのは、極地方で見られるオーロラでしょう。オーロラははるか上空に「光のカーテン」のようなものが発生する自然現象です。その正体は、太陽風が地球の磁気圏を乱したときに起こる放電です。

・[グレートネイチャー] 極北カナダに究極のオーロラを追え | オーロラ爆発 | NHK
https://www.youtube.com/watch?v=1ND8aFeM1C0

オーロラのように美しいものであれば構いませんが、宇宙天気が荒れたときの多くは、私たちの生活に悪い影響を及ぼしています。

19世紀に発生したキャリントン・イベント

1859年には、記録に残るなかでは最大となる太陽嵐(巨大なスーパーフレアによって起こる大きな太陽風)が発生しています。当時日本は江戸時代で、井伊直弼が暗殺された「桜田門外の変」(1860年)が起こり、アメリカではリンカーンが大統領になった(1860年)という時代です。あまりに大きな太陽嵐であったため、地球各地でオーロラが発生。なんとハワイでもオーロラが観測されたそうです。

ところが太陽嵐による地磁気嵐は、機械を誤動作、故障させることもあるのです。実際、そのときは電気で動く機械にも被害が発生して、電報システムが停止しました。不思議なことに、電源が失われていたにもかかわらず、太陽嵐によって大気中を流れていた電気の力で機械が動くという謎の現象も起こっていたようです。

この1859年の異変は、太陽フレアを観測した天文学者のリチャード・キャリントンにちなんで、「キャリントン・イベント」と呼ばれています。

・ウィキペディア 1859年の太陽嵐
https://ja.wikipedia.org/wiki/1859%E5%B9%B4%E3%81%AE%E5%A4%AA%E9%99%BD%E5%B5%90

もし今の時代に巨大太陽嵐が発生したら?

キャリントン・イベントの時代は、機械の数もそれほど多くはなかったので、その程度の被害で済んでいたわけですが、もし今、同じレベルの太陽嵐が起こったとしたらどうなるのでしょうか。

私たちが暮らしている家を見回してみると、数多くの精密なIT機器に囲まれていることに気づくはず。もしキャリントン・イベント並みの太陽嵐が起こった場合は、パソコンやスマートフォン、ゲーム機は壊れ、インターネットも停止するでしょう。そうなれば、友達と連絡をとったり対戦ゲームをしたりすることもできなくなります。

また、エアコンや冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器など、コンピューターが内蔵されている電化製品もダメでしょう。水道やガスのシステムもIT化されているので、そこが破壊されたら、飲み水や食べ物、トイレにも困ってしまいますね。

家の中だけではありません。コンビニやスーパーなどのお店も使えなくなるに違いありません。冷蔵庫が動かなければ店頭に並べている食品もすぐに腐ってしまいます。電車や自動車、飛行機といった交通機関もダウンするでしょう。病院の機能が停止すれば、病気になっても治療してもらえなくなるかもしれません。そもそも電力会社のシステムが破壊されたら、電気そのものが止まって、何も動かなくなってしまうかもしれません。

・巨大太陽嵐が地球を襲うとどうなる?
https://www.gizmodo.jp/2015/09/post_18168.html

このように甚大な被害が考えられるため、近年は国家レベルの事業として宇宙天気への対処を考えていこうという動きも起こっています。

宇宙の「悪天候」が私たちの日常生活に影響する?

キャリントン・イベントのような極端な例は特別なものですが、日常生活のも宇宙天気は私たちの生活に影響を及ぼしています。いくつか例を紹介しましょう。

短波通信障害

太陽フレアによって、短波の通信が遮断されたり途切れたりすることを「デリンジャー現象」と呼びます。短波という電波は非常に遠くまで届くので、飛行機や船舶、人工衛星、放送、測量などに用いられます。デリンジャー現象が起これば、それらの活動に支障が生じることがあります。

送電システム故障による停電

太陽嵐によって地磁気が乱れることで、電気を送る送電システムが止まり、停電が起こることがあります。実際、1989年にはカナダ、2003年にはスウェーデンで大停電が起こっていますが、その現認として太陽嵐が考えられています。

飛行機や乗員への影響

飛行機への影響は、デリンジャー現象だけではありません。高い位置を飛行するため、降り注ぐ宇宙線の影響も受けることになります。もし宇宙天気が乱れて降り注ぐ宇宙線量が増えると、飛行機の乗員が被ばくする量も増加します。それを最小限に抑えるため、飛行コースを変えることもあります。

人工衛星や宇宙ステーションへの影響

飛行機よりもさらに高い位置にあるのが人工衛星や宇宙ステーションです。宇宙に近いために、宇宙天気の影響も受けやすくなります。人工衛星には観測衛星や気象衛星、通信衛星などがありますが、いずれも精密な機器が搭載されており、宇宙天気が荒れたときには故障や誤動作を招く可能性があります。

また、宇宙ステーションには人間の研究者が居住し、いろいろな研究をしています。そして宇宙服を着て船外活動を行うときもあります。しかし宇宙嵐が発生すると通常よりも被ばく量が増えてしまいます。そこで宇宙天気の状況を見ながら、「リスクが高いときは船外活動を行わない」などの対策をしています。

GPSの位置データのずれ

GPSは人工衛星を使って位置を特定するしくみです。宇宙天気が荒れると電波が遅延したり届きにくくなったりして、位置の測定に誤差を生じさせる可能性があります。

宇宙天気の状況を伝える「宇宙天気予報」

宇宙天気の状況を見て「飛行機のコースを変える」「宇宙ステーションでの船外活動を行わない」などの対策を採ると説明しました。しかしエックス線やエネルギー粒子は目に見えないので、宇宙空間を見つめて「今日は天気が悪いな」と判断するようなことはできません。

そこで使われるのが「宇宙天気予報」です。日本でも国立研究開発法人 情報通信研究機構が宇宙天気予報専門の情報配信サービスとして「宇宙天気予報センター」を運営しています。ここでは宇宙天気の大きな要因となる太陽活動(黒点やフレアの発生状況など)や太陽風などを観察し、地球周辺の宇宙天気の状況を分析しています。そして宇宙天気予報として毎日情報を発表して、飛行機や船舶、宇宙ステーション、そして民間企業でも利用されています。

<宇宙天気予報>

宇宙天気予報は、日本だけでなく他の国の研究機関でも発表しています。飛行機や宇宙ステーションなどは、そういう情報を確認して被害を受けないよう注意をしているわけです。

私たちの暮らしも変わるかも

ふだんの生活ではなかなか宇宙天気を気にすることはありませんが、説明したように実は私たちの生活もいろいろなところで宇宙天気の影響を受けています。そして少しずつ宇宙が身近になっていくなかで、その傾向は将来高まっていくことでしょう。

自動運転の自動車が街のいたるところを走るようになれば、GPSの異常が事故を誘発するかもしれません。また、宇宙ステーションの滞在、宇宙旅行、宇宙に近い高度を飛ぶ長距離旅客機に乗るようなときが来れば、宇宙天気を気にしないわけにもいきません。

今の私たちが天気予報を確認して「今日は折り畳み傘を持っていこう」と準備するように、将来は「今日は宇宙天気が悪い。自動車の自動運転システムに障害が起こるかもしれないな。出掛けるのはやめよう」なんて時代が来るかもしれません。

「宇宙天気」を学べる大学の学部、学科

宇宙天気の対象は主に太陽活動となるため、その研究は宇宙科学、宇宙物理学、天文学などの分野となります。

九州大学では、宇宙天気、およびスペースデブリ(宇宙ゴミ)の研究を目的とした拠点として国際宇宙天気科学・教育センターを設けています。名古屋大学では、「地球、太陽、宇宙」が相互に影響し合うメカニズムなどを研究する宇宙地球環境研究所を設置しています。

・九州大学 国際宇宙天気科学・教育センター
http://www.serc.kyushu-u.ac.jp/index.html

・名古屋大学 宇宙地球環境研究所
https://www.isee.nagoya-u.ac.jp/

宇宙を対象とする研究はいろいろなものがあるので、宇宙天気に関心があるなら、このような研究拠点を持つ大学を選ぶとよいでしょう。

参考

宇宙天気予報センター 社会システムとの関わり
https://swc.nict.go.jp/knowledge/guide.html

科学研究費補助金:新学術領域研究「太陽地球圏環境予測」
科学提言のための宇宙天気現象の社会への影響評価
https://www2.nict.go.jp/spe/benchmark/