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地球周辺の宇宙を探索する【超高層物理学】。竜巻や地震など自然災害の予見に活用する研究も!

地表から上空にある成層圏より上で地球に近い宇宙空間では、太陽からの影響を強く受け、そこで発生するプラズマや電波の地磁気の研究が盛んに行われています。この学問は「超高層物理学」などと呼ばれています。今回は「超高層物理学」について解説します。

地球から離れると太陽からの光や熱の影響を強く受ける

地球は太陽からの光や熱の影響を強く受けています。地表から遠く離れた宇宙に近い場所では、太陽から放出される高温で高エネルギーの太陽風に常にさらされます。太陽風の速度は150万~300万km/hと想像を絶する速度で不規則に吹き付けていて、オーロラが発生する原因にもなっています。

太陽風は地球に大きな影響を与える

太陽風は帯電した薄いガスのようなプラズマ状態になっていて、このエネルギーが大きな太陽フレアとして到達すると、地磁気に乱れが発生します。これを磁気嵐と呼びます。大きなものだと送電線に異常電流が流れ停電したり、GPSなど衛星測位システムが乱れたり、無線通信や放送波が途絶えるなど、日常生活にも影響が及ぶこともあります。
2022年2月にはSpaceX社の衛星インターネット通信サービス「Starlink」の通信衛星40基が、磁気嵐の影響を受けて地球に再突入せざるを得なくなりました。

この太陽風の状況などは、情報通信研究機構(NICT)が「宇宙天気予報センター」としてリアルタイムの様子を確認することができます。太陽の状態から、太陽風、磁気圏、電離圏の状態を常時モニターし、太陽フレアや地磁気嵐、デリンジャー現象、スポラディックE層を予想しています。

・宇宙天気予報センター
https://swc.nict.go.jp/

<地球磁気圏で最も大規模な変動現象-磁気嵐/NICT>

この太陽風による地球周辺の宇宙の状態変化は「宇宙天気」と呼ばれます。太陽風や磁気嵐については、以下の記事で詳しく触れていますので、参照してください。

宇宙にも嵐はある! 【宇宙天気】の観測や研究で宇宙の影響から社会を守る太陽からは放出されるプラズマや放射線などが地球にも到達して、地磁気などを乱したり通信障害を起こしたりすることがあります。そのため、地球周...

地表のはるか上層に関して研究する「超高層物理学」

地球に近い部分の大気圏から宇宙にいたるまでの空間では、いつも見上げる空からは想像しがたいダイナミックな動きが観測できます。このような地表のはるか上層に関して研究する学問を、超高層物理学、超高層学、高層大気物理学などと呼んでいます。

地表から100km以上先が宇宙と呼ばれ、国際宇宙ステーションが飛んでいるのは400kmあたりになります。ここまでに至る大気圏は、地表から見ると対流圏(0~10km)、成層圏(10~45km)、中間圏(45~80km)、熱圏(80km以上、電離圏とも)、さらに上は外気圏と呼ばれるエリアに定義されています。

また、厳密な範囲はありませんが、地球に近い宇宙空間を「ジオスペース」と呼ばれていて、さらに上層の磁気圏とともに研究が盛んです。この地球周辺の空間は、地上では珍しいプラズマ状態になっていることから、さまざまなプラズマ現象や電波の実験や観測をするには、研究者の視点から見ると魅力があるのです。このプラズマ現象を研究するプラズマ物理学という分野もあります。

・空と宇宙の境目はどこですか? JAXA
https://fanfun.jaxa.jp/faq/detail/103.html

人工衛星などを使って日々観測、研究を続けている

観測には、地表からはもちろん、気球に観測機器を付けて飛ばす「ラジオ(GPS)ゾンデ」、人工衛星なども使われます。気象庁には高層気象台があり、日々観測しているほか、観測しにくい大気重力波についても南極昭和基地で継続的に観測しています。

人工衛星としては、1975年に打ち上げられた「たいよう」(運用は完了)から始まり、太陽観測衛星「ひので(SOLAR-B)」(2006年9月打ち上げ)、ジオスペース探査衛星「あらせ(ERG)」(2016年12月打ち上げ)、国際宇宙ステーションも活用されています。

<M-3C-2(超高層大気観測衛星「たいよう」)1975年打上げ/JAXA>

<気球を使った観測の様子/高層気象台>

・ラジオゾンデによる高層気象観測/気象庁
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/upper/kaisetsu.html

放射線帯を観測する研究

この「あらせ」は、ジオスペース内にある高エネルギーの放射線が充満しているエリアの放射線帯(ヴァン・アレン帯とも呼ばれています)中心部で高エネルギーが生まれる過程を世界で初めて観測しようとするプロジェクトです。研究には名古屋大学をはじめとした国内外の約30の大学や研究機関が加わっています。

・ERGプロジェクト
https://ergsc.isee.nagoya-u.ac.jp/

<放射線帯の謎を追う! ジオスペース探査衛星(ERG)>

「あらせ」での観測データを使い、多くの研究成果が発表されています。例えば、金沢大学総合メディア基盤センター、東京大学、名古屋大学、大阪大学、東北大学、宇宙航空研究開発機構と共同で、「明滅するオーロラの起源における物理プロセス」を解明することに成功しています。

・明滅するオーロラの起源をERG(あらせ)衛星が解明
https://www.kanazawa-u.ac.jp/rd/54374

「電離圏」の観測から、竜巻や地震の予見に活用する研究も

ほかにも、「電離圏」では、D、E、F1、F2と呼ばれる複数の層に分かれ、分子や原子が電離して電波を反射する性質を持っています。この電離圏では、太陽活動や昼夜、季節などで電離の状態が変化し、電波の反射状態も変わります。

たとえば、地上から短波(HF)帯の電波を電離圏に向けて送信すると、電離圏で反射し地上に戻ってくるという性質があるため、人工衛星との通信には周波数の高い超短波(VHF)や極超短波(UHF)が使われています。しかし、E層に突発的に発生する特殊な「スポラディックE層」は、電子が密となるため、この高周波数の電波さえも反射します。

特に強いスポラディックE層が発生したときは人工衛星との通信だけでなく、遠い国と通信が混信したり、GPSなどの測位衛星の電波が不安定になり測位が安定しないこともあります。

これらの現象を応用して、電離層の状態を観測し、雷や竜巻、地震といった自然災害の予見に活用する研究も行われています。例えば、電気通信大学には「宇宙・電磁環境研究センター」があり、菅平宇宙電波観測所で電波観測や人工衛星との通信を行い、学部の専門科目の演習にも使われています。

・電気通信大学 宇宙・電磁環境研究センター
http://www.ssre.uec.ac.jp/index.html

「超高層物理学」が学べる大学の学部、学科

理系の理学や工学、物理学などの学部で、関連の研究室を持つ大学を目指すと良いでしょう。
名古屋大学には「宇宙地球環境研究所」があり、ジオスペース探査衛星「あらせ」の研究にも深く関わっています。東北大学理学部 宇宙地球物理学科には地球物理学コースがあり、「惑星プラズマ・大気研究センター」でオーロラの研究などが行われています。

・名古屋大学 宇宙地球環境研究所
https://www.isee.nagoya-u.ac.jp/hscontent/hstop.html

・東北大学 理学部 宇宙地球物理学科
https://www.gp.tohoku.ac.jp/index.html

また東京大学理学部、東京工業大学理学院、京都大学理学部、北海道大学理学部、九州大学理学部などに、地球惑星科学や地球惑星物理学の専攻が用意されています。地球惑星科学は宇宙の太陽系全般を扱いますが、プラズマなどの物質や生命の起源なども探求します。
ほかにも、観測用のロケットや人工衛星に興味がある場合には、工学部などで宇宙工学や航空宇宙学などを目指すと良いでしょう。