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超高齢社会日本で注目される学問【老年心理学】。高齢者の心の健康を研究する!

総人口の3割弱を高齢者が占める超高齢社会の日本において、注目されているのが、老年期の心のあり方や、高齢者への心理的援助について研究する「老年心理学」です。老年心理学はどのような学問なのか、またどこの大学で学ぶことができるのかなど、解説します。

老年心理学とは

老年心理学は、高齢者の心のあり方や高齢者が抱える心理的問題、加齢による精神機能の変化、長寿をもたらす心理学的要因、認知症に対する対処法などについて研究します。さらに、高齢者の心理や行動を理解して、必要な心理的援助方法なども学びます。

背景にあるのは日本の超高齢社会

これまで発達心理学の主流は、人が生まれて成長し、大人になるまでのプロセスを研究する児童心理学や青年心理学でした。ところが日本社会では高齢化が進んできました。

総務省統計局によれば2020年9月の時点で65歳以上の高齢者は3617万人、総人口に占める割合は28.7%、国民の約3.5人に1人が65歳以上となりました。そして日本は世界一の長寿国家です。

今後も高齢者率の増加傾向は続き、2040年には約2.8人に1人、2060年には国民の約2.6人に1人が65歳以上となる社会が訪れると推測されています。

日本の高齢化推移と将来推計

西暦 日本の65歳以上人口 高齢者の総人口に占める割合
2000年 2201万人 17.4%(約5.7人に1人が65歳以上)
2020年 3617万人 28.7%(約3.5人に1人が65歳以上)
2040年 3920万人 35.3%(約2.8人に1人が65歳以上)
2060年 3541万人 38.1%(約2.6人に1人が65歳以上)

こうした高齢化の進行とともに、子どもや若者だけでなく高齢者の心理を対象とする学問が活発化するようになったのです。2004年には国立長寿医療センターが開設。老年心理学を国家レベルで研究する土台が整いました。

【参考】総務省:統計からみた我が国の高齢者
https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topics126.pdf

【参考】内閣府:高齢化の現状と将来像
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2019/html/zenbun/s1_1_1.html

老年学(ジェロントロジー)との関係

高齢者を対象とした学問にはもうひとつ、「老年学(ジェロントロジー:Gerontology)」があります。老化や加齢にともなって発生するさまざまな問題の解決方法を研究する学問です。

老年心理学は高齢者の心の問題や精神機能に特化した研究ですが、「老年学(ジェロントロジー:Gerontology)」では、心に加えて、難聴や老眼など身体の問題、医療、介護、年金などの社会保障制度全般、高齢者に関わる法制度などの社会デザインまで幅広く研究対象に含みます。老年心理学はこの老年学の一領域でもあります。

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老いると「幸福度」は下がる?

高齢者の心理を考えるうえで、重要な指標となるのが「幸福度」です。多くの人は年を重ねると、身体が思うように動かない、社会とのつながりが薄れる、孤独を感じやすく内向的になりやすいなどのネガティブな状況に直面ことになります。そのため若者から見ると、高齢者の幸福度は低いと思われがちです。

ところが、年を重ねることでこうしたネガティブな状況に直面しているにもかかわらず、幸福感は維持できる、つまり高齢者の幸福度は低くないという「エイジングパラドックス」と呼ばれる現象があるといわれています。なぜこのような現象が起きるかというと、加齢にともなって失ったものに対する心理的な対処法が、高齢者の中でうまく機能するからと考えられています。

例えば散歩を趣味としている高齢者の場合、加齢とともに身体的能力や体力が下がって、お気に入りのコースにあった公園まで行くのが難しくなると、幸福度が下がると考えられます。しかしそういう状況に対して、目標を近くの公園に変えてみる、杖などの補助器具に頼る、家族に介助してもらって一緒に散歩を楽しむなど対処することで、ネガティブな状況がもたらす損失を抑えることができれば、幸福感は下がらずに済みます。

もうひとつの方法は、「諦める」ことです。できなくなってしまったことについて落ち込むのではなく、「仕方がない」と納得することによって、幸福度を維持することが可能です。

このように、高齢者は自分の心をコントロールすることで、高齢で何かを失ってしまっても、幸福度を維持することができるというのが、エイジングパラドックスのひとつの答えです。

老年心理学からのアプローチは重要

老年心理学は、加齢による肉体の衰えによる心の問題だけでなく、認知症などの高齢者の疾病にともなう心理、高齢者と家族のつながり、介護支援者とのコミュニケーション、さらには発達心理学や臨床心理学など他分野との連携など、関わる分野は広いといえます。

今後も高齢者は増えていくと予測されます。高齢者が生き生きと暮らせる社会を目指すには、老年心理学からのアプローチは重要です。

「老年心理学」が学べる大学

老年心理学は心理学部のほか、社会福祉学部や人間科学部、社会学部に設置されている場合もあります。日本福祉大学では、社会福祉学部に「老年心理学」を設けています。

そのほか、東京福祉大学の心理学部心理学科通信教育課程、武蔵野大学の通信教育部人間科学科心理学専攻、人間総合科学大学人間科学部心身健康科学科でも学ぶことができます。

老年心理学を学ぶことで就ける職業は

現場で高齢者と接する機会の多い介護施設や老人福祉施設などの福祉関係、医療関係の仕事で、学んだことを生かすことができます。高齢者相手のカウンセリングなどでも、知識を活用することができるでしょう。

『老年心理学』の活用が期待される分野

福祉、介護、医療、カウンセリング

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