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意外と知らない「博物館」の役割。【学芸員】を目指すには大学で何を学ぶ?

歴史博物館、科学博物館、美術館など、さまざまなタイプの博物館がありますが、いずれも文化的な資料、芸術作品などが展示されています。今回は、身近なようで、意外と知らない博物館の役割を紹介し、「学芸員」として博物館で働くには大学でどのような勉強をすれば良いのか、説明します。

「博物館」は単なる見せ物小屋ではない

「博物館」というと、社会科見学など、誰もが一度は足を運んだことがある施設だと思いますが、どのようなイメージを持っているでしょうか。

さまざまな資料が「展示」されており、それらをなんとなく眺めて感心する、はたまた、珍しい貴重なお宝を目の前に大行列をなしている様子などを思い浮かべるのではないでしょうか。

たしかに「展示」は、博物館にとって重要な機能のひとつですが、あくまで一面に過ぎません。実際には展示資料以外も含めて、幅広い資料を「収集」しており、それらの「保存」や「調査研究」、さらには「教育」などさまざまな機能を担っています。

博物館では、特に普段見られないような珍しい資料、作品などを目にすることも少なくありません。テレビなどで「特別企画展」を大々的に宣伝している場合もあります。しかし、博物館は単に「物珍しいもの」を展示して入場料を取る「見せ物小屋」ではありません。

実は「博物館」という施設のくくりは意外と広く、「博物館」と名がつくものだけでなく、「歴史館」「美術館」も博物館のひとつですし、そのほかにも「動物園」「水族館」などを含む多種多様な文化施設が含まれます。

教育施設としての働きも

博物館の大切な働きとして「教育」があります。貴重な資料を目にする機会を提供するだけでなく、事前に企画を練った上で背景や他資料なども含めて解説、展示し、文化的な存在意義や科学的知見などを学ぶ機会を提供する場として重要な働きを担っています。

さらに実際に手が触れることができる資料や体験できる企画を用意したり、有識者による解説や講演を行うなど、学校教育とは違った側面から、幅広い人々に学びの場を提供しています。

<東京国立博物館>

貴重な資料を未来に残す役割

博物館では、国宝や文化財をはじめ、貴重な資料などを多く収蔵している場合がありますが、国宝などに指定されていない場合でも、民俗資料、古文書、出土品、化石など、博物館で扱うテーマに沿ってさまざまな資料を収集します。

歴史的な資料に関しては、時間の経過とともに劣化が進み、損壊するおそれもあります。そのため貴重な資料は、将来に向けて傷まないよう保管しています。

場合によっては貴重な資料を後世に残すため、修復する必要も生じます。海外において、古い宗教画を素人が修復を行ったことから、台無しにしてしまったと報じられたニュースを覚えている人も少なくないのではないでしょうか。

それは失敗例ですが、保存だけでなく、傷んだ資料や作品などを修復するのも、まさに博物館の大切な仕事なのです。日々の調査研究のもと、背景や作品の意味合い、用いられた技法など、資料の持つさまざまな性質を踏まえ、本来の資料的価値を失わないよう配慮しつつ、専門家の協力を得ながら修復を行っています。

また展示などを通じて損壊が進むおそれがあれば、レプリカ(複製品)などを用意し、教育と保存の両立を図るなど工夫しています。

<大エジプト博物館 合同保存修復プロジェクト>

「博物館」のようで「博物館ではない施設」も少なくない

ところで「博物館」と名乗っていても、博物館でないケースが多々あるのをご存じでしょうか。

というのも、日本では「博物館法」という法律のもと、博物館が定義されています。運営者や開館日数、国や地方自治体に登録されるなど、要件を満たしたものが「博物館」とされます。

注目すべきポイントは、「博物館」「博物館相当施設」となる要件のひとつとして「学芸員」の設置が必須となっていることでしょう。

文化庁によれば、登録博物館は、2018年の時点で全国に914館。さらに博物館と類似した事業を展開し、法制度上同様の扱いを受ける「博物館相当施設」が372館あります。

その一方で、博物館相当施設と同種の事業を展開しつつも、博物館法の適用外となる「博物館類似施設」が4452館と大半を占めているのです。

博物館にとって必要不可欠な「学芸員」 

単に展示にとどまらず、博物館では、収集、保管、調査研究、教育と幅広い機能を担っていますが、博物館の運営において重要な働きを担うのが「学芸員」と呼ばれる人々です。学芸員は「博物館法」に定められた専門的職員です。

「学芸員」になるには、大学でなにを学べばいい?

「学芸員」は国家が定める資格で、文部科学省の資格認定試験に合格することで取得できますが、大学や短大において、学芸員資格の取得に必要な科目を履修することが一般的といえるでしょう。

文部科学省令の定める博物館に関する9科目19単位を修得する必要があります。2022年4月1日現在、292大学で学芸員資格を取ることができる講座が開講されています。

講座では博物館の管理運用に必要な知識を学ぶ「博物館学」を履修します。

具体的には博物館の概論をはじめ、「博物館資料論」「博物館展示論」「博物館教育論」など、いわゆる博物館の機能について学習するほか、博物館を運営するための「博物館経営論」などを学びます。また実習などもあります。

学芸員資格の取得に必要な大学の科目(9科目19単位)

科目名 単位数
生涯学習概論 2
博物館概論 2
博物館経営論 2
博物館資料論 2
博物館資料保存論 2
博物館展示論 2
博物館教育論 2
博物館情報・メディア論 2
博物館実習 3

・文化庁:学芸員養成課程開講大学一覧
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bijutsukan_hakubutsukan/shinko/about/daigaku/

・神奈川大学:学芸員課程
https://www.kanagawa-u.ac.jp/education/curator/

・明治大学:学芸員課程
https://www.meiji.ac.jp/shikaku/course/gakugei/index.html

・工学院大学:学芸員課程
https://www.kogakuin.ac.jp/career/license/curator.html

学芸員資格は最初の一歩

「学芸員」となるためには資格が必要ですが、資格を得たからといって必ず「学芸員」として活躍できるとは限りません。あくまで資格はスタートの一歩となります。

国公立の博物館では、公務員試験などもありますし、博物館で採用されなければ学芸員としては活躍できません。施設で欠員が出て初めて募集が行われるケースが多く、競争率が高い職業です。また博物館によっては語学力や研究実績などを問われる場合もあります。

とはいえ、学問を究めるという点で、大学における研究職とは違った魅力があります。学芸員に興味があれば、学芸員講座を開講している大学を目指してみても良いかもしれません。

・文化庁:学芸員になるには
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bijutsukan_hakubutsukan/shinko/about/gakugeiin/