カーレース世界最高峰のフォーミュラ1(F1)や国内開催のスーパーフォーミュラはファンも多いことと思いますが、このエキサイティングなフォーミュラレースには学生版もあるのをご存じでしょうか。今回は多くの大学が参加する【学生フォーミュラ日本大会】を解説します。
高速レース向けのフォーミュラカー
カーレースのひとつにフォーミュラカーのレースがあります。フォーミュラカーとは、舗装されたレースコースを、可能な限り高速で走るレース専用の形状をした自動車のこと。
一般道を走る車のほとんどは、座席が屋根、ドア、窓などで覆われていますが、フォーミュラカーの運転席にはそれらがありません。また、一般の自動車にあるような、タイヤを覆うフェンダーもなく、大きなタイヤがむき出しの状態で走行します。
車体の前後に大きなウイングを取り付けられている点も特徴です。通常、高速で自動車が走行すると、車体が空気の力で上に押し上げられます。フォーミュラカーは特別軽量であるため高速走行すると宙に浮かびかねません。そこで車体が飛ばないよう、ウイングによる強力なダウンフォースで路面に押しつけて走行するのです。動力はレースによってさまざまあり、ガソリンや水素のエンジン、電気モーターが使われています。
このようにフォーミュラカーは、車体が軽量でコーナリング性能も高く、速度が出やすいカーレースの規格になります。急な曲がり角も多いF1レースですが、平均速度は200km/h以上、最高速度も300km/hを超えます。
・F1 Race Highlights | 2022 British Grand Prix
https://www.youtube.com/watch?v=bM6ren2tPU8
3年ぶりに9月に「学生フォーミュラ日本大会2022」開催
学生がこういったフォーミュラカーを使って参加するレースは、「学生フォーミュラ」として各国で開催されています。エンジンは710cc以下で車体も通常のF1よりも小型になりますが、形状はF1などと同じフォーミュラカーです。
国内では「学生フォーミュラ日本大会2022」として、静岡県にある「エコパ(小笠山総合運動公園)」で2022年9月6日~10日に行われる予定で、全国から65チームがエントリーしています。
コロナ禍の影響で中止、または公式記録会という形式で規模を縮小することもありましたが、基本的に毎年1回開催されています。
・学生フォーミュラ 日本大会
https://www.jsae.or.jp/formula/jp/
<第20回 学生フォーミュラ 日本大会 2022 シーズン紹介>
車づくりとレースが実際に経験できる祭典
学生フォーミュラ日本大会に参加するのは大学、高等専門学校、自動車大学校といった学生のチームです。車両の設計も含めすべてが学生の自作で、レーシングカーを1年かけて企画、マーケティング、設計、製作までをトータルで行うという本格的な競技です。
参加する学生は、チームを自ら作り、予算の確保に奔走し、自作設計車両でレースに挑むという、ものづくりを学んでいる学生たちにとってリアルな車の設計、製作とレースが体験できる、大変貴重な祭典といえるでしょう。
単に速さを競うだけではなく総合力で決まる
成績は単にレース結果だけでなく、企画力やコストを含めた総合点で競います。競技は大きく車検、静的審査、動的審査の3項目に分かれています。さらに動力がICV(ガソリンエンジン)とEV(電気)に分かれていて、競技項目も細部が異なります。
「車検」では安全性を審査します、例えば、ICVは騒音で一定条件の騒音がうるさくないか(110dB以下)計測しますが、EVでは騒音測定はなく、代わりに電気的な安全性をチェックします。
「静的審査」とは妥当なコストか、設計の適切さや革新性、加工性、補修のしやすさ、製造販売を想定したプレゼンテーションテクニックが審査対象です。
動的審査の「エンデュランス」は見応えタップリのレース
見どころは「動的審査」、つまり実際に走行させるレースになります。動的審査も複数パートに分かれていて、「エンデュランス」が周回コースを約20km走行しタイムを競うという、よくあるカーレースっぽい競技で、高いドライビングテクニックも要求されます。耐久レースほどではありませんが、自作車両を長時間高速走行させるのは難易度が高く、リタイアするチームも続出します。
ほかに0~75mの加速を計測する「アクセラレーション」、コーナリング性能を見るため8の字コースでタイム計測をする「スキッドパッド」、直線、ターン、スラローム、シケインによる約800mのコースを2周タイム計測する「オートクロス」、エンデュランス走行時の燃料・電力消費量を計る「効率」の総合点で競われます。
<2019 Formula SAE Japan: Endurance & Efficiency FINAL6>
ICVで使うエンジンは最大710ccまでの4サイクルというルールがあり、多くのチームはバイク用のエンジンを流用しているようです。バイク用600ccエンジンは100ps(馬力)を超えるものもあり、並列4気筒、V型や並列の2気筒、単気筒と、選ぶ形によって特性や振動が変わります。またエンジンの置き方を縦にするか横にするかでも設計思想は変わります。EVでは最大出力80kW以下で最大公称作動電圧は600VDCとなっていて、電気モーター数の搭載制限はありません。
大会の1カ月前には、本番の車検で落ちてしまうという事態を極力防いだり、実際に走行させてみて問題のある部分の洗い出しをする事前テスト走行を目的とした「支部合同試走会」が行われることになっています。試走会と模擬車検で不具合があった部分は、本番までに修正作業を行って本番に臨みます。
自動車技術を使ったものづくりとレースの醍醐味を満喫できる
学生フォーミュラは、単に速い⾞を開発してレースに勝てば優勝できるとは限らず、ものづくりの総合⼒が問われる競技になっています。多数の自動車関連会社がスポンサーとして参加していることも特徴です。ものづくりのプロセスを多角的に評価してもらえる、工学系の学生としてはまたとない機会です。
2019年の大会ではYouTubeでライブ配信も行われていました。レースのアーカイブは見られますので、ぜひ以下のYouTubeチャンネルをチェックしてみてください。
・StudentFormulaJapan
https://www.youtube.com/user/StudentFormulaJapan/featured
「学生フォーミュラ」に参加を希望するなら、おすすめの大学、学部は?
大学進学後に学生フォーミュラ日本大会に参加してみたいと思っているなら、過去の大会の参加チームを確認すると参考になると思います。もちろん学部は工学部や機械工学など、自動車関連を含めものづくり系の学部学科を選択すると良いでしょう。
・学生フォーミュラ日本大会2022 登録チーム⼀覧
https://www.jsae.or.jp/formula/jp/SFJ/registeredteams.php
<【チーム紹介①】第20回 学生フォーミュラ 日本大会 2022>
2009年から2019年の10年間を上位入賞チームで日本の学校を見てみると、以下の大学になります。
東京大学、上智大学、静岡大学、東京都市大学、東海大学、静岡大学、宇都宮大学、同志社大学、京都大学、京都工芸繊維大学、横浜国立大学、名古屋工業大学、名古屋大学、日本自動車大学校、芝浦工業大学、大阪大学、同済大学、名城大学、横浜国立大学、神戸大学、茨城大学(順不同)
いずれも学生フォーミュラ日本大会参加の名門といってよいと思いますので、こういった大学、学校を目指せば、学生フォーミュラ日本大会に参加できる可能性が高いと思われます。