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【小型原子炉】 カーボンニュートラルかつ、安定したエネルギー源の切り札。311後も求められる人材育成

2011年3月11日に発生した東日本大震災以降、多くの既存の原子力発電所(原発)が停止中で、日本国内では電力の安定確保が課題となっています。原発の稼働には賛否の議論を続ける必要がありますが、今回は安全性を高めた新世代の原子力発電として注目される「小型原子炉」について解説します。

世界的なエネルギー危機を解決する必要がある

ロシアのウクライナ侵攻による影響で、日本を含め世界各国でエネルギー確保が不安定になっています。国内では2022年夏に電力逼迫(ひっぱく)による節電要請もあり、さらに冬には電力供給が厳しくなることが予測されるなど、電力の安定供給はすぐにでも解決しなくてはならない課題になっています。

また、CO2排出量を減少させていく目的から、太陽光発電や風力などの再生可能エネルギーの供給量を増やしていく流れがありますが、再生可能エネルギーの発電量は日射量や気象条件によって変化するため、電力供給が安定しにくくなります。

世界で見るとベースエネルギーとして原子力が見直されつつある

高度なIT化や電気自動車の利用増加、さらには地球温暖化によって暑さと寒さの幅が大きくなっており、冷房や暖房の利用が増えていくでしょう。電力使用量は、今後も増えることはあっても、減らすことは難しいと予想できます。

政府としては、西日本の原発や古い火力発電所を再稼働させることで、急場をしのぐことを発表していますが、長期的にどのようなエネルギー政策をとるのかは、今後も議論を続けていく必要があるでしょう。

日本では、東日本大震災での原発事故被害があったこともあり、原子力エネルギーの扱いについては消極的ですが、世界に目を向けると、原子力エネルギーを強化しようとする国も出てきています。英国、カナダ、フランス、中国、ポーランド、インドは、エネルギー戦略内で原子力に注力していくと発表しています。ほかにも、韓国とベルギーは、運転中の原発を段階的に減らしていく計画を縮小することにしていますし、脱原発を掲げているドイツでも、2022年末の廃止を延長する議論が起こっています。

ネットゼロエミッションにも有効な原子力エネルギー

2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロ(ネットゼロエミッション)を実現するにあたっては、国際エネルギー機関(IEA)が「原子力エネルギーが重要な役割を果たす」という、報告書の概要をまとめています。

かつては先進国での原子力への投資は鈍化してきていましたが、2008年からは英国政府が原子力推進に大きく転換していますし、中国は2020年に発電量がフランスを抜き世界第2位になっています。

・Nuclear Power and Secure Energy Transitions/ IEA
https://www.iea.org/reports/nuclear-power-and-secure-energy-transitions/executive-summary

安定した電力供給は、個人の生活だけでなく、国の経済力にも影響を与えます。エネルギーミックスの中で、変動の大きい再生可能エネルギー、安定しているガスや石油といった化石燃料や原子力エネルギーを、バランスよく構成していくことが重要です。

改めて考えたい原子力のメリットとデメリット

原子力エネルギーは、いったん原発を稼働させると一定の電力を供給し続け、途中の増減はほぼありません。そして発電時にCO2を出さない安定したベースとなる電源としてとても有用なのです。

ただしよく知られているように、原発の運用には問題も多くあります。これまで作られた原発は、すでに古くなってきていること、これまでの原子力関連事故の経験から安全性に懸念があること、そして、最終的に出る高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)をどのようにしていくのかという問題があります。

シンプルで安全性を高めた小型原子炉、冷却しやすさもポイント

こういった動きの中で、注目されているのが、小型原子炉や小型モジュール炉(SMR/Small Modular Reactor)と呼ばれるタイプの原発です。さらにコンパクトで移動も可能な超小型原子炉も開発されています。

既存の大型原発は100万kWを超えますが、30万kW以下と小さく、超小型のものは500kW程度で考えられています。小型原子炉はすでに原子力空母や潜水艦で稼働実績があり、日本でも1969年に進水した原子力船「むつ」の動力炉として古くから実用化させています。そして、さらに構造をシンプルにして、安全性を向上させた次世代の原子炉が開発されているところです。

<小型原子炉SMR徹底解説/キヤノングローバル戦略研究所>

<GE Hitachi’s Small Modular Nuclear Reactor BWRX-300 Advances Carbon Free Energy/GE>

小型原子炉はコストを抑えて柔軟に運用できる

小型原子炉の特徴は、小型のため地下に埋めやすく、冷却しやすいため安全性が格段に高まることです。工場であらかじめモジュールとして製造されるため、製品として安定していて、工期の短縮が可能なため施工費用も安価で済みます。

大型原発の場合には、冷却のためにポンプで水を循環させ、これが電源喪失により停止すると福島の原発事故のようにメルトダウンが起きてしまいます。しかし原子炉を小型にすれば、冷やしやすくなります。そして、冷却水を自然循環して熱交換させる仕組みにしておけば、冷却できないという事故発生を原理的になくして安全性を高められます。万一の事故時には、「炉を水没させてしまう」というパッシブな安全システムにすることで防ぐ仕組みにもなっています。

2020年段階に計画されていた小型原子炉は、アメリカが18基、ロシアが17基と突出していて、2021年にロシアにて1基がすでに実用化されています。日本でも7基が開発段階にあります。

・世界の小型モジュール炉の開発動向/内閣府原子力委員会
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2021/siryo32/1_haifu.pdf

<Enelog46 OVERSEAS VOICE インタビュー フィリス・ヨシダ氏/電気事業連合会>

全固体原子炉を使ったマイクロ原⼦炉

三菱重工では、離島やへき地、災害地⽤電源向けにポータブル運用が可能なマイクロ原⼦炉を開発しています。設計寿命の25年間燃料交換不要の⾃動運転とメンテナンスフリーを実現し、コンテナに搭載しトラックで移動が可能になっています。また⾼熱伝導体を使い液体の循環が不要な全固体原子炉にすることで、冷却できなくなるという事故を起こさないように対策しています。

運転開始目標は2040年頃と、少し先になりますが、同社が開発中の高温ガス炉や高速炉と並んで、次世代原子炉の一翼を担うことになると期待されています。

その先には核融合エネルギーの利用も

さらに先の原子力エネルギーの電力活用では、これまでの原発で使われている、ウラン235の核分裂を連続反応させる方法ではなく、重水素と三重水素の原子核から核融合反応を得る核融合発電も研究されています。核融合反応は太陽の中で起こっている現象でもあり、燃料が枯渇することがほとんどない、カーボンニュートラルの理想的なエネルギーと期待されています。

<三菱重工核融合の歩み>

今後も原子力人材の育成は重要

原子力関連の教育としては、2021年に文部科学省の国際原子力人材育成イニシアティブ事業にて、「未来社会に向けた先進的原子力教育コンソーシアム(ANEC)」が活動を開始しています。原子力分野の人材育成を目的に、大学や研究機関等が組織的に連携して活動しています。

・未来社会に向けた先進的原子力教育コンソーシアム
https://anec-in.com/

近年、国内の大学では、原子力関連の学部や学科は少なくなる傾向にあります。しかし、社会的に見ると原子力の研究は、継続的に安定して必要といえ、今後も課題も解決していくことが求められていくでしょう。

昨今のエネルギー情勢を見ても、日本でも今後も原子力エネルギーと完全に決別することは難しく、今後も議論が必要です。今まで排出した高レベル放射性廃棄物をどのように処理していくかという課題を解決したり、福島第1原発事故の後処理も長期にわたり行っていく必要もあります。国土が狭くて資源エネルギーが乏しく、重大な原発事故を経験した日本ほど、有能な原子力関連の人材が求められていると考えられます。また、世界に目を向ければ、活躍する場は多いと見られています。

「小型原子炉」が学べる大学の学部、学科

原子力に関する研究は理系に含まれ、工学部などに専攻があります。先述した「ANEC」のとりまとめは北海道⼤学が行っていて、原子炉工学研究室を持っています。京都大学には複合原子力科学研究所があります。このような原子力関連の研究所を持つ大学を目指すのがもっとも近道でしょう。

・北海道⼤学 原子炉工学研究室
https://roko.eng.hokudai.ac.jp/

・京都大学 複合原子力科学研究所
https://www.rri.kyoto-u.ac.jp/

東京大学工学部には原子力専攻(専門職大学院)があり、原子核科学研究センターも運営しています。東北大学工学部 機械知能・航空工学科には量子サイエンスコースがあり、原子力関連について体系的に学べます。また量子エネルギー工学専攻を持つ大学院では、原子力人材育成に力を入れています。ほかにも、早稲田大学と東京都市大学は、共同で共同原子力専攻を運営しています。

・東北大学工学部 機械知能・航空工学科 量子サイエンスコース
http://www.qse.tohoku.ac.jp/course/quantum_science.html

・早稲田大学、東京都市大学共同原子力専攻
https://www.nuc.tcu.ac.jp/nuclear/