注目の研究テーマ

【越境EC】ネットで海外にモノを売る。コミュニケーション力がアップし、海外への理解も深まる!

インターネットを通じて海外にモノを販売する「越境EC」が成長しています。最近は個人でも気軽に始められるようになりました。お金を稼ぐ側面以外にも、越境ECにはさまざまなメリットがあります。学生には、世界全体を相手とした「社会勉強の場」にもなります。今回はそんな観点で、越境ECについて解説します(ビジネスや販売を目的にした売り方の記事ではありません)。

越境ECとは

楽天やAmazonで買い物したことはありますか?インターネット上のお店で、モノを買ったり売ったりすることをEC(Eコマース)といいます。ネットを使えば、日本に限らず、海外の人とモノの売買ができます。国境をまたいで、ネットで取引することを、越境ECといいます。私たちは日本にいながら海外の珍しいモノを購入したり、逆に、日本のモノを海外に販売したりできます。

現在、越境ECは世界的に活発化しています。デジタル技術の発達によって、十数年前に比べれば、かなり気軽に始められるようになりました。「稼ぐ」「ビジネス」という文脈で語られることも多い越境ECですが、メリットはそれだけではありません。実践することでいろいろなスキルや知識がおのずと身につきます。世界の状況を知ることもできます。

もし、将来はグローバルな仕事がしたい、大学に入ったら販売やマーケティングを学びたい、起業やビジネスに興味がある、といった人は、大学に入って越境ECを試してみるとよいでしょう。ただし、越境ECが始められるのは18歳になってから。海外販売に必要なECサイトや決済サービスの利用には、年齢の制限があるためです。ここでは、少し先を見越して、越境ECではどんな経験をするのかをお伝えします。

越境ECにチャレンジするメリット

越境ECを経験することで、具体的にどんなことを学べるのでしょうか。主なメリットを、以下に挙げます。

コミュニケーションのスキルが身につく

外国語を覚えるには、その国で暮らすのがいちばん、とよく言われます。生活のために、意思疎通に真剣になるからです。これと似たように、越境ECでも、必要に迫られコミュニケーションに本気で取り組むようになるでしょう。なぜなら、お金が絡みますし、トラブルも避けなければならないためです。

ビジネスでは、相手と信頼関係を構築することが必要不可欠です。コミュニケーションはその肝になります。越境ECを実践することで、外国語の習得はもちろん、正確にわかりやすく伝えるスキルにも磨きがかかるでしょう。

マーケティングの基礎がわかる

モノやサービスを販売するには、売り手であるあなたや商品について、多くの人に宣伝しなければなりません。越境ECはそれを気軽に体験する機会となります。大げさな、と思うかもしれません。しかし、言語、習慣、文化、生活環境などが日本と異なる海外の人にモノを売るには、「あなたがどんな売り手で」「どのような商品を提供し」「どんな人に使ってもらい」「利用者にどんなメリットがあるのか」を、考えて伝えなければなりません。これはマーケティング活動と呼ばれ、モノやサービスを売る企業も必ず行っています。越境ECは、マーケティングの基本をシンプルに体験する場となるでしょう。

世界標準のデジタルリテラシーを体感できる

越境ECでは、ネット上のさまざまなサービスを利用します。商品を販売するための「ECサイト」やお金を支払ってもらうための「決済の仕組み」、商品の宣伝などに用いる「InstagramなどのSNS」などがその代表例です。これらデジタルサービスの多くは欧米を中心に生まれ、世界中の人々に利用されています。日本に比べ、海外では高齢世代もタブレットやスマホを気軽に使いこなしています。さらに、中国をはじめとするアジアでは、デジタル化が急速に進み、便利なデジタルサービスが日本以上に浸透しています。こうした国々に比べると、日本はやや遅れた状況かもしれません。越境ECを行うと、世界標準のデジタルリテラシーを体感するきっかけとなるでしょう。

海外への理解が深まる

越境ECを始めると、外国の出来事や、世界経済の動きを、自分ごととして考えるようになります。例えば、ウクライナとロシアの戦争。ロシア上空の飛行規制が多くの国際物流を滞らせ、輸送コストの高騰を引き起こしました。円安・ドル高といった為替変動は、商品の値段に直接影響を及ぼします。また、日本ではあまりなじみのない国で災害やテロが起きたとき、あなたの商品を買ってくれた人がその国に一人でもいたら、他人(ひと)ごととは思えなくなります。越境ECに携わると、ニュースで報道される海外の出来事が、自分との関わりでとらえられるようになり、海外への理解が深まります。

海外販売に必要なこと

では、越境ECを行うには何をすればよいでしょうか。ネットで調べると、ECサイトの選び方や使い方の記事が多数上がってきます。確かに販売方法は重要ですが、それだけでは偏ります。越境ECの基本は、リアルなモノを海外の人に販売して届ける行為。そのために必要な流れを順に説明します。

商品

まず何を売るか、を考えます。その前に、海外に販売できないモノがあることを知っておきましょう。世界に共通して国際輸送ができないもの、国によって輸出入が禁じられているもの、輸送に多大なコストがかかるもの、勝手に売買できないブランド品、植物などの生物、などはそもそも取り扱えません。

・国際郵便として送れないもの
https://www.post.japanpost.jp/int/use/restriction/index.html

越境ECを試そうとするとき、向いているのは自分が作るオリジナル品です。アート作品や工芸品などで、小さくて壊れにくいものが適しています。後の段落で紹介する越境ECサイトから、どんな商品が売られているかをチェックしてみるとよいでしょう。

売り場(ECサイト)

売るモノを決めたら、次はどこで誰に売るかを考えます。例えば、世界中に向けて売りたいのか、国を限定したいのか。あるいは自分と同年代の人を対象にするのか、それとも経済的に安定した大人世代がよいのか。こうした判断が、ECサイトを決めるときに必要になります。ECサイトは、商品の特性や、販売対象、販売エリアなどに合わせて、適切なものを選びます(詳細は後述)。

マーケティング

自分の売り方に合うECサイトを決めたら、登録してアカウントを作ります。多くの場合、そのサイト上に自分の売り場を持つイメージです。売り場ができたらECサイトに商品をアップします。しかし無数にあるショップを商品が欲しい人が必ず見つけてくれるとは限りません。あなたが商品を販売していること、その商品の良さなどを、海外の人に広く発信する必要があります。手軽な手段として、Instagram、twitter、TikTokなどのソーシャルメディアが活用できます。

決済

越境ECでは、海外の人とリアルなお金の受け渡しができません。そこで、お金を電子的なデータに変換して受け取り・支払いを行う決済サービスを使います。日本ではここ数年でキャッシュレス決済が浸透してきました。欧米ではかなり前から普及しており、さまざまな決済サービスが使われています。

世界的に知られているサービスの一つにPayPal(ペイパル)があります。ほとんどすべてのクレジットカードと連携しており、海外決済の手段として広く利用されています。ほかにPayoneer(ペイオニア)やECサイトが提供する独自の決済サービス、中国向けのAlipay(アリペイ)などがあります。こうしたサービスでは、購入者がクレジットカードで支払いを行うと最終的に自分の銀行口座などへ売り上げを振り込んでくれます。

梱包と書類作成

海外の人に商品が購入されたら、発送に向けて二つの準備をします。一つは、商品の梱包(こんぽう)です。日本国内とは異なり、海外への輸送には日数がかかります。また、日本とは気候環境が異なる場所を通過して運ばれます。商品を安全に届けるために、しっかりとした梱包を行います。もう一つは、国際輸送のための書類作成です。外国に販売した商品を送る場合、配送方法と送り先国によって、それぞれ必要な書類があります。主に、通関のための税関申告書やインボイスなどです。

国際輸送

梱包した商品を、国際輸送業者のサービスを使って発送します。越境ECにおいて、重要度が高いのがこのプロセスです。海外への輸送手段を確保できなければ、越境ECは成り立たないからです。国際輸送業者はいくつかあります。個人が海外に商品を送る場合、日本郵便の国際航空便を利用するのが一般的です。外資系の輸送会社や、越境ECに特化した配送サービス会社などもありますが、個人向けの販売には適していません。コロナ禍以降、航空機の減便、さらにロシアとウクライナの戦争によって、国際輸送は乱れ、輸送コストも高騰しています。

通関

商品を外国に販売する行為は、どんなに規模が小さくても貿易です。売り手から見れば輸出であり、買い手からすれば輸入です。輸出入時には、その国の税関に、商品の名前、数量、価格などを申告します。また輸入では、商品によって関税や消費税がかかります。小規模な越境ECの場合、こうした輸出入申告や関税などの徴収は、国際配送サービス会社が代行します。特殊な商品を扱わない限り、個人が通関の手続きに直接関わることはないでしょう。しかし越境ECにおいて、通関は極めて重要なプロセスであることを理解しておきましょう。

アフターフォロー

商品が無事に届き、買い手が満足することで、取引は終了します。買い手から商品に関する質問やフィードバックなどがあったら、速やかに対応します。さまざまな輸送事情から、商品が届かない、破損して届いた、などのトラブルが発生することがあります。その場合は、返金や代わりの商品の発送などで対応します。

越境ECサイト

海外販売のためのECサイトは、大きく分けて多くの出品者が集い、市場のように販売する「マーケットプレイス型」と、自身の店を構える「独自型」があります。マーケットプレイス型でイメージしやすい例が日本でもおなじみのAmazonです。オンライン上の巨大な販売プラットフォームに一般の参加者も商品を出品して販売するスタイルです。

一方、独自型はネット上のアプリを利用して個人がECサイトを立ち上げ運営します。両者ともにさまざまなサービスがありますが、ここでは、個人が気軽に始められるもので、主に英語ベースのサービスをピックアップしました(以下のECサイトは18歳に達してから利用が可能です)。

Etsy(エッツィ) マーケットプレイス型

https://www.etsy.com/jp/sell
ハンドメイドやビンテージといった個性的な商品が集まったマーケットプレイスです。あたかも家の庭先で自分の手作り品を売る感覚で、品物を販売できます。敷居が低いため、まずは始めてみみたい、という人に適しています。

eBay(イーベイ) マーケットプレイス型

https://www.ebay.co.jp/
オークションサイトから始まった老舗の越境ECサイトです。現在、190カ国に展開しています。サポートが充実しており、越境ECに関わるイベントやセミナーも実施しています。マニュアルに従っていけば出品できますが、細かな利用規定や出品ルールがあります。

Shopee(ショッピー) マーケットプレイス型

https://shopee.jp/
東南アジア最大規模の越境ECプラットフォームです。シンガポールで生まれ、現在は、タイ、マレーシア、ベトナム、台湾など世界11カ国に展開しています。英語圏で生まれたECサイトが多いなか、東南アジアの人々に利用しやすい点が特徴です。

Shopify(ショピファイ) 独自型

https://www.shopify.com/jp
ネット上で提供されるECサイト構築サービスです。カナダのスノーボードのオンラインストアから始まった、売り手視点で作られたサービスです。そのため使いやすさに定評があり、同種のサービスとしては現在のところ、世界でもっとも多く利用されています。

越境ECで気をつけたいこと

文化や習慣が異なる海外の人を相手にするとき、日本のやり方・価値観は通用しません。日本では問題ないことが、海外ではできなかったり、日本で良いと思われることが、海外ではネガティブに受け取られたりします。例えば、商品の梱包です。日本では、商品を美しく何度も包装するほうが丁寧だと思われます。しかし海外では「過剰包装」「環境に配慮がない」と受け取られる場合があります。こうした観点で、越境ECで注意したい心構えをいくつか挙げます。

コミュニケーション

さまざまな国の人が対象になる越境ECにおいて、コミュニケーションはとても大切です。このとき、まずは英語をと思ってしまいがちです。確かに英語は世界共通語とされていますが、海外の人すべてが英語を使えるわけではありません。大切なのは、誠意をもって相手にわかるように伝える姿勢です。最近は翻訳ツールの精度が上がっています。便利なツールを活用しつつ、わかりやすいコミュニケーションを心がけましょう。

国際ルール

越境ECでは、WTO(世界貿易機構)によって決められた多国間での貿易ルールや、それぞれの国の法規制に従わなければなりません。たった一つの商品であろうと、海外に販売する場合、ルール順守は必須です。きっとバレないだろうと、輸入が禁止されている品物をこっそり箱に入れたり、税関申告書に虚偽の記載をしたりすると、大きなペナルティーを受けると知っておきましょう。また売り上げが多くなれば、日本国内でも確定申告をしなければならないことに注意しましょう。

詐欺メッセージ

商品を売り始めると、商品への質問や感想など、海外からさまざまな反応が届きます。商品についてSNSで発信をすれば、コメントやメッセージも来るでしょう。コミュニケーションの項目で触れたように、問い合わせには丁寧に対応したいものですが、注意が必要なのが詐欺メッセージです。最近は買い手を装った巧妙な詐欺の手口が世界中で増えています。これらを防ぐため、少なくとも以下を守るようにしましょう。

  • 別のSNSや電話などを通じたコミュニケーションに誘われても応じない
  • メッセージで送られてきたURLや添付ファイルは開かない。
  • 国際的な貿易ルールや各国の法規を順守する。
  • 利用しているECサイトや決済サービスの規定どおりに販売する。

典型的な詐欺メッセージ。日本と関係があることを匂わせて親近感を抱かせ、住所や電話番号を聞き出そうとする。LINEへの誘導もよくあるパターン。

「越境EC」について学べる大学、学部

現在、越境ECに特化して学べる大学はありません。しかしネットを通じた海外販売は、商品開発、販売、マーケティング、経営、貿易、物流、デジタル技術、データサイエンス、コミュニケーション、外国語など、さまざまな分野が関わります。越境ECは今後、もっと便利に発展していくでしょう。それぞれ興味のある分野を学んで、自分なりに関わってみてください。