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ドローンや3Dデータを駆使する【スマート林業】で山仕事が様変わり。ICT活用でウッドショックに勝つ

現在、世界的に木材の需要が高まってきていて価格も高騰中です。日本の林業はこれまで斜陽産業と見られている面がありましたが、ICT技術や林業向けに新たな専用重機も導入されるようになり、若い人材も流入しつつあります。今回はICTを使った新しい林業「スマート林業」を見てみましょう。

「ウッドショック」から高止まりする木材価格

2021年頃に始まった国際的な木材価格の高騰「ウッドショック」は、アメリカと中国の需要増や船舶の輸送費用高騰などが原因とされていますが、2021年10月をピークに付けた価格は、(少し落ちましたが)いぜん高止まりしていて、まだ落ちてきてはいません。

・どうなったウッドショック/経済産業省
https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/hitokoto_kako/20220502hitokoto.html


国内での住宅ローンの低金利政策やコロナ禍からリモートワークが一般的になったため郊外の住宅が人気になっていることもあり、しばらくの間、木材はこの高い価格が維持されると予想されています。現在の日本では木材を輸入に大きく頼っていますが、ウッドショックを受けて国産材を見直す動きもあります。日本の国土は約7割が森林に覆われていますので、これを活用しない手はありません。

若い世代が林業に進みやすい環境に

森林の維持には長い時間がかかるので、若い人材が必要不可欠です。しかし、あまり林業に進む若手が育ってこなかったもの現実です。実際、山の森林内で作業をするため体力が必要で、伐採のために長時間チェーンソーを扱うことから職業病として振動障害になりやすく、時にはケガや死も伴うキツイ労働環境でした。これが近年ICT技術や新しい機材が持ち込まれ、誰でも従事しやすい環境になってきました。

ICTで効率的に山を3次元デジタルデータ化

人の手では非効率だった作業が、ICTで効率的にできるようになってきています。例えば、空からレーザー測量を行い、森林資源を3次元デジタルデータにして可視化します。これにより、森林管理を効率的に行えるようになります。

これまで人が山に登って測量をしていましたが、とても非効率な作業でした。簡単にデータ化できれば、木の高さや太さにより樹齢を判断したり本数を把握して、人が実際に行かなくても遠隔のオフィスから伐採前の管理ができるようになるのです。

<森林3次元計測システムOWL OWL System>

<産業用無人ヘリコプターによる森林レーザ計測・データ解析説明のご紹介/ヤマハ発動機>

ドローンなど無人機の活用で省力化

この森林を計測する作業には、無人ヘリコプターや小型ドローンが活用されるようになっています。人が乗る航空機やヘリコプターなどの測量を頻繁に行うことは困難ですが、無人のドローンなら安価に飛ばすことができますし、森林や山肌に近づくことも簡単です。

計測したデジタルデータがあれば、木を所有する人を1本単位で管理することも簡単にでき、所有者は現場に行かずリモートで確認できます。個人の投資を多数募って木の所有権を持ち、育てることをビジネスとするような新しい林業の手法も考えられます。

ほかにもドローンは、山間部で木の苗を運ぶ作業にも使われはじめています。これまで苗木を山の上まで持っていくには、大変な労力が必要でしたが、ドローンを使えば植えるピンポイントの山肌に自動的に持っていくことができるようになります。

<ドローンで苗木が運べるようになりました/愛媛県公式チャンネル>

重機の進化とICTの効率化で注目の職業に

さらに近年、林業専用の重機が開発されるようになり、省力化に大きく貢献しています。林業の収穫である伐採作業の機材は、農業と同じようにハーベスターと呼ばれています。チェーンソーが搭載され、木の伐採から枝払いや皮むき、一定の長さでの切断を一台で一気に行ってしまう機材が登場し、大きく効率化をあげています。

基本的に油圧ショベルの先端部分を交換して使う方法をとっていますので、交換することでさまざまな木材の加工や運搬ができるようにもなっています。このように重機が進化してくると、指先の繊細な操作だけで仕事ができますので、単純な体力的にキツイ仕事ではなくなり、体力を懸念して選択肢から外すこともありません。力の弱い女性も活躍する可能性も大いに出てきます。

日本の林業ではまだ実現されていませんが、重機はICTを活用して無人操作される方向に進化しつつあります。人は山の上に登らずに、麓の事務所から遠隔操作で伐採作業をするような時代も近くまできています。さらに、切断し造材した木は、その場で位置情報とともに太さ別に分類された状態で、あらかじめ設定した運搬路を自動運転で運ばれていくようになるでしょう。

<松本システム:ハーベスター(トリケラ)>

<スウェーデンの森は、IoTの森だった。/コマツル>

森林の情報はクラウド上で一元管理

今後、林業のICT導入は、より進んでいくと考えられます。デジタルデータ化した森林の情報は、クラウド上で一元的に管理することが、林野庁の主導で進められています。「森林クラウド」と呼ばれていて、ICTを活用した作業の効率化が期待されています。広域で計画を進め、省力化、自動化を進めていく上では重要な作業です。

森林クラウドは、これまで都道府県ごとに異なるシステム業者が独自に開発していたものを、標準仕様を決めてクラウドで管理するという方法です。地籍と所有者の情報、森林計画図、林道や保安林台帳、樹種や樹高のセンシングデータなどの情報を広く共有することができます。こういったデータは地理情報システム(GIS)とも呼ばれています。伐採計画や道の設定、タブレットなどのモバイル機器を使った作業現場との情報共有、など効率的にできるメリットがあります。もちろん、測量データは定期的に更新していく作業も必須です。そのためにも、標準化は重要です。

大学発の林業ベンチャー企業も生まれている

このような林業でICTを活用した取り組みは、大学でも研究が続けられています。信州大学農学部は2021年に文部科学省エントランスにて「ICT・AI技術を活用したスマート精密林業」という展示を行っており、この研究成果から「精密林業計測」というベンチャー企業を生み出しています。

これは、軽飛行機やドローンのレーザー計測で得られた3DデータとIoTハーベスターを使って緻密に森林情報を共有するというもので、木材の品質により生産価格も算定するという実践的なシステムになっています。また、ドローンで苗木を撮影し、AIによって苗木の位置や生育状況を自動で確認できるシステムも開発しています。

<ICT・AI技術を活用したスマート精密林業が日本の林業を変える/信州大学>

・精密林業計測株式会社
https://www.prefore.org/

国内の木材自給率を50%にして安定供給

森林は長いスパンで育成する必要があり、急に増産することはできません。長く将来を見据えた林業の展望も必要になります。ウッドショックによる高騰というだけでなく、価格が戻った際にも持続的に供給でき、また活用する側もうまく国産木材を使っていく体制も必要になるでしょう。

国内の木材自給率は、2000年代に一時18%まで落ち込んでしまいましたが、政府が国産木材の活用を掲げることで、現状では40%まで回復してきています。これをさらに50%まで増やすことを目標としています。ICTによる高効率化によって、自然を相手にしながら稼げる職業にもなり注目されています。

「林業」が学べる学部学科

林業に関しては、農学部を中心にして学ぶことができます。より専門的な林業大学校もあります。林野庁が林業に関連する教育機関を公開していますので参考にしてみてください。

・林業技術研修教育機関及び森林・林業に関する学科・科目設置校
https://www.rinya.maff.go.jp/j/ken_sidou/fukyuu/ringyoukyouiku.html