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【ジェンダー学】とは? 多様性社会に必要な「男らしさ」「女らしさ」という決めつけからの解放

従来の社会では女性が活躍する場面が限られていました。その背景にあるのは、「男らしさ」「女らしさ」という社会の決めつけです。このような状況を改善し、性別や環境を問わず、すべての人が自立して生きていくための仕組みや構造を考えるのが、「ジェンダー学」です。

「ジェンダー学」とは? 社会に合わせて変化するジェンダー

身体的な性別とは、「男性」や「女性」もしくはその両方の性質を持つ「インターセクシュアル」を指します。「ジェンダー」もまた性別にかかわる言葉ですが、意味合いが異なります。ジェンダーとは、社会の中で構築された「男らしさ」「女らしさ」を指します。

誰しも「あの人は男らしい(あるいは女らしい)」「男のくせに女々しいことを言うな」「女なのに気が強くて、男勝りだ」といった言葉を聞いたことがあるでしょう。それは本来の性別とは別の「男らしさ」「女らしさ」という概念による決めつけから生まれた言葉です。それがまさにジェンダーなのです。

そのようにジェンダーの視点から社会について考える学問が「ジェンダー学」です。ジェンダーは国や民族、文化によって異なることもあります。また、文化に根付いたジェンダーであっても、社会の発展、時代に合わせて変化していくケースもあります。

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女性の可能性を奪ってきた「男性中心社会」

かつての日本では「男は働き、女は家事に専念する」という考えが定着していました。このようなジェンダーによる男女の線引きは、男性が中心となって社会を動かしていく「男性中心社会」を構築してきたといえます。

しかし、この男性中心に偏った社会には多くの課題が存在していました。その中でもっとも重大なものは、「女性が持つ可能性を抑圧してきた」という点です。

これにより、従来は女性が就ける職業にも制限がありました。古い例になりますが、幕末に活躍した著名な医師シーボルトの娘である楠本イネ氏は、高度な西洋医学を修得していたにも関わらず、女性であるために医術開業試験を受けることができなかったのです。

男性中心社会は男性側にも不利益

男性中心社会に不満を持っているのは、女性だけではありません。男性の中には、社会から継続的な労働を求められていることや、過労死などのリスクが女性よりも高い点に不満を抱えている人もいます。

そのほかにも、国によっては男性のみが軍隊に徴兵されるなど、男性にはさまざまな形で負担や勤労が求められています。

ジェンダー学とは、そのような男性側からの視点や意見を尊重したうえで、男女が平等に自立できる環境づくりを目指す学問でもあるのです。

ジェンダーが抱える問題

現在の社会においてジェンダーによって生まれた差別には、どのようなものが存在するのでしょうか。そのひとつが「ジェンダートラッキング」です。

性差による決めつけ「ジェンダートラッキング」

現代では、性別による就業制限のようなあからさまな差別は減りつつあります。しかしそれでも消防士のような過酷な職業に女性が就くことに対して、差別や偏見の目が向けられることもあります。逆に、子ども好きの男性が「保育士になりたい」といったときにも、同様の偏見を持たれがちです。

このようにジェンダーによって、男女比に大きな差が生じている職業があるのも事実。このように、「男性ならこうするべき」「女性ならこうするべき」と、性別の違いによって進路や趣味を強制、あるいは制限されてしまうことを、「ジェンダートラッキング」と呼びます。

私たちは生まれたときからジェンダーを押し付けられている?

このように人々の人生に大きな影響をもたらすジェンダー。しかしこれは先天的な存在ではありません。極端にいえば、ジェンダーとは、他者や社会から後天的に押し付けられたものであるといえます。

後天的というなら、私たちはジェンダーをいつ、どのような形で植え付けられたのでしょうか。

「ベイビーX実験」が明らかにした「ジェンダーの押しつけ」

あなたが、「生後3か月の赤ちゃん」の世話を頼まれたとします。そして目の前に、ロボットの人形と女の子の人形があったら、どちらを赤ちゃんに与えるでしょうか。

このような、「生まれて間もない赤ちゃんに対して、人々がどのようなアクションを取るのか」という実験を「ベイビーX実験」と呼びます。

上の実験では、最初に多くの人が「この子は男か、女か」と尋ねました。そこで「男である」と教えられた人は、ロボットの人形やボールなどの「男の子らしい玩具」を持っていきました。それとは逆に「女である」と教えられた人は、着せ替え人形などの「女の子らしい玩具」を与えたのです。

その選択は、赤ちゃんの意思は関係なく、世話をする大人が赤ちゃんに押し付けているのです。つまり大人が属している社会の「ジェンダー」による判断であるといえます。この実験によってわかるのは、「人は生まれたときからジェンダーを押し付けられて成長する」ということです。

<女の子のおもちゃか男の子のおもちゃか 性別の実験>

テレビ番組のステレオタイプな男性像、女性像を見ながら成長していく

近代では、ジェンダーにとらわれることなく子供を育てようという動きが広がりつつあります。しかし依然として子供向けのアニメやバラエティー番組では、男女に異なる役割を与えているのも事実です。

子供たちは、周りの大人だけでなく、テレビなどのメディアからもジェンダーを学習しています。その状況で、子供たちの才能や可能性を、性別にとらわれることなく成長させていくためには、ジェンダー学の活用が不可欠であるといえます。

文化に根付いた偏見をなくすには、どうすればいいのか

この問題を解決するためには、どのようなアプローチをとるべきなのでしょうか。そのひとつとして、学校教育の見直しが考えられます。

かつての学校では、料理や洗濯などを学ぶ家庭科の授業は、女子だけが学ぶ科目とされていました。このような男女の分断は、まさしくジェンダートラッキングであるといえます。しかし、1993年に中学校で、94年には高等学校で男女共修の科目に変更されました。

この例のほかにも、学生に求められる役割が男女で異なるケースは多々あります。そういった不平等を一つひとつ改善していくことが、男女平等を根付かせることにつながるでしょう。

抑圧をなくし、本来の力を取り戻すための「女性のエンパワーメント」

ジェンダーにとらわれない新しい生き方も、私たちは目にするようになりました。例えば、ドイツのメルケル首相は、ドイツの歴史上初めてとなる女性首相です。そのように女性の社会活動や政界への進出が増加しつつあります。

このように、従来は社会構造によって与えられることのなかった「経済力」や「政治力」を女性のもとに取り戻すことを、「女性のエンパワーメント」と呼びます。

とはいえ、女生徒の中には旧来的なジェンダーの影響を受けた結果、「自分は何もせずに、男性に助けられるべきだ」という「シンデレラコンプレックス」を抱えている人も一定数います。

そのような生徒の自立を促し、女性のエンパワーメントを実現させるためにも、学校社会の中で生徒どうしがディスカッションを行い、コミュニケーション能力を高めることも重要になるでしょう。

「ジェンダー学」について学べる大学の学部や学科

ジェンダー学は、全国の社会学部などで扱われています。また、女性の視点から社会課題の解決を目指す「女性学」なども、全国の女子大学で行われています。

そのほかにも、早稲田大学のジェンダー研究所では、ジェンダー研究以外にも、セクシュアリティ研究などに取り組んでいます。

また、お茶の水女子大学ではジェンダー研究所を設立し、「グローバル女性リーダー育成機能強化」を目指してさまざまな活動を進めています。

人種や性別、障害にとらわれず、LGBTQなどの性的マイノリティなどを含む、すべての人が社会の中で共栄するダイバーシティの実現には、ジェンダーに対する理解が不可欠です。男女間の不平等是正に関心がある方は、ジェンダー学に取り組んでいる大学への進学を検討してはいかがでしょうか。

・早稲田大学ジェンダー研究所
https://waseda-gender-studies-inst.jimdofree.com/

・お茶の水女子大学 ジェンダー研究所
https://www2.igs.ocha.ac.jp/

参考

女性学・男性学 — ジェンダー論入門 第3版
伊藤 公雄 (著), 樹村 みのり (著), 國信 潤子 (著)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4641221227/ref=ppx_yo_dt_b_asin_title_o01_s00?ie=UTF8&psc=1