『スマートシティ』とは、ICTを使って快適に暮らせる街や地域のこと。では現在の都市がスマートシティ化すると何が変わるのでしょうか。大学を核とした動きもみられる日本におけるスマートシティの取り組みについて、解説します。
『スマートシティ』とは?
スマートシティとは、ICTを活用して、いろいろなサービスを便利に使ったり、生活が快適になった街や地域のこと。この「スマートシティ」というキーワードが話題になり始めたのは2010年前後からです。
それから10年以上経過し、すでにニューヨークやバルセロナ、シンガポールなど、早くから取り組んできた海外の都市の中では、ICT(情報通信技術)を活用して実現されたサービスも見られるようになってきています。
国内でも、2018年に人工知能(AI)やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)を活用したスマートシティを推進する実証調査プロジェクトを北海道札幌市と東京都豊島区で始めたあたりから大きく注目されはじめました。
また、同年国土交通省都市局が「スマートシティの実現に向けて【中間とりまとめ】」という資料を公開しています。この中では、以下を主な分野としてあげています。
- 交通(市民の移動を快適にするモビリティ)
- 自然(水や緑と調和した、自然と共生する都市空間)
- エネルギー(省エネと再生可能エネルギーの活用)
- 災害/安全(災害に強い街づくり、非常用発電機、備蓄倉庫、避難場所などを確保)
- リサイクル(雨水等の貯留・活用などの資源循環)
<スマートシティたかまつ:産学民官連携で未来のまちづくり>
スマートシティの実現に向けて【中間とりまとめ】:国土交通省
https://www.mlit.go.jp/common/001255687.pdf
交通分野ではMaaSに向けた取り組みを
交通分野では、スマートバス停、自転車や超小型EVのシェアリング(共用利用)などのサービスが始まっています。スマートバス停とは、IoTデバイスが組み込まれ、時刻表や運行情報などをデジタルサイネージ(電子的な看板)でリアルタイムに最新情報が表示されるものです。
これら交通に関するテクノロジーは、まとめて「MaaS(Mobility as a service)」と呼ばれ、都市モビリティサービスを一元化しようと進めています。
エネルギー分野ではスマートグリッド構想
エネルギー分野でも、国内各電力会社などが進めるスマートメーターの設置など、世界的に見ても進んでいる取り組みもあります。従来の電気メーターは、各家庭などに設置され、検針員が定期的に回り、電気の使用量を調べていました。
一方、通信機能を持つスマートメーターは、電力使用量を30分ごとに送信・処理するという新しい電力メーターです。人間による検針作業が不要なことはもちろん、きめ細かい電力需要が把握できます。
このように細かい電力状況が把握できるようになると、何が変わるのでしょうか。現在、電力会社は、電気の使用量を予測し、停電を起こさないように余分に発電しています。ところが使われなかった余分な電気は無駄になってしまいます。しかし、スマートメーターによってリアルタイムな電気の使用量を把握できれば、余分な発電を最小限に抑えられます。これが、消費量から最適な発電量をコントロールする「スマートグリッド」構想です。
スマートグリッドは、電気の消費量の把握だけでなく、発電量の把握にも使われます。太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、天候に発電量が左右されます。そのため、リアルタイムに発電量を把握して、調整する必要があります。
このような自然エネルギーを使った発電と充電のコントロールは、カーボンニュートラルの構想にもつながっていきます。
大学を核としたスマートシティの動きも
スマートシティは、政府が推進するスローガンの「Society 5.0(※1)」とも重なります。
近年、モバイル回線とIoTデバイスやセンサーが実用的になったことから、スマートシティに必要な技術が整ってきました。また、日本では人口減少フェーズに入ったこともあり、少ない人数で質の高いサービスを提供する必要が生じています。そのため、ICTによってサービスの効率を図るスマートシティ構想の必要性が高まっています。
また文部科学省では、大学を中心にスマートシティを作っていくことを推進しています。2019年の「大学を核としたスマートシティ創成について」では、人材の育成を担う大学の存在は必要不可欠として、滋賀大学、横浜市立大学、弘前大学、名古屋大学、大阪大学、早稲田大学、会津大学での取り組みに触れています。
「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」と第5期科学技術基本計画において提唱された、政府の基本的な方針。
大学を核としたスマートシティ創成について:文部科学省
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg6/20191105/pdf/shiryou1-2-1.pdf
スマートシティ化に取り組むいくつかの国内都市
国内でも、総務省は2017年から現在まで「データ利活用型スマートシティ」推進事業として、公募する地方公共団体に対して補助金を投入し推進しています。交通、気象、行政などのさまざまなデータを収集し、クラウドを使った「データ連係基盤」に蓄積して、収集したデータをほかの地方とも連係がとれるようにしています。
そのひとつ、さいたま市浦和美園地区の「スマートシティさいたまモデル」では、活動量計やアプリで計測した総活動量に応じて健康ポイントを付与する実証実験や電動自転車のシェアリング、スマートホーム・コミュニティー街区モデル整備、Wi-Fi自販機を使ったフリーWi-Fiの整備、アプリで乗降場所を選んでAIを使いリアルタイムで最適なルート設定や配車を行う「相乗り交通サービス」の実証実験などを行っています。
トヨタの近未来都市が始まる
民間企業でもスマートシティ化の動きは起こっています。トヨタ自動車は、「ウーブン・シティ(Woven City)」という実証都市を東富士(静岡県裾野市)に設定し、2021年2月23日より着工することを発表しています。
ここはあらゆるモノやサービスがつながる「コネクティッド・シティ」とされていて、自動運転をはじめ、MaaS、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム、AIといった先進技術の導入から検証を実際に行う予定です。近未来の実証都市をゼロから都市計画をして作り上げられますので、注目されているプロジェクトです。
<Woven City:トヨタ自動車株式会社>
スマートシティ関連技術を学ぶ学部や学科
スマートシティに関わる学問は、文系理系問わず多岐にわたっています。
ICTやAIに関連するテクノロジー関連の部分は理系になります。都市工学や都市計画、環境・エネルギー工学などが、関係の深い学問になるでしょう。また、建築学部、学科では都市計画、都市デザインを学ぶこともできます。
文系では、社会科学が関わりの深い学問になります。スマートシティそのものを学ぶ学科があることは少ないのですが、東京都市大学には都市生活学部が、社会科学系として2009年に日本初の文系学部として創設されていて、関連が高い学部といえます。
行政の省力化、センサー付ゴミ収集、災害情報の収集と提供、スマートメーターによる電力管理、スマート街路灯、スマートバス停、高速フリーWi-Fi提供、渋滞の緩和、有料道路の変動料金制、モビリティ・シェアリングサービス、MaaS、物流配送の最適化、ロボット活用、医療・介護分野での活用、健康管理器具との連動、精度の高い気象情報、サイネージ広告、リアルタイムの観光情報、商店街の活性化、遠隔での教育、リアルタイムでの交通量や駐車場情報提供、道路工事やインフラ整備時の情報参照など