SF映画にもよく登場する「人工知能(AI)」。SFでは、AIを組み込んだ人型ロボットが人間に奉仕したり、逆に、人間の能力をはるかに上回るAIが人間を支配したりする未来の社会がよく描かれます。では、実際の『AI』はどのようなもので、何を実現できるのでしょうか。
『AI』が生活や仕事に浸透してきた!
AIが将棋や囲碁で人間のプロ棋士から勝利したといったニュースを聞いたことがあるのではないでしょうか。確かにAIは、膨大な情報を瞬時に分析するといった能力は、人間よりもはるかに優れています。
ですが、なにもAIは人間と勝負するために作られたわけではありません。むしろ人間の生活を便利にしてくれるために開発されたものといえます。
人間の問いかけに答えるスマートスピーカー
AIの技術は、すでに生活の多くの場面で活用されはじめています。気がつかないうちに、すでにAIの技術を使っていることも少なくありません。
その代表的はスマートスピーカーです。声の入力に反応して検索結果は返してくれる機能で、Amazonの「Alexa」、Googleの「Google音声アシスタント(OK Google)」、アップルの「Siri」などが有名です。この機能はスマートフォンなどにも内蔵されているので、利用した経験を持つ人も少なくないでしょう。
声で質問に答えるだけでなく、「ただいま」というと家の照明をつけ、エアコンのスイッチを入れるというような連携も可能となっています。
通販サイトのお勧め商品を選んでいるのは誰?
AIだと意識されずに、普段から利用しているAIもあります。例えば、インターネット通販のショッピングモール。オンラインショップにアクセスすると、探している商品のほかに、お勧め商品が紹介されたりします。それは、目的の商品だけなく、他の商品も買ってもらいたいという狙いで表示されるものです。
そこにもAIが活用されています。膨大な商品リストから、ユーザーの過去の購入傾向や閲覧データ、ユーザーに近い好みを持つ人のデータなどを分析して、ユーザー一人ひとりに異なるお勧め商品を表示しているのです。
ビジネスの現場でもAIが活用
ビジネスの現場でもAIは少しずつ浸透しはじめています。多くの人が所属する会社では、休暇申請など、さまざまな社内手続きが行われています。そのやり方が分からない社員は、担当部門に問い合わせますが、人数の多い大企業の場合、担当部門は同じような質問に何度も対応することになります。
そのようなときに役立つのがAIを使ったチャットボットです。LINEのようなチャットツールを使って、「休暇の手続きはどうやるの?」などと書き込むと、人間の代わりにAIが答えてくれます。そしてチャットボットでも対応できない問い合わせだけを人間の担当者に受け渡すことも可能です。
人間の担当者であれば、一度に一人の相手しか対応できませんが、チャットボットであれば同時に複数の問い合わせに対応できます。質問する社員も待たされることがなくなりますし、回答する担当者の負担も大幅に軽減されます。また、人間と違って勤務時間や休憩時間の制約もありません。
医療の現場では、人間の診断の補助に
病院では、病を抱える患者を検査し、検査データから医師が病気を診断して治療に生かします。しかし、病気の部分が非常に小さかった場合など、医師が見逃してしまう可能性もゼロではありません。
そこで期待されているのが、AIと人間によるダブルチェックです。レントゲンなどの画像をAIも分析し、異常の可能性がある部分を医師に伝えます。こうすることで、病気の見逃しをなくそうという取り組みはすでに始まっています。
このように仕事では、同じような作業を何度も繰り返すことが少なくありませんので、そういう業務では特にAIの活用が期待されているといえます。
<AIってなんだろう Grow with Google Japan>
『AI』自ら学習することで能力を高める時代へ
AIが浸透してきたのは最近ですが、実はAIの登場はコンピューターが使われはじめて間もない時期です。ただ、順調に研究が進んで現在に至るのかというとそうではありません。何度も熱狂的なAIブームが起きてはしぼむという繰り返しの歴史でした。そして実用段階には程遠く、大学や、企業の中での基礎的な研究にとどまっていたといってもいいでしょう。
第3次AIブームで実用レベルに到達
そういうAI冬の時代が大きく変わるきっかけは、2005年ごろに起こった第3次AIブームでした。この第3次ブームの引き金になったのはディープラーニング(深層学習)の手法でです。
ディープラーニングとは、マシンラーニング(機械学習)の手法のひとつで、人間の神経細胞に似た仕組みをAIに構築して学習させ、より精度の高い結果を得られるようになりました。
人間より強い将棋システムを作れたわけ
ディープラーニングが、それ以前のAIとの違うのは、AI自ら学習するという点です。以前のAIは、コンピューターの思考パターンを人間がプログラミングする方法が主流でした。例えば、「犬と猫を見分けるAI」を作ろうとすると、人間が「猫を”猫”、犬を”犬”と判断するプログラム」を開発しなくてはいけません。それには、猫や犬の特長を人間が定義してプログラム化する必要があります。
ところが、ディープラーニングの手法はまったく違います。AIに「猫や犬の映像」をたくさん見せて、AI自身に「猫の特長」「犬の特長」を見つけさせます。つまり、AIが自分で「猫や犬の定義」を作り出しているのです。人間が、猫や犬について定義する必要はありません。そしてたくさんの映像を読み込ませれば読み込ませるほど、精度は高まっていきます。
将棋でプロ棋士を打ち破ったAIを開発した人は、将棋が強い人ではなかったわけですが、自分が将棋について詳しくなくても強い将棋システムを作れたのは、AIが自ら学習する仕組みを開発したからなのです。
インターネットにはAIの学習素材が豊富に
ディープラーニングの精度を向上させるには、データの量が肝になりますが、インターネット上には、AIの学習に役立つデータが豊富に存在しています。さらにスマートフォンやIoT(モノのインターネット)機器、インターネット上のサービスを利用するクラウド技術の普及から、さまざまなデータが増加しています。AIの研究では、それらを教材にして精度を高めています。
『AI』を悪用する人間に対する備えも必要
AIにもマイナス面はあります。例えば、AIによって存在しない写真や動画を生み出すディープフェイク。これにより、偽物のニュース映像が作られた場合、一般の人が「これは本物ではない」と見抜くのは容易ではないでしょう。
現在のところAIの研究は、アメリカと中国での研究が突出していて、日本はすでに後れをとっているのが現状です。内閣府の科学技術政策として掲げる「Society 5.0」では、「AIにより、必要な情報が必要なときに提供されるようになる」として、経済発展と社会的課題の解決の一翼を担うことを掲げています。今後も多くのAI人材が必要になると思われます。
『AI』について学ぶ大学や学部
AIの研究をしたい場合には、理工学部、情報工学部、コンピューターサイエンスなどの学部を選択します。AIに特化した学科では、埼玉工業大学(工学部 情報システム学科 AI専攻)や、岩手県立大学(ソフトウェア情報学部 人工知能コース)、東京工科大学(コンピュータサイエンス学部 人工知能専攻)などもあります。
AIの研究分野として見ると、ここまでで触れたディープラーニングやマシンラーニングのほか、人の言葉や文字をコンピューターで解析する自然言語処理(Natural Language Processing)の分野や、画像や音声の認識もあります。また付随する分野として、人間とのコミュニケーションやユーザーインターフェースのデザイン、ロボットの動きを研究するロボティクスなど多岐にわたります。
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