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エキノコックスでも注目!【寄生虫】は恐ろしい存在? いえ、人の役に立つ研究も大学で進行中。

今の日本では、あまりなじみのない「寄生虫」と「寄生虫による感染症」。しかし、寄生虫は決して過去のものではありません。2021年には、主に北海道での感染が報告されてきた寄生虫・エキノコックスが本州にも定着したのではないかと話題になりました。一方で、寄生虫を医療などに役立てようという研究も進んでいます。今回は「寄生虫」に関する最近のトピックを紹介します。

他の生物にすみつくことで生きている「寄生虫」

寄生虫とは、動物や人間などに寄生し、そこから栄養分を取り込んで生きている生物の総称です。「寄生虫」という名前の1種類の虫がいるわけではありません。また、寄生虫によって引き起こされるさまざまな症状は、まとめて寄生虫症もしくは寄生虫感染症と呼びます。

「原虫」と「蠕虫」、大きく2種類に分けられる寄生虫

寄生虫は、単細胞の「原虫」と多細胞の「蠕虫(ぜんちゅう)」の大きく二つに分けられます。原虫は、非常に小さく肉眼では見られません。蠕虫は、種類、もしくは成虫か幼虫かといった違いによって大きさが異なり、数ミリ程度から数メートル以上になるものまであります。

原虫に分類される寄生虫では、赤痢アメーバやマラリア、トキソプラズマなどがよく知られています。また蠕虫では、かつては日本でも多くの人が感染していた回虫や蟯虫(ぎょうちゅう)、また魚の生食などにより感染する例があるアニサキス、後ほど説明するやエキノコックスなどが比較的知名度の高い寄生虫といえるでしょう。

なお、体内ではなく体の表面に寄生して害を及ぼすダニや蚊、ノミなどの「衛生動物」も、広い意味では寄生虫に分類されます。

人間を宿主とする寄生虫は、世界で約200種類

寄生虫に寄生される側を、「宿主(しゅくしゅ)」と呼びます。どんな生物を宿主にするのかは、寄生虫の種類ごとに決まっています。また、寄生虫によっては、卵から幼虫、成虫と成長段階に合わせて宿主を変えていくものもあります。卵から幼虫の段階の宿主を「中間宿主」、成虫が寄生する場合は「終宿主」と呼びます。

人間に感染する寄生虫は、世界では約200種類、日本では約100種類が記録されています。

・大幸薬品 健康情報局 感染症の基礎知識 病原体:寄生虫とは
https://www.seirogan.co.jp/fun/infection-control/virus/parasite.html

2021年、日本でニュースになった寄生虫「エキノコックス」

寄生虫症の感染者数は、衛生環境に大きく左右されます。アフリカやアジア、中南米などの開発途上国では感染が今も多く見られますが、衛生環境の進んだ先進国ではそれほど多くありません。

日本でもかつては、寄生虫感染が珍しくありませんでした。例えば、人間の体に入ると内臓のあちこちに害を及ぼす回虫の場合、第二次世界大戦が終わって間もない1940年代後半は、日本人の約8割が感染していました。しかし、現在の日本では、回虫に感染する人はごくわずかです。ただし、世界的に見れば今も年間約14億人が回虫に感染しています。

他の寄生虫感染についても、日本では減少傾向にあります。とはいえ、まったくなくなったわけではありません。海外旅行が頻繁になったことで開発途上国から寄生虫が持ち込まれる例もありますし、現在も注意すべき寄生虫もあります。そのひとつが、2021年にニュースになった「エキノコックス」という寄生虫です。

「エキノコックス」の本州定着がニュースになる理由

エキノコックスは、北海道のキツネ(キタキツネ)や野犬、野ネズミに感染の多い寄生虫です。北海道では、キツネの40~60%、イヌの1~3%、野ネズミの30%が感染しているという調査もあります。エキノコックスは「多包条虫」という種類の寄生虫で、成虫でわずか数ミリ程度。レンコンのように複数の節を持っています。

これまでは、主に北海道での感染が多かったエキノコックスですが、近年、愛知県の知多半島で野犬などイヌの感染が相次いで判明しています。感染件数は、2017年が3件、19年に1件、20年に4件、そして21年は2件。ここ5年で10件もの感染があったため、エキノコックスが北海道だけでなく本州にも定着したのではないかとニュースになったのです。

エキノコックスが注目されるのは、ヒトが感染すると重症化するリスクがあるためです。エキノコックスの卵が人体に入ると幼虫になって肝臓に定着し、体内に嚢胞を作ります。嚢胞はゆっくりと大きくなり、周囲の臓器を圧迫していきます。潜伏期間が非常に長く、自覚症状が現れるまでには数年~10年ほどかかるため、気づいたときには症状が重くなっていて、最悪の場合は死に至ることもあります。エキノコックスは薬では駆除できないため、治療するには外科手術で取り除きます。

なぜ、愛知県知多半島で感染件数が増えたのか、現状では理由はわかっていません。爆発的に感染が広がっている状況ではなく、過度に心配する必要はありませんが、感染が確認された地域では野犬やキツネ、野ネズミに触らない、飼い犬に拾い食いをさせない、沢や川の水を飲まないといった注意が必要です。エキノコックスの卵を口から接種しなければ、ヒトが感染することはありません。

<エキノコックスはキツネから感染?意外と知らない感染経路! 緑の森ちゃんねる>

人間の役に立つ「寄生虫」の研究とは

寄生虫は、ヒトや動物に害を及ぼすだけではありません。寄生虫を健康や医療に役立てようという研究も進められています。

寄生虫によるダイエット効果を、世界で初めて科学的に証明

2019年4月、群馬大学と国立感染症研究所の共同研究グループは、寄生虫による肥満抑制メカニズムを世界で初めて科学的に検証したと発表しました。

あらかじめ太らせたマウスをある種の寄生虫に感染させると、体重増加が抑制され、脂肪量も低下、さらに血液中の中性脂肪なども減少。詳しい調査により、脂肪を燃焼しやすくする神経伝達物質「ノルエピネフリン」の血中濃度が増え、ノルエピネフリンの分泌を促す腸内フローラ(腸内細菌叢)も増加していることが明らかになりました。

つまり、寄生虫の感染で腸内フローラが変化⇒ノルエピネフリンの分泌が増加⇒エネルギー代謝に関わる脂肪細胞内のタンパク質が増加⇒脂肪燃焼が進み痩せやすい体になるという一連の流れが解明されたのです。今後は、寄生虫がどのように腸内フローラを変化させているのかを突き止め、肥満に対する新しい治療薬開発などにつなげることが期待されています。

・群馬大学大学院医学系研究科 「寄生虫によるダイエット効果」(プレスリリース)
https://www.med.gunma-u.ac.jp/news/6113

寄生虫の卵で、クローン病など自己免疫疾患の症状を改善

現在、東京慈恵会医科大学が取り組んでいるのが、豚鞭虫という寄生虫の卵を内服させて一時的に寄生虫感染症を引き起こし、患者の免疫状態を変化させることで、クローン病や潰瘍性大腸炎をはじめとするさまざまな自己免疫疾患を治療するという研究です。

この治療法は、寄生虫が蔓延(まんえん)している地域のほうが、衛生的で寄生虫感染のない先進国より自己免疫疾患の患者が少ないという「衛生仮説」から考えられた方法です。寄生虫に感染して免疫システムの過剰反応を抑え、病気の症状の改善を目指します。ちなみに、卵から孵化(ふか)した寄生虫は一定期間後に体外に自然に排出されます。

この研究が進んでいる欧米では、すでに一部の研究でその有用性が報告されています。ただ、日本人を対象とした検証はこれまで行われていません。そこで、治療法のメカニズムを解明すると共に、患者に寄生中卵を内服してもらう臨床試験を実施して、日本人が治療に用いた場合の安全性や有効性などの検証を進めている段階です。

・東京慈恵会医科大学 熱帯医学講座 「自己免疫性疾患に対する寄生虫卵内服療法の開発」
http://www.jikei-tropmed.jp/research/theme_23.html

「寄生虫」について学べる大学の学部・学科

まだまだ解明されていない謎も多い寄生虫の世界。寄生虫について学べるのは、主に医学部や獣医学部です。研究として本格的に取り組みたいと考えるなら、「寄生虫学」をテーマとした研究室のある大学を選ぶとよいでしょう。なお、大ざっぱに分けると、ヒトがかかる寄生虫症の研究は医学部、動物に関わる寄生虫の研究は獣医学部ということが可能です。

寄生虫学の研究室がある大学の例

下記は、公式サイトに寄生虫学の研究室があることを記載している大学の例です。なお、いずれも2021年度の情報になるので、進学を検討する際には改めて確認してください。

・北海道大学 大学院獣医学研究院・獣医学部 寄生虫学教室
https://www.vetmed.hokudai.ac.jp/research/detail/parasitology/

・北里大学獣医学部 予防衛生系 獣医寄生虫学研究室
https://www.kitasato-u.ac.jp/vmas/lab/veterinary-parasitology-laboratory

・山口大学 共同獣医学部獣医学科 病態制御学講座
https://www.vet.yamaguchi-u.ac.jp/laboratories/12parasitology.html

・長崎大学 熱帯医学研究所 寄生虫学分野
http://www.tm.nagasaki-u.ac.jp/nekken/departments/parasitology.html

参考資料

・『図説 人体寄生虫学 改訂10版』 原著:吉田幸雄/編:日本寄生虫学会編 南山堂
・『寄生虫のはなし~この素晴らしき、虫だらけの世界~』 編:永宗喜三郎、脇司、常盤俊大、島野智之 朝倉書店