一般的には動物に心があるとは思われていないかも知れませんが、犬や猫を飼っていると、動物に気持ちの変化があることに気がつきます。動物に心の動きや心がわかって、コミュニケーションができたらおもしろいと思いませんか。これを深く知る学問として「動物心理学」があります。
動物の心理を研究する「動物心理学」
言葉を話さない動物とは人間の言語でコミュニケーションはできませんので、気持ちの変化を正確にとらえ、心に迫ることは難しい作業になることは想像に難くないでしょう。
動物心理学とは、動物の行動や表情、しぐさや鳴き声などから「動物の心理」を研究する学問です。動物の心は、明るさや色などを感知する「感覚」、感覚によって物事を知る「知覚」、知覚された内容を経験や思考によって判断する「認知」に区分けされます。
さらに、経験することで判断を変えていく「学習」や「推理」、「思考」、「記憶」なども含まれます。また、他者に対する心を読む「社会的な知性」、自身を省みる「意識」や「内省」も含まれ、とても研究範囲は広くなります。
動物と共生する社会とは
動物心理学は、獣医師が活用したり、アニマルセラピーやペットとの交流で動物と人とのコミュニケーションに使うといった、直結した活用が考えられますが、多様な動物の心と進化を知ることは、ひいては人間の心についても深く知ることになります。これにより、社会のありかたや多様性も認識することにもなります。こういった研究は、都市を住みやすく計画したり、機器のインターフェースを心地よくすることにも活用されていくことでしょう。
どうやって動物の心を知るのか
動物の心理を知るために最初によく行われるのが、とにかく「動物が見せる、自然なふるまいやしぐさ」を観察し続ける手法です。自然な動物の行動を観察していくと、そこにさまざまな心の動きを見いだすことができます。ペットに心があるように感じるのは、まさにそんな時でしょう。特に空腹を飼い主に知らせるために、特定の鳴き声で鳴いたり、すり寄るような動作をするなど、決まった動作で反応を見せることがよくあるはずです。
このように、何らかの状態のときに、どのような行動を起こすのかを、地道に細かく観察していく方法は「自然的観察法」と呼ばれていて、動物の行動を主に研究する学問として「動物行動学」があります。
刺激を与えて実験的に観察する
また、行動する要因を「実験的」にいろいろな操作を加え観察する方法があります。例えば、2種類の異なった匂いや映像などの刺激を与えて、どちらに長く反応があるかを調べたり、動物の学習能力を利用して、ある刺激を与えると次の刺激が予想できる場面で、それに反した刺激を与えて反応を見るといった手法を使ったりします。
よく知られている実験に「パブロフ型の条件づけ」があります。犬にエサを与える前にブザーを鳴らすことを繰り返していると、ブザーを鳴らしただけで、よだれを出すようになるという実験で、反射行動を学習させるものです。同じような学習は、繰り返すことでどんどん速く覚えるようになることも実験でわかってきています。
<呼び鈴をひたすら鳴らし、隣に乱入する猫>
動物と人の心を比較して進化を分析する
近年では、学習、思考、社会的な知性、感情などと、動物の心の研究領域は広がってきています。人間として重要な機能である認知機能がどのようにして進化してきたのかを知るには、動物の心と比較して分析する研究は大変重要です。このような観点から実証的に探求していく「比較認知科学」と呼ばれる、新しい研究分野もあります。
このように動物心理学は、動物行動学、比較認知科学にも関係がある学問です。いずれも動物にまつわる研究ですので、動物に興味のある人は、それぞれの分野についてもぜひ調べてみてください。
ICTの進化で動物の行動が把握しやすくなっている
進化の著しいICTを活用して、より動物の心を身近に感じる研究も盛んになっています。センサーや通信技術の発達により、動物の観察やロギング(記録)がとてもやりやすくなりました。例えば、衛星利用測位システム(GPS)や発信器が小型になったり、夜間など暗くても撮影可能な高感度センサーが使えるなど、野生動物の行動が把握しやすくなっています。
AIを活用して動物からのメッセージを読み取る
最近ではAIを活用し、動物の鳴き声や動作から意図を翻訳して意思疎通をする研究も進んできています。センサーを動物に付けて動きのログをとり、この情報から人工知能(AI)を活用して動物からのメッセージを読み取るという動きもあります。
すでにラボという国内ベンチャーが「Catlog」という、首輪型の猫用ロガーを販売していて、細かな動きを記録して分析することができます。まだ自分の猫だけをAIが分析していますが、たくさんの猫のビッグデータを分析するようになると、より正確な猫の意思がわかるようになるでしょう。
<Catlog 離れていても、いつも一緒に編>
さらに、鳴き声や動作だけでなく、カメラやLiDARスキャナーがとらえた動物から発せられたボディーランゲージも分析できるようになるはずです。現在ではまだ、AIが分析に使うデータが十分ではないようですが、いずれペットや家畜と正確なコミュニケーションがとれるようになるのは、そう遠くはない未来に実現すると思われます。
「動物心理学」が学べる大学の学部、学科
動物心理学、動物行動学、比較認知科学といった学問は、文系から理系に広く横断した学問です。心理学は人文科学などに含まれ、基本的には文系の学部になりますが、最初から決めてかからずに、目指してみたい学問を扱っている大学の研究室を探してみて、そこに結びつく進路を選択すると良いでしょう。
また、農業や畜産、獣医師系の大学でも扱っているケースがあります。例えば、東京農業大学には、農学部動物科学科に機能・生産分野 動物行動学研究室があります。ほかにも、帝京科学大学 生命環境学部 アニマルサイエンス学科のように、動物に関する専門の学科もあります。
帝京科学大学 生命環境学部 アニマルサイエンス学科
https://www.ntu.ac.jp/gakubu/seimei/animal/
動物の医療(獣医師)、人に対する医療や健康分野への応用、畜産、野生動物保護、社会コミュニケーション分野、ペット関連産業、アニマルセラピー、動物園、遺伝子研究、ロボットへの応用など人の移動、タクシー、荷物輸送、災害地への派遣、救急搬送、観光遊覧、都市間移動、空港アクセス、離島交通、自家用車用途、カーシェアリング