大学の選び方

新1万円札の渋沢栄一も活躍! 幕末期の【偉人たちが創設した大学】。「建学の精神」から創設者の思いを知ろう!

大学の創設者は誰だろうと考えたことはあるでしょうか。日本には、江戸時代末期の幕末期から明治初頭にかけて、偉人や文化人が創設した大学が複数あります。今回は、そういった大学の成り立ちや建学精神などを紹介します。

話題の渋沢栄一も大学創設に尽力

2021年に放送のNHK大河ドラマの主人公であり、2024年度に発行予定の1万円札の肖像に選ばれたことでも話題を集めた渋沢栄一。彼は幕末から明治に活躍した実業家として有名ですが、教育事業にも力を入れました。具体的には、一橋大学(旧商法講習所)や日本経済大学(旧大倉商業学校)の設立を支援しました。

また、男尊女卑の風潮が強く、女性に学問は不要とされていた当時に、女性の高等教育の必要性を訴え、東京女学館を設立。さらに日本女子大学の創設にも関与しました。実業界引退後は、校長も務めています。

大学創設者の思いが込められた「建学の精神」

大学の創設者が創設に当たって、人材育成や教育、研究の基本とした理念が「建学の精神」です。建学の精神には、創設者の半生が深く関わっている場合があります。

例えば慶應義塾大学創設者の福沢諭吉。「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らずと云えり」の一節で有名な「学問のすゝめ」を記した教育者、文化人です。
彼は若いころ、幕府の遣米使節としてアメリカに渡ります。その際、アメリカでは身分に関係なく、個人が能力を発揮して活躍しているのに感動を覚えたといいます。

福沢は帰国後、慶應義塾を開いた際に発表した「慶應義塾之記」で、士族、民間を問わず志のあるものを受け入れることを宣言しています。また、慶應義塾大学の教育理念である「独立自尊」は、身分の差に関係なく自他の尊厳を守り、自分の判断や意志に従って行動することを意味します。アメリカでの経験が、こうした精神につながっているのでしょう。

慶應義塾について – 理念
https://www.keio.ac.jp/ja/about/philosophy/

「建学の精神」は現在にも受け継がれている

創設者の思いが込められた「建学の精神」は、各大学が掲げる「3つのポリシー」(大学の学位授与の方針であるディプロマ・ポリシー、教育課程等の在り方を示すカリキュラム・ポリシー、入学者の受け入れ方針であるアドミッション・ポリシー)として、現在に受け継がれています。例えば、慶應義塾大学の教育理念には、前述した「独立自尊」のほかに「実学の精神」があります。これは、実証的に真理を解明し問題を解決していく科学的な姿勢と知識、能力を培うことを目指すディプロマ・ポリシーに受け継がれています。

また、アドミッション・ポリシーは、大学側が求める学生像をまとめたものなので、志望校を決める上での判断材料になります。建学の精神とあわせて知っておくといいでしょう。

幕末から明治期の偉人が創設した大学

幕末から明治期に、大学創設のために奔走したのは渋沢栄一や、福沢諭吉だけではありません。偉人や文化人が創設した大学が、日本には複数あります。

早稲田大学

【創設者】大隈重信(おおくま しげのぶ)

明治維新後、内閣総理大臣や外務大臣などを務めた政治家です。明治14年の政変で政治の表舞台から下りた翌年の1882(明治15)年、東京専門学校を創設しました。これが早稲田大学の前身となります。1902(明治35)年、大学令により専門学校から大学へ昇格したのを機に、名称を早稲田大学としました。

大学令は、大学といえば官立の帝国大学に限られていたのを、公立・私立も大学として認定するとした勅令です。大学令を受けるまでは、創設者が自分の目指す教育を実践するため、これからの日本を背負う人材を育成する場として開いた私塾のような位置づけでしたが、大学令によって「大学」として認められるようになりました。

教育の基本理念は「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」です。自主独立の精神を持つ近代的国民の養成と、安易な実用主義ではない進取の精神を理想としています。慶應義塾大学とともに「私学の雄」と称されていることでも有名です。

https://www.waseda.jp/top/about/work/mission

一橋大学

【創設者】森有礼(もり ありのり)

第1次伊藤内閣で初代文部大臣となり、戦前の教育制度を確立した政治家、教育家です。明治六大教育家の一人でもあります。1875(明治8)年、福沢諭吉と渋沢栄一からの援助を受けて、私塾商法講習所を開きました。これが一橋大学の起源となります。その後、1920(大正9)年、大学令により東京商科大学に昇格。1949(昭和24)年、学生の投票によって一橋大学と改称しました。

建学理念は「キャプテンズ・オブ・インダストリー」。これは、イギリスの思想家にして歴史家のトマス・カーライルの著作からとった言葉です。国際的に通用する産業界のリーダーとなる人材の育成を、教育目標としています。

http://www.hit-u.ac.jp/guide/outline/captains_of_industry.html

同志社大学

【創設者】新島襄(にいじま じょう)

キリスト教の教育者で、宣教師でもあります。また、明治六大教育家の一人でもあります。妻の新島八重が、NHK大河ドラマの主人公になったことも有名です。1875(明治8)年に同志社英学校という私塾を開設。これが同志社大学の前身となります。1920(大正9)年、キリスト教系の私学で初めて、大学令に基づき大学に昇格し、同志社大学となりました。

建学理念はキリスト教精神に基づく良心教育です。その理念を受け継ぎ、実現するため、「キリスト教主義」「自由主義」「国際主義」を教育理念としており、この理念に基づく教育を実践しています。

https://www.doshisha.ac.jp/information/history/neesima/neesima.html

津田塾大学

【創設者】津田梅子(つだ うめこ)

日本初の女子留学生の一人で、日本における女子教育の先駆者と称される教育者です。留学時はわずか6歳でした。1900(明治33)年、女性の地位向上こそが日本の発展につながるという信念のもと、女子高等教育機関のひとつとして女子英学塾を開設しました。これが津田塾大学の前身となります。その後津田英学塾、津田塾専門学校と改称し、1948(昭和23)年に津田塾大学となりました。

建学の精神は、「all-round women の養成」、すなわち「真」「善」「美」「聖」「健」「富」を備えた完全で調和ある人格を育むことを目的とした「全人教育」です。また、英語を通して世界に目を向けられる人間を育てることも目標にしていますと同時に津田は、英語の技術修得のみに熱中せず、視野の広い女性になるよう心がけねばならないとも言っています。

https://www.tsuda.ac.jp/aboutus/index.html

拓殖大学

【創設者】桂太郎(かつら たろう)

内閣総理大臣に3度就任し、そのほかにも内務大臣や大蔵大臣、外務大臣などを歴任した政治家です。西園寺公望と交代で総理大臣を務めた期間が「桂園時代」と呼ばれたことは有名です。1900(明治33)年に台湾協会学校を設立しました。これが拓殖大学の起源となります。1922(大正11)年に大学令に基づき東洋協会大学となり、1926(昭和元)年に拓殖大学と改称しました。

建学の精神は、「積極進取の気概とあらゆる民族から敬慕されるに値する教養と品格を具えた有為な人材の育成」です。この精神に基づき、国際性、専門性、人間性を備えた人材の育成を実践しています。

https://www.takushoku-u.ac.jp/summary/school-motto.html

立命館大学

【創設者】西園寺公望(さいおんじ きんもち)

内閣総理大臣に2度就任し、文部大臣や外務大臣などを歴任した政治家であり、教育者でもあります。教育に関してはリベラルな精神の持ち主で、科学や英語、女子教育を重視していました。1869(明治2)年、私塾立命館を設立。これが立命館大学の起源ですが、1年弱で閉鎖となりました。その後西園寺の秘書だった中川小十郎が意志を継いで、1900(明治33)年に京都法政学校を設立。1913(大正2)年に財団法人立命館を設立し、私立立命館大学に改称しました。

建学の精神は「自由と清新」。教学理念は「平和と民主主義」です。2006年に制定された「立命館憲章」には、これらの言葉に凝縮された志が明瞭に宣言されています。

http://www.ritsumei.ac.jp/profile/about/foundation/

東京農業大学

【創設者】榎本武揚(えのもと たけあき)

農商務大臣や文部大臣、外務大臣などを歴任した政治家、外交官です。1875(明治8)年に、全権特命大使としてロシアに渡り、「樺太千島交換条約」を締結させました。諸外国の産業を視察した榎本は、日本が国際社会で競争できる国力を持つには、農業の発展が不可欠と考え、1891(明治24)年に育英黌農業科 を創設。1911(明治44)年に私立東京農業大学と改称し、1925(大正14)年に大学令により東京農業大学が設立されました。

建学の精神は「人物を畑に還す」。教育理念は「実学主義」です。創設当時、国立の農学校が理論優先の教育を行っていたのに対し、榎本は「教育は理論と実践の二者が車の両輪のように行われることで、初めて完全なものになる」と唱え、実習を重視する教育の必要性を訴えたのです。

https://www.nodai.ac.jp/about/guide/edu_policy/

大学の個性のベースには建学の精神

幕末から明治という激動の時代に、自らの理念に基づく教育を実践する場として私塾や大学を開いた偉人たちを紹介しました。私立大学には、独自のカラーや個性が強い大学が多いですが、そのベースには彼らが掲げた建学の精神があるのでしょう。それを知ることで、大学がより身近な存在に感じられるかもしれません。