多くの人は自宅、学校や職場を往復しながら生活しています。その中間にあるのが、第3の場所である「サードプレイス」です。サードプレイスを持つことで、地域社会とのつながりが生まれ、人生を豊かにできるのではないかと期待されています。今回は、サードプレイスについて解説します。
家や学校、職場とは違う、第3の場所「サードプレイス」
子供のころ「秘密基地」で遊んだことはないでしょうか? 学校からの帰り道に、秘密基地に立ち寄って友達と遊んだり、他愛(たあい)もない話に盛り上がったりした、そんな忘れられない経験を持つ人もいるのでは。
そういう場所を持つことは、大人になってからも大切なこと。自宅とも職場とも異なる環境で過ごす時間は、人生を豊かにしてくれます。それが第3の場所「サードプレイス」です。
第1の場所、第2の場所は?
学生や働いている人は、第1の場所と第2の場所を往復する毎日を過ごしています。
- 第1の場所……家庭
- 第2の場所……就学年齢であれば学校、社会人であれば職場
しかし、家と学校、職場とを往復するだけの人生は、ちょっと味気ないかもしれません。そのような社会、生き方に対して、1980年代にアメリカの社会学者レイ・オルデンバーグが著書『サードプレイス』で提唱したのが、第3の場所を意味するサードプレイスの重要性でした。
サードプレイスは、居心地が良くて自分らしさを出せる場所
サードプレイスとは、具体的にはどのような環境を指すのでしょうか。第1の場所である自宅をプライベートな空間、第2の場所である職場や学校をフォーマル(公的)な空間。それに対して、第3の場所であるサードプレイスを、プライベートとフォーマルの中間にある地域コミュニティーと位置づけています。
オルデンバーグは、サードプレイスの条件として、「中立領域」「平等主義」「会話が主たる活動」「常連・会員」「アクセスしやすさと設備」「控えめな態度・姿勢」「機嫌が良くなる」「第2の家」という8項目を挙げています。
・サード・プレイス:ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%82%B9
もっと簡単に、次のように言い換えてもいいでしょう。
- 気軽に立ち寄れる場所
- 常連さんがいて、その場の雰囲気を作っている
- 初めての人も排除されず、受け入れてくれる
- 会社や学校の上下関係を気にする必要がない
一言でいえば「リラックスできる居心地のいい場所」でしょうか。家と学校、職場の往復で生活が終わってしまうのではなく、その中間で人と交流しながら過ごす時間を持つことによって、「家や会社とは別の形で地域社会とつながろう」とする行為がサードプレイスという形に表れたといえます。
もちろん、サードプレイスさえ作れば人生が豊かになるというわけではありません。ほかにもやるべきことはいろいろあります。ただ、「自分の生活を見直してみよう」と思ったときに、サードプレイスという視点で検討してみるのはありでしょう。
サードプレイスの例
欧米でサードプレイスの例としてよく挙げられるのは、カフェ(喫茶店)、バー(居酒屋)、公園、雑貨屋、書店など、人が集まるコミュニティーとなっている場所です。日本では「書店や雑貨店で人々が語り合っている」といわれてもイメージがわかないかもしれません。
日本のサードプレイスの例としては、体を鍛えるスポーツジム、ピアノ音楽教室や囲碁教室、将棋教室などの習い事、サークル活動など、趣味や目的を同じくする人たちのコミュニティーなどが挙げられます。
そのような場所で誰かと交流するときには、学校と違って、相手の年齢(学年)や部活動における上下関係にとらわれる必要はありません。純粋に趣味が共通するもの、好きなもの同士で楽しめばよいのです。
日本財団ボランティアセンターが2002年、コロナ禍の大学生を対象にアンケート調査を行っています。その結果から、「コロナ禍を乗り越える手段」としてサードプレイスのような居場所が重要なことが明らかになったそうです。
・【コロナ禍の大学生活に関する調査】「サードプレイス」の重要性が明らかに
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000098085.html
さまざまなタイプのサードプレイスが増えている
社会学者オルデンバーグがサードプレイスを提唱したのは、1980年代。当時は、スマートフォンはおろか、パソコンさえ珍しい時代です。当然、一般の人がインターネットで社会とつながることもありません。ところが現在は社会そのものが当時と様変わりしてるので、サードプレイスの形も変わってきています。
ネット上のサードプレイス
今ではネット上にさまざまなコミュニティーが作られています。TwitterやFacebook、InstagramのようなSNSでは、共通の趣味を持つ仲間とつながることも簡単です。これらは、新しい形のサードプレイスといえるでしょう。
キャリアアップのためのサードプレイス
仕事の帰りに、自分のキャリアアップ、スキルアップのために、セミナーやスクールなどに通っている社会人もいます。そういう人にとって、「同じ目標を持つ者同士で交流できる」場所はサードプレイスになります。
地域活動、ボランティア、NPOをするためのサードプレイス
地域をよくするための活動、ボランティア、あるいはNPO(非営利団体)もサードプレイスに含めてもよいでしょう。ボランティア活動などでは、仲間と協力しながら、社会のために役立つ活動を行います。
喫茶店で勉強するノマド学習もサードプレイス
高校生や大学生がカフェやファストフード店などで勉強するケースが増えています。最近では、勉強する空間として作られた勉強カフェなどもあります。
これをノマド学習と呼び、サードプレイスの1形態として見た研究もあります。
・大学生の学修場所としてのサードプレイスに関する研究
https://www.jstage.jst.go.jp/article/journalcpij/49/3/49_1083/_article/-char/ja
新しい働き方としてのサードプレイス
働く人向けのコワーキングスペース、シェアオフィス、レンタルオフィスと呼ばれる場所もあります。
コワーキングオフィスは主にフリーランス(会社に所属せず、個人で働く人)向けに用意されたオフィスで、作業する場所や打ち合わせスペースなどを提供してくれます。そこで出会った人と一緒に新しい事業を始めるケースもあります。
シェアオフィス、レンタルオフィスは、複数の会社で共用するオフィスです。主に小規模な会社や個人事務所向けに提供されます。
また大企業であっても、通常オフィスとは別の場所に小規模なサテライトオフィスを設ける会社もあります。地方出張先で事務処理をするために立ち寄ったり、外回りの帰りに仕事をする用途などに使われますが、「いつもと違う環境だと、集中力が高まる」「普段出会わない人と交流ができる」などのメリットがあるといわれています。
一人の時間を重視するサードプレイス
サードプレイスは他者と交流する場所だと説明しましたが、「一人の時間をゆっくり過ごせる場所がほしい」という人もいます。そういう人にとっては、誰かに話しかけられることもなく、落ち着いた時間を過ごせる場所がサードプレイスとなります。例えば、おしゃべりする人が少ない静かな喫茶店などが挙げられます。アウトドアが好きな人なら、自然の中でキャンプするようなことも含めてもいいかもしれません。
専業主婦や在宅勤務者にとってもサードプレイスは重要
専業主婦は、ほとんどの時間を自宅で過ごします。在宅勤務者のように家と職場が同じという人もいます。そういう人にとっても、サードプレイスと呼べる場所を持ち、いつもと違う環境でゆったりと過ごしたり、誰かと話したりする時間は大切です。
コロナ禍で失われたサードプレイス
ここ数年続いているコロナ禍では、ソーシャルディスタンス、密の回避が叫ばれてきました。その結果、失われたのがサードプレイスです。2022年1月に早稲田ウィークリーに掲載された、以下の記事でも、コロナ禍において大学生がサードプレイスを持たない生活を送っている問題を懸念し、感染対策を守りつつサードプレイスを見つけることを呼びかけています。
・早稲田ウィークリー
「サードプレイス」はどこにある?
https://www.waseda.jp/inst/weekly/news/2022/01/12/93629/
数年に及ぶコロナ禍によって、改めてサードプレイスの重要性が見直されているのかもしれません。
「サードプレイス」について学べる大学の学部、学科
提唱者であるオルデンバーグは社会学者(都市社会学)なので、学部としては人文学部になります。またサードプレイスは都市計画にも関わるテーマなので土木学部や都市デザイン学科、サードプレイスとして適している設備という観点からは、建築学科、デザイン学科にも関連があります。
参考
・サードプレイス概念の拡張の検討
―サービス供給主体としてのサードプレイスの可能性と課題
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2021/07/pdf/004-017.pdf
・地域コミュニティにおけるサードプレイスの役割と効果
https://hurin.ws.hosei.ac.jp/wp-content/uploads/2019/11/vol09_07.pdf