注目の研究テーマ

未来のメガネ【ARグラス】の可能性! 目の前の世界とネットを融合させて、仕事も旅行も便利に

目の前にあるモノなど、現実にある物体に関する情報をメガネのような装置に表示するアイテムとして「ARグラス」があります。何か作業をしながら情報を確認できるため、さまざまなシーンで便利に活用できます。今回はARグラスについて解説します。また似たような機能を持つスマートグラスについても言及します。

「ARグラス」はその場の情報を映す

「ARグラス」は、メガネのレンズにあたる部分に、今見ている風景に合わせたCGの情報を反射させて表示して、目線をそらすことなく「目の前の風景」と「CG」を同時に見ることができるようにするものです。ちなみにグラスはメガネの意味です。このARグラスによって、そこに実際の風景はそのままに、その地点特有の追加情報が表示されることになります。

ARグラスの活用法

街のショップや施設情報を表示させて観光に役立てたり、複雑な機械の操作チュートリアルを表示するなどさまざまなシーンで活用されています。

例えばカーナビでは、メルセデスベンツの新型Sクラスでは、純正品として初めてフロントガラスのヘッドアップディスプレーにAR情報を重ねて表示する機能を搭載しています。車窓の景色に常時、進むべき方向や周辺の施設情報などが表示されていて、運転中は前方に目線を据えたままでよく、カーナビのモニターへ視線をそらす必要はなくなります。

<メルセデス:新型Sクラス オンライン発表会(28分45秒~)>

また、倉庫の在庫管理や工場で必要なパーツを選ぶピッキング作業では、位置情報やコードを読み取ることで、「目の前にあるモノの情報」、あるいは「これからやるべき作業」などが表示され、必要であれば作業チュートリアル(操作方法)が表示されるようになっています。スマートフォンやタブレットであれば片手に持って、別の手で操作することになりますが、ARグラスであれば手に持つ必要もなくなります。そのため両手があくため、滞りなく作業を進めることができるので便利です。

<SAP & Vuzixが提供するスマートグラスで工場労働者にハンドフリーのイノベーションを>

AR以外にVRなどの類似技術がある

ARに似た技術にVRもあるので、混乱しないようにここで用語を区別しておきましょう。

「VR」は「Virtual Reality」の略で、仮想現実と呼ばれる技術です。ゲームなどでよく使われていますが、目を覆って周囲を遮断するタイプのVRゴーグルを装着して、すべてCGの風景を見るものです。頭を動かすと、それにつれて現実のように周囲を見渡すこともできますが、見えている映像はすべて仮想のCGで作られた景色です。

VRゴーグルは、すべてCGで作られたメタバースやゲームの世界を、歩き回ることに使われます。CGとは別に、実写の360度映像も使われますが、いずれにしても今いる場所の風景ではなく、収録された景色を体験するためのものです。

新たな経済圏【メタバース】の研究! NFTで仮想空間がリアルになる?!3DCGで作られたオンライン上の仮想空間は、これまでもインターネットが普及するにつれて、さまざまなサービスが生み出されてきました。最近に...

ARとメガネは相性がとてもいい

「AR」は「Augmented Reality」の略で、拡張現実と呼ばれる技術です。現実見えている世界に合わせたCG情報を重ねて表示する技術です。

スマホのゲームなどで体験したことがあるかもしれませんが、現実にいる場所の風景に合わせて合致したCGが表示されます。例えば、ある街の風景を映しながら検索をすると、その風景に映っている看板などから検索した結果が視界に重なって表示されます。場合によっては、英語で書かれている看板の文字が日本語に翻訳されて表示されたりします。

そのように、今見ている現実を補強する情報が表示されるのがARなのです。現在位置の把握には、GPSのほか、QRコードを読んだり、画像認識を使ったりします。

これをメガネ、あるいはゴーグルなどに表示したものが、ARグラスです。

例えば「ながらスマホ」が問題になっているように、スマホを見ながら現実世界をウロウロするのは、やはりキケンです。しかしメガネ型デバイスであれば、現実の視線と同化するので問題なく行動できます。

目のところに装着していれば常時使えるので、街中を歩いているときには、いつでもその場に応じた情報が風景に合わせて表示されるようになるでしょう。
例えば、赤信号があれば警告を、顔登録をした友人や親族が近づいてきたらその人物の名前が表示されたりします。

また、目前の建物が何の施設なのかという情報がポップアップされたり、自動販売機やコンビニではいつも購入するオススメ品にマーキング表示がされたり、地震を感知すれば出入り口はどこかといった情報を表示したり……といったことがリアルタイムで常に表示できます。

海外旅行中であれば、看板やメニューが母国語に自動翻訳されて表示されるようにもなるので、外国語がわからなくても街中を歩くのが怖くなくなるかもしれません。

「ARグラス」と似ているスマートグラスという製品もある

このARグラスとよく似たアイテムに、「スマートグラス」があります。こちらは単純に情報を表示するものです。ARグラスのように、目の前の世界に合わせた情報を表示する機能はありません。

例えば、スマートグラスは、レンズにチャットのメッセージや現在の気温などを表示するといった使い方が可能です。つまりスマートグラスは、スマホと連携することで、その通知情報などが表示されるものなので、スマートウオッチのメガネ版と考えるとわかりやすいでしょう。

スマートグラスは普段使いでも違和感がないデザイン

スマートグラスはファッション性もあり、サングラスの機能性を持ち違和感なく使えることも重視しています。2021年9月には、サングラスメーカーのRay-BanがFacebookと共同で「Ray-Ban Stories」というファッション性の高いスマートグラスを登場させています。

今のところRay-Ban StoriesにはAR機能はないのですが、今後ARが搭載されたモデルも登場予定になっています。

<Ray-Ban Stories>

いずれは「ARグラス」とスマートグラスの融合へ

実際、スマートグラスとARグラスは、機能的に近いアイテムであり、両方の機能を持つ「ARスマートグラス」も登場してきています。今後は、このタイプが増えてくることと思われます。

<スマートグラス「NrealLight」 製品紹介動画>

カメラ機能はプライバシーを配慮する必要も

ただし、注意点もあります。スマートグラスにはカメラも装備されていて、ドライブレコーダーのように常時目前を録画する機能を合わせ持っています。撮影時には周囲の人に知らせるため発光ダイオード(LED)が点灯するようになっているものの、周囲の人から見て「あの人は、今、スマートグラスで私たちを録画している」とすぐにわかるものでもないでしょう。勝手に録画されることが懸念されるため、プライバシーの観点から問題が提起されています。

ARグラスも同様の問題が懸念されています。しかしカメラで実際の景色を撮影し、そこから得た情報を利用するのがARグラスですから、撮影機能を切ってしまえばAR機能そのものが使えなくなってしまいます。社会で本格的に普及するには、もう少し議論をする必要があるようです。

<Xiaomi Smart Glasses | Showcase | A display in front of your eyes>

ARスマートグラスの未来

とはいえ、AR機能を持つスマートグラスは、スマホのように広く普及するとも予想されています。よりコンパクトになりデザイン性の高いモデルが登場すれば、スマホのように普及して身近な便利アイテムになることも十分あり得ます。

コンタクトレンズ型のデバイスも開発

近年さらに進化させ、メガネではなくコンタクトレンズのように目に入れたレンズで、情報表示を行うという研究も進んでいます。このさきがけとなっているアメリカのMojo Vision社は、日本のメニコンとスマートコンタクトレンズを共同開発することを2020年に発表しています。すでに「Mojo Lens」というプロトタイプはできているので、近い将来、目の中で情報を表示させることも夢物語ではありません。

○Mojo Visionとメニコン スマートコンタクトレンズに関する共同開発契約
https://www.menicon.co.jp/company/news/vol891.html

<MIXED Mojo Vision: This is the first AR contact lens>

「ARグラス」を大学で学ぶには

このARグラスに代表されるように、人に付随してどこでもコンピューターとつながった状態であることを「ユビキタスコンピューティング」と呼び、この研究している大学は、理系を中心にして多くあります。

工学部や理学部から、IT関連の情報科学、コンピューター科学、情報メディア、ヒューマンインターフェースといった研究を探してみるとよいでしょう。

メディアで露出の多い落合陽一准教授の筑波大学デジタルネイチャー研究室では、コンピューターと人、物質世界と実質世界などの関係性を研究していますので、まさにARやARから進めていった研究といえます。

ほかにも、芸術系でもARやVRは使われています。

『ARグラス』の活用が期待される分野

街中での情報表示、観光地や美術館などでの案内表示、操作場面に応じた機器のチュートリアル動画表示、カーナビでの案内表示、ARゲーム、見たモノを検索表示や翻訳、スマホやPC(デスクトップ表示)の操作、建築物の内覧、ライブステージでのエフェクト効果、医療/工場/土木/農業/園芸/小売り/倉庫などの作業補助