現金払いが多数を占めていた日本でも、クレジットカードをはじめデビットカードや電子マネー、そして近年はスマートフォンを利用したQRコード決済が登場するなど、決済方法の多様化が進み、徐々にキャッシュレス決済が浸透しています。また、入学金や授業料の納付をキャッシュレス化するなど、積極的に取り組んでいる大学もあります。『キャッシュレス』の基本について知っておきましょう。
キャッシュレスは現金以外の方法でお金を支払うこと
キャッシュレスは、紙幣や貨幣などの現金を使わない決済手段です。クレジットカードやデビットカード、口座振替、交通系ICカード、流通系ICカード、スマートフォンを使ったQRコード決済など、その種類は多岐にわたります。
経済産業省の「キャッシュレス・ビジョン」
キャッシュレスが急に注目されたのは最近になってからですが、実はクレジットカード、SuicaやPASMO、nanacoなどの電子マネーなど、意外に古くから使われてきました。それがスマートフォンを活用したQRコード決済が登場し、ポイント還元キャンペーンなどで話題となり、急激にキャッシュレス決済の認知が広まりました。
そして日本政府はさらなるキャッシュレス化を推進しています。経済産業省では「キャッシュレス・ビジョン」を策定(注1)。2025年の大阪・関西万博までに、支払い方法におけるキャッシュレス決済の比率を40%まで引き上げると宣言。将来的には、世界最高水準の80%を目指すとしています。
コロナ禍がキャッシュレス決済を後押し
新型コロナウイルス感染症も、キャッシュレス決済の広がりに影響を及ぼしている側面もあります。貨幣や紙幣を人から人へ手渡しすることから、感染が広がるリスクも考えられます。しかしキャッシュレスであれば、物理的に触れることなく、支払いが可能となります。厚生労働省が発表した「新しい生活様式」の実践例でも、キャッシュレス決済の利用が推奨されています。
JCBがキャッシュレス決済利用者1000人を対象に行った調査(注2)によると、「コロナ禍において、これまで現金で支払っていた店でもキャッシュレス決済を利用するようになった」と65.5%が回答しました。
効果は「スピーディーな支払い」だけではない。社会的効果にも期待
お金を使う消費者サイドから見ると、キャッシュレスは「財布を持ち歩かなくていい」「釣銭が不要でスピーディーに支払いを完了」などの利点が挙げられます。
一方、小売店などの企業サイドから見ると別の利点も見えてきます。例えば、お店を占めた後、店舗スタッフは現金を数えて売り上げを集計し、銀行に入金しに行きます。キャッシュレスになれば、その作業が不要になり効率化できますし、銀行に現金を運ばなければ盗難や紛失の心配もありません。
また購入に関するデータも蓄積しやすいため、マーケティングでの活用も可能です。近年Fintech(フィンテック:金融とテクノロジーの造語)と呼ばれる、新しいタイプの金融サービスが次々と生まれていますが、蓄積したデータを活用した新しいFintechのサービスも創出しやすくなるでしょう。
ほかにも、ポイント還元などのサービスを実施しやすくなる、日本に旅行に来た外国人にとってお金の支払いが楽になるなどの経済効果につながる利点も挙げられます。
キャッシュレス決済の現状
さて、日本におけるキャッシュレス決済は、どの程度普及しているのでしょうか。
現金はまだまだ強いが、QRコード決済は顕著な伸び
20歳から69歳までの1000人を対象に、マクロミルが2019年に行った支払い方法に関する調査(注3)を見ると、やはり現金払いが多いことがわかります。
この調査によると、支払い方法の利用率は「現金」が97.3%と圧倒的です。次いで「クレジットカード」が75.1%、「銀行振込・引き落とし」が37.8%となっています。
しかし伸び率で見ると、QRコード決済が2018年10月調査時の11.8%から、2019年4月調査時には19.4%と、半年で大きく伸びていることがわかります。
QRコード決済利用者は2021年度には1800万人に
別の調査でも、QRコード決済利用者が今後急増するという結果が出ています。QRコード決済は、店舗が提示するQRコードを利用者がスマートフォンアプリで読み取る方法と、利用者のスマートフォンアプリに表示されたQRコードを店舗側が読み取る方法があります。
利用者はアプリに銀行口座やクレジットカードをあらかじめ登録しておくことで、キャッシュレス決済が可能になります。
ICT総研による市場動向調査(注4)によると、QRコード決済を1カ月に1回以上利用するアクティブユーザーの数は、2016年は62万人でしたが、2017年度には187万人と3倍に増加。2021年度には利用者が1880万人に達すると予測しています。
大学におけるキャッシュレスの取り組みと研究
このように浸透が進んでいるキャッシュレスですが、大学ではどのような取り組みが行われているでしょうか。その代表例を紹介します。
近畿大学
近畿大学では、Visaプリペイド機能付き学生証を発行しています。必要な金額をチャージするだけで、大学内だけでなく、200以上の国と地域にある3800万のVisa加盟店やインターネットでの決済で利用できます。
また近畿大学は、日本の大学で初めて、入学時の入学金や授業料の支払いでクレジットカード決済を可能にしました。
さらにユニークなのは、大学祭において学生が出店する全屋台にキャッシュレス決済を導入したことです。2019年11月に開催された大学祭では、QRコード決済の「メルペイ」と「LINE Pay」が導入されました。
文教大学
文教大学では2019年度から、入学金や授業料の納付にクレジットカード決済を導入しました。クレジットカード払いによる学費の分割払いサービスも提供しています。
また、学食や売店でもクレジットカード決済を導入するとともに、学生や保護者向けの提携カードを発行し、キャンパス内のキャッシュレス化実現に向けた取り組みを進めています。
神戸大学
神戸大学では独自の「神大電子マネー機能付ICカード」を2018年から発行しています。学外では利用できませんが、大学構内で利用されています。
目白大学
目白大学では、プリペイド式電子マネー「Edy」機能やICチップ機能を搭載した学生証を導入しています。学内の食堂やコンビニエンスストアでの買い物、教科書の購入時などにキャッシュレス決済が可能です。成績証明書など各種証明書の自動発行手数料の支払いにも利用できます。
青山学院大学
青山学院大学の学生証は、決済機能が一体化しています。ICチップが埋め込まれており、学生証1枚あれば入退室管理や図書館カード、カフェでの決済とさまざまなシーンで利用できます。
大学内でのキャッシュレス決済を研究対象に
このような大学でのキャッシュレスの取り組みは、単に学生の利便性を高めるという目的だけではありません。例えば、近畿大学の経済学部ではキャッシュレス決済の認知や利用状況、利用施設、利用頻度などを調査(注5)し、キャッシュレス社会実現に向けた研究に生かしています。
進化するキャッシュレス。手ぶらで買い物できる時代に
これまで紹介したキャッシュレスは、ICカードやスマートフォンを用いたものでした。しかし、静脈などの生体情報でキャッシュレス決済ができるサービスも登場しています。消費者は財布もスマートフォンも持たずにお店に行き、商品をレジに運び、支払いの段階で自分の手を専用センサーに向けるだけで決済が完了することになります。
これは、生体情報をクレジットカード情報とひも付けて決済するもので、すでに大手企業では、事業所にある食堂やカフェに順次導入されています。今後は顔や虹彩による生体認証でキャッシュレス決済を行うという動きもあります。
財布もスマートフォンも持たずに、手ぶらで買い物したり飲食したりできる時代が、すぐそこまで来ているということでしょう。
注1:経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」
https://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180411001/20180411001-1.pdf
注2:JCB「キャッシュレスに関する調査〜コロナ禍におけるキャッシュレス決済事情〜」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000429.000011361.html
注3:マクロミル調査
https://honote.macromill.com/report/20190619/
注4:ICT総研「2019年モバイルキャッシュレス決済の市場動向調査」
https://ictr.co.jp/report/20190107.html
注5:大学生のキャッシュレス決済利用実態を調査 調査結果を基に、企業との協働で普及策検討へ
https://www.kindai.ac.jp/news-pr/news-release/2019/03/015733.html