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【唾液】は健康維持に不可欠な存在! DNA検査の活用やウイルス性の病気予防にも期待

「唾液」に良いイメージを持っている人は、あまりいないかも知れません。実は「唾液」にはさまざまな働きや活用方法があることがわかってきています。自分の体質を調べることができるDNA検査や、ウイルス性の病気予防効果もその一つ。私たちの健康維持に不可欠な存在として注目される研究「唾液」について紹介します。

そもそも「唾液」とは

唾液とは、口の中の唾(つば)や涎(よだれ)のこと。唾液は、食べ物を飲み込みやすくしたり消化しやすくしたり、あるいは口の中の粘膜を保護したり殺菌してくれたりします。

これらの唾液の効能は昔からよく知られていました。例えば、ちょっとしたけがをしたとき、傷口に唾を付けて直すというような習慣もありました。

また旅に出ると新しい地域の食べ物や水を口にしますが、「いつもよりよく噛(か)んでから飲み込め」と注意されて送り出されていたものです。今より衛生管理ができていない時代ですから、食べ物や水の中には多少の菌が存在していたでしょう。
そして知らない土地の食べ物や水には、普段口にしているものとは違う菌が混じっているかもしれません。だから食べ物はもちろん、水であってもごくごく飲んだりせずに、しっかり唾液と混ぜ合わせてから飲み込めという昔の人の教えです。

そして科学が発展するにつれ、ほかにも多くの効能が唾液にはあるとわかってきたのです。

「唾液」からDNA検査ができる

唾液からは、遺伝子検査をするために十分な量のDNAを採取できます。もっともよく知られているのは、採取した唾液からのDNA検査で本人を特定することで、犯罪事件の犯人特定などに使われます。ほかにも遺伝子検査から健康や体質などの遺伝的なこともわかります。

実は、唾液自体にDNAは含まれていないのですが、粘膜細胞などが含まれていて、その細胞内にDNAが存在しています。そのため唾液は乾いてしまっても、DNAは比較的安定した状態で残っていますので検査することができます。

DNAを調べることで人の特徴がわかる

DNAは、細胞核の中に存在する染色体にあり、設計図のように人の特徴などが4種類の塩基配列によって表現されているものです。この情報を元に人の体が作られていきます。人であればほとんどのDNA配列が同じで、異なる配列部分は0.1%程度ともいわれています。それでも同じ配列の人がいる確率はとても低くなるので、「同一人物や血縁であることの確率を示して証明に用いる」という手法で、鑑定用途にも使われています。

さらにDNAの配列を調べることで、その人の特徴、体質を知ることもできます。例えば、特定の病気になりやすい体質かどうか、顔や体形、太りやすいか、肌や髪の色や質、薄毛になりやすいか、アルコールに強いか、遺伝するアレルギーがあるか、先祖はどんな人だったかなど、さまざまな特徴を特定することができます。

DNA検査により体質を知っておくことで、健康や生活に役立てようとするサービスも提供されていて、安価なキットを購入して検査を受けることができます。

新型コロナウイルスの検査にも活用

唾液でのDNA検査は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のPCR検査と抗原検査にも活用されています。この二つはどちらも感染している可能性を検査するものですが、PCR検査はDNAから検出する手法です。

唾液以外では鼻の奥へ綿棒を挿入して採取する方法がありますが、こちらはクシャミが出やすいことや、自分で採取することが難しいなど課題がありましたが、唾液であれば採取は簡単ですし、郵送でやりとりして検査を受けられます。

PCR検査は、検査した時点で陽性か陰性かがわかるものです。また陽性だからといって、必ずしも感染していることにはなりません。体内でウイルスの断片が見つかったというだけで、まだ細胞は感染していないこともあります。

しかし、移動やイベント参加の前後などのタイミングで、唾液の提出のみで手軽に検査ができるので安心できます。PCR検査は結果が出るまでに時間がかかるのが難点でした。しかし今では短時間で可能になり、1日で結果がわかる検査もあります。

「唾液」は口内環境を整え細菌を取り除く

ほかにも、唾液には一定の浄化作用があることもわかっています。唾液は、食べかすなどを洗い流すだけでなく、細菌を取り除き口内環境を健康に整える働きも持っています。
加齢やストレス、疲労、運動不足などによって、どうしても唾液の分泌量は減少してしまいますが、なるべく唾液の分泌をうながすように、食事中によく噛んだり、ガムや飴(あめ)を口にすることが推奨されています。

免疫物質IgAがウイルス性の病気予防に働く

唾液の9割以上は水分ですが、成分として、炭酸水素、無機リン、カルシウム、カリウム、ナトリウム、リゾチーム、アミラーゼ、ラクトフェリン、ペルオキシターゼ、ムチン、免疫グロブリン(IgA)が含まれています。注目されるのが、リゾチーム、ペルオキシダーゼ、IgA、ラクトフェリンなどによる、口の中で細菌が繁殖することを抑制する作用です。

中でも粘膜免疫を担う免疫物質IgAは、口内に入ってきた病原体にIgAがくっつくことで無力化させるため、ウイルス性の病気予防のために重要な働きをしています。また、乳酸菌も口腔(こうくう)環境改善に役立っています。

ほかにも、カルシウムイオンやフッ素イオンが含まれていて歯のエナメル質の再石灰化もうながしてくれています。このように、良質な唾液をたくさん出すことは、健康維持にとても重要なのです。

歯科医の唾液検査で菌の数や唾液量がわかる

唾液の状態を知るのに身近なところでは、歯科医にて任意で唾液検査を実施していて、一定時間に十分な唾液が分泌されるか、また唾液内に虫歯の原因となる菌がどれだけ含まれているかなどを自費で簡単に調べることができます。

虫歯菌とも呼ばれるほど虫歯の原因となりやすいミュータンス菌は、生まれたばかりの赤ちゃんの口には存在せず、主にお母さんの口から感染し、数は大きくは変動しない菌です。フッ素入り歯磨きやキシリトールには予防効果があるとされています。
ラクトバチラス菌は、糖を栄養として増えるので、歯磨きなどをしっかりすることで予防することができます。唾液検査では、この2種の菌の数が検査でわかり、口腔ケアで減ったかどうかなどを調べることができます。

「唾液」やDNA関連が学べる大学の学部

唾液やDNAに関連したことを学びたい場合には、理学部、理工学部、医学部、歯学部、保健医療学部、薬学部といった学部が範疇(はんちゅう)になるでしょう。生物学、生命科学、応用生物学、バイオテクノロジーといった広い分野もあります。

唾液関連では、歯学部などで口腔(こうくう)保健学という学問があり、歯科衛生士養成所となっている専門学校や大学で学ぶことで、歯科衛生士を目指すことができます。医薬品、食品、化粧品関連の仕事に就くことも可能です。

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『唾液』の活用が期待できる分野

DNA検査、ウイルスや細菌の検査、口腔衛生、歯科、医薬品、バイオテクノロジー