人類は人口の増加や経済成長のなか、いかに社会を存続させるか危機に直面しています。デジタル技術の発展による「Society 5.0」において、「サーキュラー・エコノミー(循環型経済)」はなくてはならない考え方です。
「サーキュラー・エコノミー」とは? 持続可能な社会に不可欠な経済活動
人口増加が進み、資源の枯渇が予測される今日、従来の経済のしくみでは限界を迎えています。持続可能な社会の実現は新たな循環型経済「サーキュラー・エコノミー」の実現が不可欠となっています。
若者が声を上げた「環境問題」
世界的な人口の増加に加え、途上国の発展もあり、従来の大量生産、大量消費で支えられてきた社会は限界を迎えつつあります。そのあらわれのひとつが「環境問題」です。
「環境問題」が大きく注目されたひとつのきっかけは、地球の将来に不安を感じる若年層からの声でした。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが、気候変動問題について訴え、多くの若者が同調し、活動はたちまち世界に広がりました。
世の中が抱える「環境問題」ですが、「気候変動」はそのひとつに過ぎません。人口が増加するなか、誰もが公平に豊かな生活を送るには、多くの課題を抱えています。大量消費で生じた「廃棄物による汚染」や「資源不足の深刻化」もそのひとつです。
いかに「廃棄物」をなくし、限りある「資源」を有効に活用するか。これらの解決に向けた新たな取り組みこそ「サーキュラー・エコノミー」と呼ばれる新たな経済活動です。
環境問題を解決する「サーキュラー・エコノミー」
「サーキュラー・エコノミー(Circular Economy)」とは、経済活動において貴重な資源を輪(サークル)のように「循環」させるしくみです。「循環型経済」とも訳されます。限りある資源を「循環」させることで「環境問題」へ対応しようという考え方です。
国連が2015年の国連サミットで採択した持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現に向けた開発目標「SDGs(Sustainable Development Goals)」においても、健康、福祉、教育、平等、貧困対策などの人権保護や、海洋資源の保護、クリーンエネルギー利用などとともに、「つくる責任、つかう責任」として、生産や消費について言及されています。
責任を持って生産し、責任を持って消費する社会の実現には「サーキュラー・エコノミー」の考え方が不可欠で、対応する技術を学び、発展させていく必要があります。
外務省:SDGsとは?
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html
環境を守りつつ、経済発展も目指す「サーキュラー・エコノミー」
限りある資源を再利用するというと、「リサイクル」を思い出す方も多いでしょう。それでは従来の考え方と「サーキュラー・エコノミー」は何が異なるのでしょうか。
リサイクルとは異なる「サーキュラー・エコノミー」
国内において、これまで環境問題への対策がまったく講じられていなかったわけではありません。日本では2000年初頭より、廃棄物を減らす「リデュース」、廃棄物を再度利用する「リユース」、材料を再利用する「リサイクル」の「3R」が推進されてきました。
これらも「サーキュラー・エコノミー」を実現する上でひとつの考え方ではあります。しかし従来の「リサイクル」では再利用は一部資源にとどまり、全体を俯瞰(ふかん)すれば廃棄を前提とする一方通行の「線形経済」です。
しかし、現在目標とされている「サーキュラー・エコノミー」の世界は、廃棄物をまったく出さずに循環を実現する社会を目指しています。
経済発展を後押しする「環境と成長の好循環」
従来の考え方と「サーキュラー・エコノミー」が異なるのは、資源の流れだけではありません。「経済」や「ビジネス」の観点でも考え方が大きく異なります。
「リサイクル」は、主に廃棄物や環境対策として推進されており、コストの優位性はあまり問われることなく、進められてきました。しかし「サーキュラー・エコノミー」は、従来の廃棄物を価値ある資源と捉えています。
実際に資源は有限であり、この先枯渇することは目に見えています。実際に原材料の価格も高騰しています。
そこで鉱物資源から新たに生産するのではなく、廃棄物から資源を安価に取り出し、再利用することができれば、経済的なメリットも大きく、新たなビジネスともなります。
企業は、「環境と成長の好循環」を生み出す循環性の高いビジネスモデルへの転換を図ることが求められているのです。
相互補完する「Society 5.0」と「サーキュラー・エコノミー」
日本社会が目指す「Society 5.0」とも深く関係します。「Society 5.0」の実現には、「IoT(モノのインターネット)」の活用が欠かせず、資源不足により材料費が高騰するなか、大量の機器を安価に用意する必要があります。
また「IoT機器」が寿命を迎えれば、大量の廃棄物を生み出し、どのように処分していくかも大きな課題です。限りある資源を循環させ、活用していくことも「Society 5.0」を実現する上で重要なミッションといえるでしょう。
一方で「Society 5.0」への転換は、「サーキュラー・エコノミー」を発展させる追い風でもあります。センサーより得られるデータや人工知能などを駆使することで無駄な生産や廃棄を減らしたり、限りある資源をより長く有効に活用できます。
すでにシェアリングサービスなども登場し、実用化が進んでいますが、デジタル技術によって限りある資源を最大限活用するといった点では、「サーキュラー・エコノミー」の一端を支えているともいえます。
現在、欧州を中心に「サーキュラー・エコノミー」が推進されています。日本においても2020年5月に政府より「環境経済ビジョン2020」が発表され、循環経済政策の基本的な方向性が示されました。
中長期的な産業競争力強化を目指すとしており、関連技術の開発、またあらゆるビジネス活動への応用が今後加速していくでしょう。
「サーキュラー・エコノミー」を学べる大学、学部
社会問題の解決に向けた「サーキュラー・エコノミー」の考え方は、大学では政策や経済を学ぶ学部と関連深い分野です。センサーやデータ、人工知能(AI)など活用するという点では情報処理を学ぶ学部とも親和性が高いといえます。
またサーキュラー・エコノミーの実現にあたっては、再利用に適した設計やデザイン、素材の開発なども重要です。工学、化学など幅広い分野が支えることになるでしょう。
政策、経済、環境、設計、デザイン、製造、サービス