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2050年【カーボンニュートラル】実現へ。日本の取り組みとは。大学で研究するには?

地球温暖化対策として、温室効果ガスの削減が世界的に求められています。日本は、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を目指すと宣言しました。「カーボンニュートラル」を実現させるためには、さまざまな取り組みが必要になります。

「カーボンニュートラル」とは、温室効果ガスを実質「ゼロ」にすること

「カーボンニュートラル」とは、直訳すると炭素(=カーボン)の中立(=ニュートラル)という意味で、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを指します。

温室効果ガスは、地球温暖化の原因になっているといわれているものです。地球温暖化が進めば、将来的には人間が住めない環境になってしまうかもしれません。そこで、世界的に温室効果ガスを大幅に減らす取り組みが進められているのです。

ちなみに、「温室効果ガス=二酸化炭素(CO2)」と思っている人が多いかもしれませんが、実はそうではありません。排出される温室効果ガスの9割以上は二酸化炭素ですが、他に、メタン(CH4)や一酸化二窒素(N2O)、代替フロン等4ガスも含まれています。
(※この記事では、出典元に合わせて「温室効果ガス」と「CO2」の、両方の言葉を使用しています)

温室効果ガスの「削減」ではなく、「ゼロ」を目指す理由とは?

温暖化対策として、「カーボンニュートラル」という言葉をよく聞くようになったのはなぜでしょうか? それは、温室効果ガスの「削減」では不十分だからです。言い方を変えると、それだけ状況は、せっぱ詰まっているといえます。

地球温暖化対策を決めるための国際的な枠組み「パリ協定」では、温暖化を食い止めるために「世界の平均気温上昇を、産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という長期目標を掲げています。

しかし、国連環境計画(UNEP)によると、現在の状況では世界の平均気温は今世紀中に3℃を超える上昇へ向かっているそうです。1.5℃の目標を達成するには、「削減」ではなく実質ゼロを目指す取り組みを推進していく必要があるのです。

2050年までに世界124カ国と1つの地域が「カーボンニュートラル」実現へ

2021年1月末現在、欧州連合(EU)各国をはじめ、アメリカ、イギリス、カナダなど世界の124カ国と1つの地域が、2050年までの「カーボンニュートラル」実現を表明しています。これらの国と地域のCO2排出量は世界全体の37.7%にあたり、実現すれば地球温暖化を防ぐために一定の役割を果たすと見られています。

また、中国は2060年までの「カーボンニュートラル」実現を表明しています。

日本は「2050年の『カーボンニュートラル』実現」を宣言

日本では、2020年10月の所信表明演説で菅義偉首相が、「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と宣言して、世界から注目されました。

実は、それ以前は「温室効果ガスの排出量を、2030年度に26%削減し、2050年までに80%削減する(いずれも2013年度比)」という目標を掲げていました。しかし、他の先進国と比べて不十分と指摘されることもありました。

また日本では、東京都や大阪府をはじめとする210の自治体も、それぞれ独自に「2050年までのCO2排出実質ゼロ」を表明しています。さらに、個々の企業でも「カーボンニュートラル」を目指す動きは広まっていて、70社以上の企業が2030~2050年までに「カーボンニュートラル」の実現を表明しています。

「カーボンニュートラル」実現のためのさまざまな取り組み

ところで、温室効果ガス(またはCO2排出量)を「実質ゼロ」にするとは、どういう意味でしょうか。温室効果ガスの排出自体を、完全に「ゼロ」にすることは現実的には不可能です。そこで、排出量の削減に加えて、CO2の吸収量や除去量を増やすことで全体として「ゼロ」にしようというのが「カーボンニュートラル」の考え方です。式で表すと次のようになります。

排出量-(吸収量+除去量)=ゼロ

このうち、吸収量については、例えば植林で木々を増やし、光合成による大気中のCO2吸収量を増加させる方法があります。では、排出量を減らしたり、除去量を増やしたりするには、どのような取り組みや研究が進められているのでしょうか。

水素やアンモニアなどCO2を排出しない原料で発電を行う

CO2の排出量削減につながる取り組みとしては、水素やアンモニアなどの燃焼してもCO2を排出しない原料を使った発電が挙げられます。燃料として使うには大量の水素やアンモニアを生産・調達しなければいけないという課題などもありますが、将来的にはCO2削減に大きく貢献すると期待されています。

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CO2を回収・貯留する取り組みや、回収したCO2による製品開発も

排出されたCO2を除去する取り組みも進んでいて、すでに実用化されたものもあります。例えば、三菱重工エンジニアリングは、燃焼された排ガスから高い効率でCO2を回収する技術を商用化しています。回収されたCO2は、そのまま地中に貯留するほか、化学品の原材料などに利用可能です。

また鹿島建設は、コンクリート製造時に排出されるCO2の大幅削減と、火力発電所から出るCO2をコンクリートに固定する技術を開発。結果として、CO2排出量が「ゼロ」以下という「環境配慮型コンクリート」を開発し、こちらも商用化しています。

三菱重工エンジニアリング 環境装置(CO2回収プラント)
https://www.mhi.com/jp/products/engineering/co2plants.html

鹿島建設 環境配慮型コンクリート
https://www.kajima.co.jp/tech/c_eco/co2/index.html#!body_02

経済学的な観点で「カーボンニュートラル」を推進する

「カーボンニュートラル」を実現するための取り組みには、経済学的なアプローチもあります。具体的には、排出されるCO2に値段を付けて(これを「カーボンプライシング」と呼びます)、市場原理を取り入れることで、CO2の排出量を減らしていこうという考え方です。ここでは代表的な2つの方法を簡単に紹介します。

CO2の排出量に応じて課税する「炭素税」の本格導入を検討

1つは、CO2の排出量に応じて「炭素税」と呼ばれる税金をかける方法です。「炭素税」は、日本では本格導入されていませんが、海外ではEU加盟国などがすでに導入しています。税金によって化石燃料の価格が上がるため、使用量が抑えられるほか、その税収を地球温暖化対策などに使用することができます。

なお日本でも、2012年から「地球温暖化対策のための税(温暖化対策税)」という「炭素税」に近い課税制度が導入されています。全化石燃料に対してCO2排出量1トンあたり289円を負担してもらうというものですが、海外に比べて税率が非常に低く効果は限定的とされています。

CO2の排出枠を国や企業間でやり取りする「排出量取引制度」

もう1つの方法は、国や企業などが排出するCO2の上限を決めて、上限を超えてしまった企業は、上限に達していない企業にお金を払って必要な排出枠を買い取るという「排出量取引制度」です。

CO2の排出量取引制度は、2005年にEUが導入。日本は国レベルでの導入はまだですが、東京都や埼玉県が先行して導入しています。東京都の場合、対象となるのはエネルギー使用量が原油換算で年間1500キロリットル以上の工場やビルなどを所有する企業で、取引価格は当事者同士の交渉・合意によって決定しています。

どのような制度にすれば、誰にとっても公平で納得がいくものになるのか、本格導入を視野に検討が進められている段階です。

<カーボンニュートラルの産業イメージ>

カーボンニュートラルの産業イメージ:経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012-4.pdf

大学で「カーボンニュートラル」に関わる研究をするには

大学で「カーボンニュートラル」に関わることを学び、研究するには、どの学部・学科に進めばよいでしょうか?

ここまで見てきたように、「カーボンニュートラル」実現のためのアプローチはさまざまです。そのため、「ある学部のある学科に進まなければいけない」ということはありません。

文系・理系を問わずさまざまな学部・学科で学べる可能性

まず、環境学部や環境科学部、生命環境学部など、名前に「環境」が付いた学部やそれに類する学部、学科などが挙げられます。

また、技術開発に関わりたい場合は、理系の学部に進むとよいでしょう。その場合も、ソーラー発電の研究なら電気工学科、CO2の固定化技術なら機械工学科、消費電力を抑えた住宅の開発であれば建築学科というように、研究内容によって学科・専攻はさまざまです(学科名は一例で、大学によって異なります)。

一方、炭素税や排出量取引、またCO2削減が企業活動に及ぼす影響といった側面からカーボンニュートラルについて考えたいという場合は、経済学部などの文系学部が対象になります。

九州大学には「カーボンニュートラル研究所」がある

九州大学には、その名もズバリ「九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所」(略称:アイスナー)があります。この研究所では、国内外のトップレベルの研究者とネットワークを組み、CO2の削減と同時に、非化石燃料によるエネルギーシステムを構築するためのさまざまな基礎研究に取り組んでいます。

九州大学カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所
http://i2cner.kyushu-u.ac.jp/ja/