近代の産業革命以降、人類は木々を際限なく伐採し、生態系の歯車である動植物を絶滅へと追いやりました。これにより、世界各地のさまざまな生態系が壊されてしまいます。その影響度を示す指標が「エコロジカル・フットプリント」です。これは人類が活動するために必要な地球の面積を表したもの。今回はエコロジカル・フットプリントについて解説します。
人類が環境に及ぼした影響を示す指数「エコロジカル・フットプリント」
世界各国から輸入した食材を使ったぜいたくな料理、毎日着る衣服、自動車や飛行機を使った長距離の旅行、テレビやゲームなどの娯楽、インターネットを利用した新しい遊びなど、私たちは発展した文明のもとで豊かな生活を送るようになってきました。
その華やかな文明の裏側で、犠牲になっているのは地球そのもの。人類は、森林を伐採して土地を開拓し、石油や鉱物などの資源を消費し、環境を汚染しながら、この生活を謳歌(おうか)してきたからです。
しかし自然には浄化する力があり、人類が汚してきた環境をきれいにしたり再生したりしてきました。とはいえ、どんなにひどく汚しても、すべて地球が浄化してくれるというわけではありません。
では、地球が受け止められる許容量はどこまでなのでしょうか。
豊かな暮らしの裏側で汚染されていく地球をどうする?
人類による環境への影響が大きければ大きいほど、再生や浄化に広い面積が必要になります。例えば、海に油を流したとします。その油は、海の中に広がり薄まっていきながら、微生物の作用により長い時間をかけてゆっくりと分解されていきます。同様に、人類が出した二酸化炭素(CO2)も大気に広がり、森林で生きる植物などの光合成により酸素と炭素に分解されます。また、木材を消費すれば、新しい樹木が育つだけの土地と時間が必要になります。
では、いったいどれだけの面積が必要になるのでしょう。その指標となるものが「エコロジカル・フットプリント」です。この場合のエコロジカルとは「生態系」のことで、わかりやすくいえば「生物が暮らす自然」と考えればいいでしょう。フットプリントとは「足跡(足の面積)」のこと。
そして、エコロジカル・フットプリントとは「人類が踏みつけている地球、生態系の面積」という意味合いで使われている言葉であり、環境に対する人間活動の影響度を面積に換算して表したものです。
<インタビュー:「日本のエコロジカル・フットプリント」について>
すでに地球1個では足りない状況に
エコロジカル・フットプリントの対義語が「バイオキャパシティー」です。これは生態系が生み出す資源のことで、酸素や食糧などになります。お金で例えれば、エコロジカル・フットプリントが「支出」、バイオキャパシティーは「収入」と考えられます。そして支出が収入をどれだけ越えているかを見れば、赤字具合がわかります。
世界自然保護基金(WWF)が公開している以下のデータによると、地球全体のエコロジカル・フットプリントはバイオキャパシティーの1.7倍。つまり、今の生活を維持するには1.7個分の地球が必要であるため、赤字となるわけです。
2021年も地球へ借金、アース・オーバーシュート・デーは7月29日
https://www.wwf.or.jp/activities/opinion/4687.html
日本人のエコロジカル・フットプリントは7.8倍と特出
上のWWFのデータで注目してほしいのは、私たち日本人のエコロジカル・フットプリントです。日本に限定して計算すると、エコロジカル・フットプリントはなんと7.8倍にも達しているのです。それは、「日本人が今の暮らしを維持するなら(かつ、日本の面積だけで解決しようとしたら)、日本の面積は7.8倍必要」ということを意味します。これは大変な大赤字です。
「そんなにぜいたくな暮らしをしているという覚えはない」という人も少なくないのでしょう。しかし、中国は4.0倍、アメリカは2.3倍。エコロジカル・フットプリントという観点から比較して考えると、「日本人がどれだけぜいたくな環境を甘受していたのか」ということに驚かざるを得ません。
私たちの生活の何を変えれば、地球1個で足りるようになるのか?
地球は1個しかないという事実は変えられないので、なんとかしてエコロジカル・フットプリントを減らしていく必要があります。この問題を解決できなければ、持続可能な社会、SDGsは実現できません。
では私たちの生活の何をどう変えていけば、地球への影響を抑えた暮らしができるようになるのでしょうか。世界各国では、そういう研究も始まっています。
大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所、Global Footprint Network(エコロジカル・フットプリントに取り組む非政府組織)、WWFジャパン、東京大学は、日本の都道府県ごとにエコロジカル・フットプリントを研究し、2021年にその分析結果を発表しました。
あなたの都道府県の暮らしは地球何個分?
~地域別エコロジカル・フットプリントと都市化や高齢化との関係を解明~
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20210303-1.html
この研究から見えてきたのは、
- 日本全体のエコロジカル・フットプリントのうち、68%を家庭部門が占めている
- 家庭部門の75%は、食・住居・交通の3カテゴリーが占めている
- 全体と食のカテゴリーに関して分析すると、都市化率・高齢化率・平均収入が高いほど、エコロジカル・フットプリントが高くなる傾向が見られるといった点です。
私たちはこれまで温暖化防止や環境を守るために、レジ袋の有料化、エアコンの設定温度の調整、太陽光などの再生可能エネルギーの推進など、さまざまな取り組みを行ってきました。しかし「高齢化」の問題を環境と関係づけて考えていたでしょうか? あるいは「食」の問題と環境がどのように関係しているか、考えたことはあるでしょうか?
そういう疑問をフックにして研究してみると、エコロジカル・フットプリントを改善するための新しい対策が見つかるかもしれません。
「エコロジカル・フットプリント」や「環境」について学べる学部、学科
一般家庭でも赤字を減らすには、「支出を減らす」「収入を増やす」という2方向のアプローチがあります。エコロジカル・フットプリントについても、「環境への影響を減らす」「自然環境を保護して育てる」というアプローチが考えられるので、研究範囲は非常に幅広くなるでしょう。
エコロジカル・フットプリントは指標であり、その先には環境問題対策があります。環境について研究したいなら、環境系、農学系の学部が挙げられます。都市づくり、交通に関する研究であれば、建築系や都市計画系、工学系の学部、私たちの生活スタイルを見直したいなら、生活科学系の学部もよいでしょう。