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小さな力を電気に変える【エネルギーハーベスティング】とは? 体温や歩行振動、水滴の落下からも発電!

人類はさまざまな形でエネルギーを利用していますが、中にはなんの活用もされないまま消えていく微小なエネルギーも存在します。そのような「見向きもされていなかったエネルギー」を集めて電力に変換し、有効活用しようというのが「エネルギーハーベスティング」です。今回は、大学も取り組むエネルギーハーベスティングについて説明します。

捨てられていた微小なエネルギーを収穫(ハーベスト)する

私たちは火力や風力など、さまざまなエネルギーを活用して電力を作り出しています。しかし、世の中には「こんなものでは発電できないだろう」ということで見向きもされずに消えていく小さなエネルギーも存在します。

例えば、温かいお湯が出てくるシャワー。私たちが浴びたシャワーの温水はそのまま下水に流されていきますが、温水には「熱エネルギー」が残されています。

ほかにも次のようなものが挙げられます。

  • 雨天時に路面をたたく雨粒
  • 部屋と廊下の湿度差
  • 人間が歩くときに生じる振動
  • 下水を流れる液体と外気の温度差
  • つけっぱなしの照明が発する光

それらにもエネルギーが含まれているのですが、シャワーの温水と同様に利用されることなく捨てられています。

しかし、このようなエネルギーを集めて、電力に変換すれば、有効活用できるのではないかという観点から始まった研究領域が「エネルギーハーベスティング(環境発電)」と呼ばれているものです。

<「どこでも発電」の世界を実現!広がるエネルギーハーベスティング技術>

エネルギーハーベスティングの活用例

具体的には、どのようなものがエネルギーとして使えるのでしょうか。現在、開発されているエネルギーハーベスティングの例をいくつか紹介します。

照明の放つ「光」や、Wi-Fiやラジオの「電波」

夜間時の作業や勉強に欠かすことのできない照明器具。そこから発せられる光もエネルギーですが、現状では周囲を照らす「光源」として活用するのみにとどまっています。しかし、近年ではその光源から放出された光エネルギーを集め、もう一度電力に変換するための研究が進んでいます。

同様に、Wi-Fiやラジオ放送などで用いる「電波」もエネルギーハーベスティングによって電気に変えることが可能です。

実際に、東北大学電気通信研究所は、2021年にシンガポール国立大学などと協力し、Wi-Fiの電波から発電を行う素子の開発に成功しています。今後、空間に散らばる電磁波を電力に変えることが容易になれば、世界中のあらゆる場所が発電所になるかもしれません。

・東北大ら、Wi-Fiの電波を使って発電できる素子を開発
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1325832.html

生物の発する「熱」

ランニングなどの運動をする際には、体温が上昇します。実は、その熱エネルギーもエネルギーハーベスティングの対象になります。近年では、人体の発する体温などを電力に変換し、体内に埋め込んだペースメーカーなどの動力として活用する研究が世界各地で進められています。

また、血液に含まれているグルコースを用いて発電する「グルコース燃料電池」なども、生体エネルギーを活用したエネルギーハーベスティングの一例といえます。

そのほかにも、東京理科大学は、汗で発電する「ウェアラブル乳酸バイオ燃料電池アレイ」を開発しています。このようなデバイスが普及していけば、いずれは生きているだけである程度の電力を生産できるようになるかもしれません。

<汗中乳酸から高出力を生み出す薄膜型ウェアラブルバイオ燃料電池アレイを開発>

車や人間の移動時に生じる「振動」

多くの車が走る高速道路や、さまざまな人が歩行する歩道には、日々、大量の振動エネルギーが発生しています。そのエネルギーを有効活用する「振動発電」が普及すれば、電力問題に大きく貢献できるかもしれません。

実際に、歩行者の生み出す振動で電力を生み出す「発電床」は、平時の節電効果だけでなく、停電時の電力供給源としても役立ちます。

また、橋や道路などを進む車の振動を電力に変えることで、路面を照らす照明器具や、車両を感知するセンサーに対して送電するシステムの研究なども、世界各地で研究が進められています。

これからのIoT時代を支える「小さな電力」を生み出す

とはいえ、これらのエネルギーから作られる電力は、発電所で作られるものに比べれば、はるかに小さいかもしれません。しかし、少量の電力であっても、活用法次第で大いに役立つ可能性を秘めています。

近年の社会では、携帯電話やスマートウオッチだけでなく、ありとあらゆるものがインターネットにつながる「IoT(モノのインターネット)」の導入が進められています。

このIoTが普及した場合、身の回りにあるさまざまなものにインターネットとの通信機能やセンサーなどが搭載されるでしょう。それらのセンサーのような小型のIoT機器は、消費される電力も小さいものです。しかし、その動力源を確保するためには、定期的に充電したり、配線設備を用意しなければいけません。

そういう分野で期待されているのが、エネルギーハーベスティングです。

IoT機器の動力源として、エネルギーハーベスティングを活用すれば、周辺で発生した小さなエネルギーを電気に変換し、送電することが可能になります。そうすれば充電の必要もなくなりますし、わざわざ配線をしなくてもよくなる、つまり場所を選ばずにIoT機器の設置ができるのです。

例えば、工場内で人間が歩く振動から作られるエネルギー。それを使って工場内のIoT機器を動かすことができれば、エネルギーの地産地消になります。電力は遠くまで運ぶと、運搬効率が悪くなりますが、その場で作ったエネルギーをその場で使えば無駄もありません。

災害発生時の停電にも対応できるシステムに

大規模な地震や台風が発生したときには、電気が止まってしまうことがあります。停電時には、自動ドアも手動で開けなければいけません。また、足元を照らす照明も切れているため、転倒のリスクも生じます。

そのようなときであっても、エネルギーハーベスティングによる送電システムが備わっていれば、人が生み出す振動や、室内と通路の湿度差などによって、その場で電力を供給することができます。

「エネルギーハーベスティング」について学べる大学の学部や学科

エネルギーハーベスティングに取り組む大学は、全国の理工学部を中心に、数多くあります。例えば、エネルギーハーベスティングの早期実現化を目指している「エネルギーハーベスティングコンソーシアム」には、東京大学や京都大学をはじめとした多くの大学の研究室や教授が参加しています。

・エネルギーハーベスティングコンソーシアム
https://www.nttdata-strategy.com/ehc/

また、名古屋大学と九州大学は、雨粒のような水滴の落下エネルギーを活用したエネルギーハーベスティング技術の開発に成功しています。

・一滴のしずくから5ボルトを発電 ~雨滴などの流体からIoTの発電技術を開発~
https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/researches/view/407/

大阪大学では、「磁気を使った振動発電エナジーハーベスティング」に取り組むことで、メンテナンスフリー電源の開発を研究しています。

・磁気を使った振動発電エナジーハーベスティング
https://sdgs.osaka-u.ac.jp/research/593.html

『エネルギーハーベスティング』の活用が期待できる分野

発電、環境保護