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日本発【ファインバブル】の研究! 物流、農業や医療まで多くの用途で広がる「泡」の活用。

自然の中にも存在し、私たちの身の回りでも手洗いや洗顔、清掃の際に発生する「泡」ですが、その中には自然界ではありえないほど小さいものもあります。それが、大きさ100マイクロメートルに満たない「ファインバブル」と呼ばれる泡です。近年、このファインバブルを用いた研究が大学や企業などのさまざまな分野で進められています。殺菌だけでなく、農業や海運業でも活用が広がるファインバブルとは、どのようなものなのでしょうか。

「ファインバブル」とは?

「ファインバブル」とは、直径100マイクロメートル(μm)未満の小さな泡を意味する言葉です。ファインバブルは、大きく「マイクロバブル」と「ウルトラファインバブル」に分類されます。「マイクロバブル」とは直径1〜100μmの気泡のこと。そして、さらに小さな1μm以下のものが「ウルトラファインバブル」です。

1μmは0.001mmですから、ファインバブルは「とても小さな泡」ということになります。しかし私たちが目にする普通の泡と異なる、さまざまな特徴を持っており、物流や農業など、さまざまな用途に活用、研究が始まっているのです。

「ファインバブル」の特徴

普通の泡は、水の中で発生すると上昇し、水面に浮かび上がったあとははじけて消えてしまいます。ところがファインバブルの場合、浮かび上がりはするものの、その速度はとても遅く、まるで水中にとどまっているような状態になります。そしてやがて破裂して泡の中身を水中に放出します。

また球形であることから泡の中の物質を周囲の液体に溶け込ませやすいことになります。これはファインバブルを何らかの物体に注入して、その物体の中に溶かすときに役立ちます。

さらに、泡には自己加圧効果という特徴がありますが、この効果が高い点もファインバブルの特徴です。自己加圧効果とは、泡の境界面に加わる圧力のこと。この圧力は泡のサイズが小さいほど高まるのです。

そのほかにも、マイナスの電気を帯びるという点も重要な特徴の一つです。通常の泡は、泡同士が合体して大きくなりますが、ファインバブルはマイナスの電気を帯びているため反発し合い、合体しにくくなります。そのため、ファインバブルの持つ特徴を長く持ち続けることになります。

日本が見つけた技術

このファインバブルは、実は日本で生まれた「日本発」の技術です。ファインバブル学会連合によると、2000年ごろ、牡蠣の養殖に微細な気泡を活用したところ生育が促進されたことがわかり、その際に「マイクロバブル」という言葉が使われるようになったそうです。その後、他の水産物の養殖や農業などにも活用が広がり、注目されるようになりました。

その後、マイクロバブル、ナノバブルという言葉が広まったのですが、単に「小さい泡」という意味合いで使われていたため、サイズごとに「マイクロバブル」「ウルトラファインバブル」と定義されることになりました。

「ファインバブル」の応用例

ファインバブルは「たかが泡」と思われるかもしれませんが、特性を生かして、物流や農業、医療など、さまざまな分野で応用、研究がされています。

船と波の境界に注入することで、摩擦抵抗を8割低減

大型タンカーなどの巨大な船舶は、海運業に不可欠な存在です。船舶が海を進むときには、船体と波の間に摩擦が発生します。それが大型のタンカーともなると、摩擦による抵抗が増加してしまいます。

その燃費削減策として注目されているのが、ファインバブルです。船体と波の間にファインバブルを注入すれば、摩擦抵抗が約8割も低減されるという研究データが報告されています。

生き物の成長を促す

栄養素を含んだファインバブルを植物に送り込むことで、一般的な水栽培よりも効率的に生育することが可能になります。実際に、ファインバブルを活用することで農産物や海産物が大きく成長したという結果が出ています。

また、海水魚と淡水魚は同じ水では通常は生息できませんが、ファインバブルを含む水の中では海水魚と淡水魚が並んで泳ぐという不思議な現象も確認されています。

水質浄化や殺菌効果

ファインバブルを含む水には汚れを落とす力も確認されています。福岡工業大学では、構内の池に対してファインバブルを用いて水質を浄化する取り組みを行いました。

また、ファインバブルを発生させるお風呂を使えば、湯船につかるだけで汚れや皮質を取り除くことも可能です。介護施設では要介護者の身体を丁寧に洗うのは重労働になりますが、ファインバブルを使えばその労力を軽減できます。

さらには殺菌効果を持つオゾンなどをファインバブルにすることで消毒に用いることも行われています。これは、食品工場での殺菌などに活用されています。

医療における造影や治療

医療では、治療のためにさまざまな検査を行います。体の内部を撮影するときに用いられるのが造影剤です。ファインバブルは超音波を当てると非線形に振動します。造影剤にファインバブルを使い、非線形振動を検知するという検査も進められています。

また、ファインバブルに薬品を入れて病変の部位に送り込むという治療も研究されています。

<慶應義塾大学(杉浦研究室):超電導、超音波、マイクロバブルと機械力学>

なお、ネットで検索すると「マイクロバブルを使っているので健康や美容に良い」などとうたう製品が多く見つかります。ただし、それらは必ずしも、ここで紹介したマイクロバブルと同じものとは限りませんので、科学的な目を持ってしっかりと見分けるようにしてください。

「ファインバブル」が学べる大学の学部、学科

すでに実際のビジネスで活用され始めているファインバブルですが、実はまだ原理が解明されていない部分もあり、いろいろな大学や企業で、活用方法や原理が研究されています。新しい研究分野でもあることから、これからもまだまだ新しい発見や活用法が見つかるでしょう。

2012年に発足した日本マイクロ・ナノバブル学会では、医学部会、農学部会、工学部会が組織化されています。そしてその構成は60%が大学の研究室となっています。

また2015年発足したファインバブル学会連合には、慶応大学、鹿児島高専、千葉工業大学、東京電機大学などからもメンバーが名を連ねています。ファインバブルについて研究したいなら、このような学会に参加している大学を検討するのも一つの方法です。

『ファインバブル』の活用が期待できる分野

物流、農業、医療、食品、製造業、消毒や殺菌

参考

ファインバブル学会連合
http://www.fb-union.org/