注目の研究テーマ

【医療ICT・スマート医療】とは? 日本の大学で進むロボットやICTが医療現場を変える研究

ICTが医療現場に浸透することで、高度な医療が効率よく活用できるようになっています。「医療ICT」と呼ばれる技術は、これからも次々と開発されていくでしょう。今回はロボット手術やスマート治療室など、新しい医療ICTについて解説します。

最先端の「医療ICT」を担う大学病院の役割

日本の各地にある大学病院は、地域医療の中核拠点として大きな役割を担っており、医療に関する最新テクノロジーを研究、習得する場としても期待されています。新しいICTを医療の場に導入しようという研究を率先して行ってきたのも大学病院といえます。

それらの取り組みが、「医療ICT」や「スマート医療」と呼ばれるものです。医療ICTとは、ICTを活用して医療のあり方を変えていくこと。例えば、電子カルテ、人工知能(AI)、遠隔診察(オンライン診察)、デジタル化された検査機器の利用などさまざまな取り組みが挙げられます。今回は、より先進的な、ロボットを活用した手術や診療室について紹介しましょう。

ロボットが手術をする時代が到来

従来の手術は、人間である医師(執刀医)がメスを握って行ってきました。その執刀医の代わりにロボットが処理するのがロボット手術です。ロボットといっても人型ロボットが執刀医に代わってメスを揮(ふる)うわけではありません。何本ものアームを持つ手術支援ロボットを、人間の医師がリモートで操作して、手術を行うというものです。

人間よりも細かい処置が可能なロボット手術

ロボット手術の利点としては患者の体への負担の低さが挙げられます。ロボットはいろいろな方向にアームを伸ばせ、人間の腕よりも細い作業が得意とされています。そのため切る部分が小さくて済み、出血量などを減らせます。そして体への負担が低いぶん、術後の回復も早くなるでしょう。

また長時間に及ぶ手術の執刀医には、体力や筋力が必要となりますが、ロボットを活用すれば、医師の負担軽減にも寄与します。

日本メーカーも手術支援ロボットを開発

これまで手術支援ロボットはアメリカの「ダヴィンチ」が有名で、世界シェアの多くを占めているとされています。ところが川崎重工業とシスメックスによる共同出資会社メディカロイドが、国産初の手術支援ロボット「hinotori サージカルロボットシステム」を開発しました。

hinotori サージカルロボットシステムは、リモートで別室と接続することも可能で、手術の途中で別室にいる医師からアドバイスを受けることもできます。

<国産初の手術支援ロボット アメリカのダヴィンチに挑む【Nスタ】>

手術に必要な情報をまとめて管理できるスマート治療室

手術室そのもののスマート化も進んでいます。それが「スマート治療室」です。

従来の手術では、患者の体にさまざまなセンサーを取り付けて呼吸、心拍数、体温などを見たり、手術前の検査画像を確認したりしながら、処置を行っていました。

ところが、それらのセンサーや機器は、メーカーが異なるため、それぞれ別に管理されるのが普通です。そのため執刀医や看護師は、いくつもの機械の画面を確認しながら、情報を受け取り、処置する必要がありました。

その問題を解決し、効率よく手術が行えるように、機器をネットワークでつなぎ、まとめて管理しようというのが、スマート処置室です。スマート処置室では、手術に関するさまざまな機器の情報が一カ所に集約して表示されるため、状況把握がスムーズになります。正確なデータが迅速に提供されることは、手術の安全性にもつながります。

世界初のスマート治療室は日本の大学が開発

世界初となるスマート治療室は日本の大学で生まれました。2016年にベーシックモデルを広島大学が民間企業と協力しながら開発。その後も開発は継続され、2018年にスタンダードモデルを信州大学、そして2019年にハイパーモデルを東京女子医科大学で開発しています。

<「スマート手術室」手術過程を見える化>

将来的には、ロボットベッドも組み込み、必要に応じて手術中に患者の体を移動して検査機器にかけるなどの処置も行いやすいようにする計画もあります。さらにAIや「hinotori サージカルロボットシステム」との連係も視野に入れています。

遠隔手術への応用にも期待

これらの最先端のテクノロジーは、さらなる未来の医療へとつながっていくに違いありません。例えば、辺地にある病院に手術支援ロボットやスマート治療室を用意して、遠隔地にある大病院と接続すれば、専門技術を持った医師が現地に行かなくても、高度な手術ができるようになるでしょう。

大学医学部での学びにも適した「医療ICT」

かつては医療技術の習得は、難しいものでした。昔の医療ドラマなどで執刀医の手の動きを医学生が別の部屋からのぞいて学ぶというシーンを見たことがあるのではないでしょうか。離れたところから、執刀医の手の動きを見て学ぶのは容易なことではありません。

ところが、ICT化が進むことで高度化する医療知識の習得もしやすくなっています。ロボット手術は、執刀医がモニターに映る映像を見ながら行います。その映像を記録し、学習に利用すれば、「執刀医が見るものとまったく同じ映像を見ながら、医療技術の習得が可能になる」ということになります。

「医療ICT」について学ぶ学部や学科

医療に関する研究は「医学部」で行われます。ロボット手術のスキルや、スマート治療室を使った医療行為などは、医学部で学ぶことになるでしょう。

ただ、ここで紹介したような手術支援ロボットやスマート治療室などの開発は、医療機器メーカーによって行われるものであり、メーカーと大学病院などが協力して研究、開発が進められます。医療機器開発の道に進みたいのであれば、工学部、理学部などの学部になるでしょう。

参考

「スマート治療室」のハイパーモデルが臨床研究開始―IoT・ロボット・AIを活用する未来型手術実現に向けた実証実験を開始―
https://www.amed.go.jp/news/release_20190403.html

獨協医科大学 スマート医療研究部門
https://www.dokkyomed.ac.jp/dmu/research/facility/advanced-medicine/smart-medical.html