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新型コロナウィルスも殺菌!【光学】が作る夢の技術。透明人間や冷凍光線も現実に?

光は照明だけでなく、検査機器のレーザー光線や太陽光発電、光触媒、殺菌など、さまざまな用途に用いられています。また、将来的には人工光合成や透明マント、冷凍光線などの実現も期待されています。さまざまな分野で活躍が期待される光学について、大学ではどのような研究を行っているのでしょうか。

紀元前から科学者を悩ませてきた「光」

私たちの視覚に多大な影響をもたらす「光」の研究は、紀元前から行われてきました。かつては目に見える「可視光線」の研究が中心でしたが、科学力が向上した現代では、目に映らない「不可視光線」の研究も進められています。

プリズムで白色の太陽光を分解したニュートン

古代ギリシャの哲学者は、私たちの目に映る色彩を「太陽光(白色光)と闇の混合物」であると考えていました。その概念を一変させたのが、17世紀から18世紀にかけて活躍した物理学者のアイザック・ニュートンです。

彼はプリズムで白色光を分解し、さまざまな色の光を抽出したことによって、「白色光と闇が混合して色が生まれる」のではなく、「白色光そのものがさまざまな色によって構成されている」ことを証明しました。

ニュートンは1704年に、この実験結果などを記述した「光学」を発表します。その後、光に対する科学的な研究が加速していったのです。

可視光線から不可視光線の研究へ

光を視覚的な観点から研究してきた光学は、19世紀の科学者たちによって大きな変革期を迎えます。1800年の赤外線発見を皮切りに、紫外線やエックス線が発見され、目に見えない光である「不可視光線」への注目が高まったのです。

不可視光線の研究

多くの研究者たちが実験を通して存在を突き止めた不可視光線。テクノロジーが向上した現代ではさまざまな方法で研究や観測が行われ、実用化に向けて進んでいます。

紫外線照射ロボットが新型コロナを殺菌

2021年現在、新型コロナウイルス感染が世界的なパンデミック(世界的大流行)になっています。その感染予防対策として、日本大学医学部や理化学研究所などが開発したのが、紫外線を照射して周囲のウイルスを殺菌する自律走行ロボットの「UVBuster」です。

不可視光線である紫外線は、生物のDNAを損傷させる機能を持っています。UVBusterは、機体の下部に搭載したランプから紫外線を照射することで、壁や床、家具などに付着しているウイルスを殺菌するとされています。

<ウィルス除去するUVバスター:UVバスター>

UVBusterのほかにも、不可視光線による殺菌、除菌は、水道水の浄化や医療現場、工場での消毒作業など、さまざまな分野で活用されています。

コロナ禍の現在、対象に接触することなく殺菌、除菌を行う殺菌灯器具の需要は高まっています。そのため、研究に取り組む企業や大学も増加していくことが予想されます。

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暗闇でも顔を認証する「赤外線センサー」

不可視光線の利点は、暗いところでも使えることです。例えば、スマートフォンやパソコンの「顔認証システム」。従来の顔認証システムの場合、カメラにユーザーの顔を写す必要があったため、室内を明るくする必要がありました。

しかし現在では多くの顔認証システムに赤外線センサーが搭載されているため、夜間や暗い室内でも機器に顔を向けるだけでログインすることができます。

同様のシステムとしては、町や施設内に設置する「監視カメラ」や「自動運転車」などが挙げられます。

赤外線センサーを用いた監視カメラであれば、周囲の時間や状況にかかわらず、常に記録し続けることが可能です。同様に自動運転では、赤外線センサーを活用することで、夜間、光が当たらない場所でも歩行者を見つけることが可能となります。

可視光線の研究も進化

可視光線の分野でも、人工光合成や植物工場、太陽光発電、光触媒など、光を使ったさまざまなテクノロジーが研究、開発されていますが、中には従来では考えられないような研究も進んでいます。

光を操るメタマテリアルで、透明人間が実現する?

透明人間はSFの中の存在でした。ところが、近年ではそれが現実味を帯びてきています。そもそも私たちの目に物体の姿が映るのは、可視光線が物質に当たり、反射するからです。そのため可視光線が当たらなければ、物体を見ることはできません。

つまり透明になるためには、「可視光線に当たらない物質」である必要があります。そんな夢物語のような話を実現できるのが、自然界に存在しない人工物である「メタマテリアル」です。

<構造で光を操りメタマテリアルの実用化を目指す:理研チャンネル>

通常、水などの物質を光が貫通する際には、屈折現象が生じます。その際、「右上」から入った光は、たとえ屈折したとしても「左下」へと進んでいきます。しかし人工物であるメタマテリアルの場合、「右上」から入った光が「右下」へ屈折するという、自然界では起こりえない「負の屈折率」を発生させることができます。

この仕組みを利用すれば、メタマテリアルに当たるはずだった光を屈折させて、メタマテリアルの背後に迂回(うかい)させることが可能になります。つまり、メタマテリアルの内部は外部からは透明に見えるのです。この負の屈折率を活用したマントをまとえば、透明人間の完成です。

2015年にアメリカのデューク大学は、可視光線と赤外線に対して負の屈折率を生じさせるメタマテリアルの開発に成功しました。日本の大阪大学でもメタマテリアルを使った透明マントの研究が進められています。

透明マントとメタマテリアル:大阪大学
https://www.es.osaka-u.ac.jp/ja/latest-research/2018/04/post.html

絶対零度付近まで冷やす冷凍光線

シューティングゲームやロボットアニメなどにたびたび登場するレーザー光線は、金属の切断、溶接に使われることもあるため、高熱を発するというイメージを抱かれがちです。しかしレーザー光線の中には気体に照射することで、原子の温度を絶対零度近くまで冷やすものも存在します。

レーザーの照射によって原子を冷やす「レーザー冷却」は、SFなどに登場する冷凍光線のようなもの。電磁波が物質に当たった際に生じる放射圧(光圧)を活用することによって原子の運動量を減らし、低温にする仕組みです。

レーザー冷却によって極限まで低温になった原子は、量子計算や原子時計などの高度な機能が求められる分野で活用されています。

ペストの大流行で大学が閉鎖。そのときに研究を深めたニュートン

ちなみに冒頭に挙げたニュートンの学生時代は、ペストが大流行し、大学も閉鎖されました。故郷のリンカンシャー州に帰ったニュートンは、木から落ちるリンゴの実を見て万有引力の法則に思い立ったといわれています。

また彼が「光学」の研究を深めたのもその時期です。ペスト禍の中、若き日のニュートンによって行われた光学の研究は、いまもなおさまざまな形で進められています。現在、コロナ禍で研究しにくい状況ではありますが、当時のニュートンのように、世界のどこかで驚くような研究が進んでいるのかもしれません。

光学について学べる大学や学部

光学は全国の工業大学、工学部で研究されています。本文で紹介した大学の研究例のほか、東京工業大学の工学院電気電子系では光学の研究を通してナノサイズの物質を製造することなどに挑戦しています。

また東北大学では、運動後の呼吸に紫外線ランプを照射することで、脂肪の燃焼メカニズムをモニタリングする仕組みを開発しました。そのほかにも、日本大学の量子科学研究所では、レーザーの実験を通して、レーザー冷却の精度向上などに取り組んでいます。

『光学』関連分野

医療、工業、製造業、清掃業、農業

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