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小惑星衝突から地球を守る【プラネタリー・ディフェンス】! 日本も小惑星検出に貢献

かつて小惑星衝突によって恐竜が滅んだとされるように、空から落ちてくる天体は、私たちの破滅につながりかねない脅威です。人類は英知によって多くの自然災害に対処してきましたが、地球に衝突する天体にはなすすべがない、というのがこれまででした。ところが最近、この脅威を私たちの手で回避できるかもしれない、兆しが表れています。今回は小惑星衝突から地球を守る「プラネタリー・ディフェンス」について解説します。

地球防衛の一歩となるDART計画

2022年の秋に、人類にとって初の画期的な試みが予定されています。NASA(米航空宇宙局)のDART(ダート)計画です。実験探査機DARTを小惑星に体当たりさせて軌道をずらすというもの。まずDART計画とは何かを説明します。

衛星に探査機をぶつけて小惑星の軌道を変える

DARTとは、Double Asteroid Redirection Testの略。直訳すれば「二重小惑星方向転換テスト」です。ターゲットになっているのは、小惑星ディディモス(Didymos)と、その周囲を回る衛星ディモルフォス(Dimorphos)です。ディディモスは直径約780m、ディモルフォスは直径約160mの大きさで、地球と火星の間を公転しています。地球接近天体(NEO)であり、潜在的に危険な小惑星に分類される天体の一つです。

計画では、重さ610kgの実験探査機DARTを秒速およそ6㎞で、重さ48億㎏の衛星ディモルフォスに体当たりさせます。その衝撃によって、衛星ディディモスを周回する小惑星ディモルフォスの周期が変わると考えられています。それが小惑星ディディモスの軌道を変化させることになるかを調べます。

<NASAのDART、二重小惑星方向転換テスト>

2024年のHera計画

DART計画の後には、2024年にESA(欧州宇宙機関)が探査機Hera(ヘラ)を打ち上げ、衝撃を受けた後のディディモスとディモルフォスを調査します。2027年に到着し、実験探査機DARTがディモルフォスに衝突して以降の衛星軌道や自転の状態、クレーターの形や大きさ、小惑星の物性や物質などを約半年間、観測する予定です。

<ESAのHera計画(Our planetary defence mission)>

日本の研究者も参加

この計画では、日本も重要な役割を果たします。JAXA(宇宙航空研究開発機構)はESAに協力して、リュウグウ探査で活躍した「はやぶさ2」の赤外線カメラと同型のものを提供する予定です。日本の研究者も、リュウグウやイトカワの探査で得た経験を活かすかたちで、Heraの計画に参加します。

ディディモスとディモルフォスをターゲットにする一連の計画は、地球に向かってくる天体の脅威に対して、現実的な対策につなげていこうとする人類初の試みです。DART計画は、複数の国が協力して「プラネタリー・ディフェンス(地球防衛)」活動へ本格的な一歩を踏み出した点でも意味があります。

プラネタリー・ディフェンス(地球防衛)活動の経緯

これまで科学者たちは、宇宙に関わる研究・開発を進め、さまざまな技術を発展させてきました。しかし小惑星衝突から地球を守ることに対しては、どこか絵空事で、少なくとも1990年代まであまり真剣に向き合ってこなかったというのが実情です。地球に接近してくる天体や、衝突の予測・インパクトについて、そもそも観測や研究が進んでいなければ、脅威として認識すらできません。

彗星の木星衝突を目の当たりにして

風向きが変わるきっかけとなったのは、1994年7月のシューメーカー・レヴィ第9彗星(すいせい)による木星衝突です。彗星は21個のかけらとなって秒速60㎞で木星の大気圏に突入し、周辺では温度が4万℃に上昇するとともに、周辺物質は高度3000㎞の宇宙空間にまで噴き上がりました。この様子は、世界中の大望遠鏡や木星探査機ガリレオから観測されていて、天体衝突の防御策を取らないと地球がどうなるかを、私たちに突きつけました。

<NASA:シューメーカー・レヴィ第9彗星の衝撃は続く(日本語字幕)>

さらに、天体衝突の脅威を身近なものとして認識させたのが、2013年2月にロシア・チェリャビンスク上空で起きた爆発です。推定されるところでは、直径約17m、質量約1万tの小惑星が秒速15㎞以上で大気圏に突入し、爆発の衝撃波によって窓ガラスが割れ、およそ1500人が負傷する大災害を起こしました。

<ロシア隕石落下映像 落下から爆発の瞬間、衝撃波までの様子>

1990年代から始まるプラネタリー・ディフェンス活動

1994年以降、地球防衛のための動きが始まります。例えば、地球接近天体(NEO)の発見・調査に世界の研究機関が横断的に取り組む国際組織「国際スペースガード財団」が発足。マサチューセッツ工科大学リンカーン研究所とアメリカ空軍・NASAによる小惑星研究プロジェクト「LINEAR」の運用も始まります。また、アメリカ空軍は、天体衝突を緩和するために何ができるかを考えはじめ、そこでまとめた報告書「SPACECAST 2020」に初めて「プラネタリー・ディフェンス」という言葉が登場しました。後にこの言葉は「天体の地球衝突問題を扱う活動」として定着します。

世界の研究者が協力して小惑星を探索

2000年代に入ると、地球に衝突する可能性のある小惑星の制御策を研究する民間の「B612財団」が設立されます(2002年)。また、地球に天体が衝突する可能性とその対応について世界中の研究者が話し合う「地球防衛会議」もスタート(2004年)。さらに、世界中の宇宙関連組織によるIAWN(国際小惑星警報ネットワーク)が2013年に発足します。NASAでも地球接近天体の観測プログラムの運用に取り組み、天体衝突の回避を目指す独立組織としてPDCO(地球防衛調整局)が新設されました(2016年)。この組織の活動がDART計画につながっています。

小惑星の軌道を変えるアイデア

こうした組織や研究機関によって地球に危険な小惑星の発見と観測が続けられています。2022年6月時点で、2万8000個以上の地球接近惑星(NEO)が観測されており、そのうち地球に衝突する可能性が高く、衝突時のインパクトも大きいと考えられる小惑星(PHA)は2000個以上と見積もられています。

では実際に、それらが地球に落ちてきたときに、回避する手段はあるのでしょうか。現時点ではアイデアレベルで、軌道修正の方法がいくつか考えられています。

1.衝突方式

探査機などの人工物を小惑星にぶつけることで、破壊したり軌道を変えたりします。DART計画では、小惑星の衛星にこの手法を試します。

2.けん引方式

大質量の宇宙船などを小惑星の近くで飛行させ、小惑星との間に働く引力を利用して小惑星をけん引し、数年という長い時間をかけて方向を変えます。

3.塗料方式

小惑星表面の一定領域に特殊な塗料を散布し、太陽熱の吸収率を変えることで軌道変更を促します。

4.レーザー方式

小惑星に複数の小型宇宙船からレーザーを照射し、表面の物質を蒸発・噴射させることで、小惑星を押し出します。

5.太陽光照射方式

巨大な鏡を使って太陽光を小惑星に照射し、表面の物質を噴出させることで、小惑星を押します。

6.ロケット噴射方式

十分に硬い小惑星であれば、その表面にロケットを逆さに設置し、ロケット噴射によって移動させます。

7.核爆発方式

核兵器を小惑星の近くで爆発させることで、地球に向かうコースからそらせます。ただしこの手法だと、細かく分裂した破片が地球に衝突して被害をもたらすと指摘されています。

プラネタリー・ディフェンスで存在感を示す日本の役割

地球を守る活動については、日本も大きな役割を果たしています。海外の研究機関が探索できていない小惑星の発見や、DART計画の先行事例で貢献しています。

小さくて素早い動きの小惑星をトモエゴゼンでキャッチ

東京大学木曽観測所のシュミット望遠鏡には、世界初の天文用広視野動画カメラと人工知能ソフトウエア群からなる観測装置「トモエゴゼン」が取りつけられています。日本スペースガード協会と東京大学、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の研究者を中心とするグループは、2021年に、特殊な探索手法を組み入れて、トモエゴゼンを活用するプロジェクトを開始しました。これまで見つけ出せなかった、地球の近くを移動する小惑星の検出が目的です。

地球接近小惑星の探索は、NASAをはじめとするアメリカの研究機関中心に取り組まれてきました。主なターゲットは、地球規模の災害をもたらす直径100m以上の大きさで、地球からかなり離れて動く小惑星が中心でした。一方、地球の近くには、直径100m以下の、かなり高速で動く天体が存在します。サイズが小さいとはいえ、地球に衝突すれば都市レベルの被害がもたらされます。検出が難しかったこれらの天体の探索に、日本の研究者たちが取り組むことは、大きな意義があるのです。

地球防衛の観点で見る「はやぶさ」「はやぶさ2」のミッション

小惑星イトカワとリュウグウから地表のサンプルを持ち帰った、「はやぶさ」と「はやぶさ2」のミッションも、地球防衛の観点で大きな貢献をしています。先に、小惑星の軌道を変える手法について紹介しましたが、小惑星の回避策を検討するには、小惑星を構成する物質・内部構造の把握が不可欠です。

十分な時間的余裕がある段階で地球に衝突するとわかった小惑星には、探査機を送って調べる必要があります。その意味で、「はやぶさ」と「はやぶさ2」のミッションは小惑星探査の先行事例となるのです。また「はやぶさ2」がリュウグウで行った衝突クレーターを作る試みは、見方を変えれば、危険な小惑星の軌道を変える実証実験だったといえるでしょう。

「プラネタリー・ディフェンス」について学べる大学の学部、学科

プラネタリー・ディフェンス――地球に向かう軌道を動く、地球接近惑星の衝突を回避するための取り組みについて説明してきました。この30年間で随分と進められてきましたが、大局的に見れば、地球に向かってくる天体に対して、人類はいまだ無防備です。プラネタリー・ディフェンスは、宇宙を含む、さまざまな分野の知識と技術によって成り立っています。今後も人類の英知を結集して取り組むべきテーマといえます。私たちは自分が得意とする分野を磨き、それをいつか地球防衛に役立てていくしかないでしょう。

「福島民報」の記事によれば、2022年に会津大学の北里宏平准教授(コンピュータ理工学科)ら研究チームが、パソコン上で地球接近小惑星を探すウェブアプリの試作品を完成させました。

・会津大の北里准教授ら研究チーム ウェブアプリ開発へ 「小惑星画面で探して」:福島民報
https://www.minpo.jp/news/moredetail/2022062198114

すばる望遠鏡が撮影した5枚の画像データから、動いている天体を見つけるという仕組みです。アプリの開発には会津大発ベンチャーの会津ラボが携わっており、今後は会津大学の学生も関わる予定です。このように、地球防衛にはそれぞれができることで貢献可能です。

以下は、宇宙に関わる技術について研究できる大学の一部です。プラネタリー・ディフェンスは、総合力が求められる分野。宇宙について学べる大学はいろいろありますので、それぞれ自分の興味に合わせて調べてみてください。

・東京大学工学部 航空宇宙工学専攻
http://www.aerospace.t.u-tokyo.ac.jp/

・東京大学理学部 物理学科
https://www.phys.s.u-tokyo.ac.jp/

・東京大学理学部 天文学科
http://www.astron.s.u-tokyo.ac.jp/

・京都大学工学部 航空宇宙工学専攻
https://www.t.kyoto-u.ac.jp/ja/divisions/departments/aa

・京都大学宇宙総合学研究ユニット
http://www.usss.kyoto-u.ac.jp/

・東北大学機械系 航空宇宙工学専攻
https://www.mech.tohoku.ac.jp/lab-guide/lab-ase/

・岡山大学 物理学科
https://www.science.okayama-u.ac.jp/department/physics.html

・九州大学 航空宇宙工学部門
https://www.aero.kyushu-u.ac.jp/

・宇宙を学べる大学 
https://astro-bu.com/university/

参考

・NASA 地球防衛調整局(PDCO: Planetary Defense Coordination Office)
https://www.nasa.gov/specials/pdco/index.html

・ESA Hera計画
https://www.esa.int/Space_Safety/Hera

・NASA 地球接近物体研究所(CNEOS: Center for Near Earth Object Studies)
https://cneos.jpl.nasa.gov/

・B612財団
https://b612foundation.org/

・日本スペースガード協会
https://www.spaceguard.or.jp/html/ja/index.html

・美星スペースガードセンター
https://www.jaxa.jp/about/centers/bsgc/index_j.html

・東京大学木曽観測所 トモエゴゼン
http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/NEWS/pr20190930/pr20190930.html

・JAXA はやぶさ2プロジェクト
https://www.hayabusa2.jaxa.jp/

・日経サイエンス 2022年1月号「地球防衛」
https://www.nikkei-science.com/202201_033.html