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社会から事故をなくす研究【安全工学】- SDGsやデジタル社会でより重要に!

「安全工学」とは、人々が社会生活を安全な過ごすことができるよう、工業をはじめとする産業分野や社会システムにおいて工学の観点から事故や災害を防ごうとする研究です。
今回は、事故の発生原因やメカニズムを科学的に分析し、事故が発生しづらい設計を考えたり、被害を最小化することを目指す安全工学について解説します。

「安全工学」が生まれた背景

人類はいつも「危険」と隣り合わせでした。自然災害、けがや病気、飢餓など、古代より人の力ではどうしようもない巨大な自然と向き合い、生活を営んできました。

しかし近代に入り、それまでとは異なる「新たなリスク」と向き合う必要が出てきました。きっかけとなったのは、18世紀半ばから19世紀にかけて起きた産業革命です。

工業化により新たに生じたリスク

蒸気機関が登場し、さらには石油や電気などを扱うようになったことで、従来に比べて大きなエネルギーを扱うようになり、工業化が急速に加速していきました。

産業の発展により、人々は豊かな生活や利便性を手に入れました。同時に新たな技術によって、ちょっとした人的ミスから大きな事故を引き起こすようなリスクも生じたのです。

例えば、交通インフラにおいて、電車が脱線事故を起こしたり、航空機が墜落すれば、多くの死傷者を出す可能性があります。また原子力発電所や化学プラントで事故が生じれば、周辺地域に大きなダメージを与えかねません。

これらはあくまで例に過ぎません。自動車の設計ミスによる交通事故の増加、橋の落下事故など、リスクはあらゆるシーンに潜んでいます。社会における安全を確保するため、工学の側面から研究が進められているのです。

事故は「誰でも」起こすものという前提で考える

設計や運用のミスなど、事故の多くはヒューマンエラー(人的ミス)に起因しています。

事故を引き起こすのが人であれば、今以上に人が注意を払えば良いと思うかもしれません。しかし、そもそも「ミスを起こさない人」などこの世にいるのでしょうか。

事故を起こさないよう、注意を払うことは悪いことではありません。しかし「誰でも」ミスを犯してしまう可能性を排除できません。個人の責任としてリスクから目を背けてしまえば、再び似たような事故が生じてしまうでしょう。

人はミスを犯すことを前提として、ミスをしても大事に至らないよう対策を採る考え方なども、「安全」を確保する上で重要な考え方なのです。

人間による操作ミスを防止する「フールプルーフ」や、不具合が生じても安全を確保する「フェイルセーフ」などの考え方は、今日広く導入されています。

設計から事故発生時を想定した対応まで

事故を起こさないようにするには工夫が重要です。しかし、リスクを想定するのも人間です。想定を誤り、思わぬ事故が発生することもあります。

事故発生時に被害が広がらないよう緊急停止することも対策のひとつですが、「電力」や「水道」「通信」「金融」「医療」などのインフラは、「停止そのもの」が社会生活に大きな影響を及ぼすおそれがあります。

そのため完全に停止せずに、最低限の機能を維持したり、柔軟に復旧できる回復力も安全な社会には不可欠でしょう。

「回復力」やもとに戻るしなやかさの「弾性」を意味する「レジリエンス工学」といった研究も始まっています。

デジタル化時代の新たなリスクと向かい合う

安全工学に「人工知能(AI)」、AIの一種である「機械学習」を活用しようとする動きもあります。大量のデータから、異常を見つけ出すことができるAI技術は、事故の予兆検知などの応用に期待されています。

一方でAI技術も決して完璧ではありません。誤動作すれば事故の原因となります。AI技術の信頼性を確保し、安全に活用するという点では、安全工学の研究対象でもあるのです。

例えば、自動車の世界では「自動運転」の実用化に向けて研究が進められています。AIを活用し、コンピューターに運転を任せる「自動運転」により想定されるリスクは従来とは異なり、新たなリスクとして対処しなければなりません。

もちろん、自動車だけでなく、「ドローン」や「ロボット」などの分野でも安全工学は必要不可欠な研究テーマと言えるでしょう。

身近な生活も安全工学が生きている

安全工学から生まれたフールプルーフなどの考え方は、私たちの身近な製品にも生かされています。

例えば、一定の操作を行わないとスイッチが入らないストーブなどはひとつの例です。子どもが誤ってスイッチを入れてしまい、やけどや火事を防ぐのが狙いです。

扉を閉めないと動作しない電子レンジ、着座していないと水を噴射しない温水洗浄便座なども、誤操作による事故を防いでいます。

こうした考え方は、インターネットの世界でも取り入れられています。例えば、会員登録時における「メールアドレス」のチェック機能などは良い例です。メールアドレスの形式と異なっていたり、利用できない文字が入力されるとエラーを表示して、再入力を促します。また登録前にメールが正しく受信されているか確認することで、入力ミスやメールアドレスの保有者であることを確認します。

こうしたチェック機能は、誰もが間違えることなくメールアドレスを入力できるのであれば、本来必要ないでしょう。しかし、「入力を誤る人は必ずいる」という前提に立つことで、「メールが届かない」といったトラブルを未然に防いでいるのです。

誰もが安全に暮らせる世界を目指して

SDGsの世界では、経済成長をしつつも持続可能な社会を目指しています。誰もが「健康」「安全」で平等な社会を構築していくには、社会生活におけるリスクと向き合い、解決していくことが重要なミッションとなります。

大学の研究では、過去に実際発生した事故を解析したり、実験を行って分析することはもちろん、規模が大きかったり、危険がともない再現が難しいケースではコンピュータでシミュレーションを行うこともあります。

技術の発展や社会構造の変化によっても、リスクは変化していきます。デジタル化が加速する今日、「Society 5.0」の時代に向けて、新たなリスクを認知し、引き続き安全への探求を続けていく必要があるのです。

「安全工学」を学べる大学の学部、学科

いくつか例を挙げましたが、安全工学は、あらゆる分野で研究が必要となる学問です。

例えば、エネルギーや化学分野であれば爆発や火災などの事故発生を抑える必要があります。またバイオテクノロジーの分野となれば、安全に実験を行わなければなりません。土木建設、工場、交通、医療など、安全を研究していく分野は多岐にわたります。

そのため大学では、関係する分野の学部で学ぶことになります。例えば、ものづくりにおける安全工学であれば工学部となりますし、「ヒューマンエラー」といった面では心理学の側面からも研究されています。情報分野における「セキュリティー技術」との連携なども重要性を増しています。

一方で安全工学を前面に打ち出している大学もあります。原子力や放射線の安全性を高める技術者の育成など目指した東京都市大学理工学部の「原子力安全工学科」や、日本大学生産工学部の「環境安全工学科」などは、「環境」や「安全」などテーマとした学部なども設置されています。

とはいえ、多岐にわたる「安全工学」の全領域を対象とするケースは少なく、自分が興味ある工学分野に進み、「安全」を研究していくというのがメインのスタイルになるでしょう。