注目の研究テーマ

宇宙誕生の痕跡を観測できるかも? 【重力波】の研究で見えない宇宙が見えてくる!

アインシュタインが100年前に相対性理論で予言していた「重力波」。その存在が実際に検出できたのは、2010年代になってからのことです。今後さらに重力波の研究、解析が進むことで、宇宙誕生の瞬間や直後に起こったことやブラックホールの形成、連星の合体など、さまざまなことがわかるのではないかと期待されています。今回は「重力波」について解説します。

重力波望遠鏡で宇宙誕生の秘密に手が届く

近年、高精度化した天体望遠鏡によって遠くの宇宙の観測が可能になったことで、「昔の宇宙」に関する研究が進んでいます。光による観測では、100光年先の宇宙から100年前、1万光年先の宇宙から1万年前のデータを見ることができます。遠くであれば遠いほど、昔の宇宙の姿が見えるわけです。

ではその観測で、どこまで時間をさかのぼれるのでしょうか?

従来の天体望遠鏡(電波望遠鏡や光赤外望遠鏡、エックス線望遠鏡など)は、電磁波を捉えるものでした。電磁波による観測の限界は「宇宙の晴れ上がり」まで。宇宙の晴れ上がりとは、宇宙が誕生してから約38万年後に起こった現象のこと。つまり、従来の天体望遠鏡では、それ以前の宇宙を観測することはできなかったのです。

しかし、その限界を突破して、さらに昔の宇宙を見ることができるのではないかと期待されているのが、重力波望遠鏡です。

「宇宙の晴れ上がり」とは?

宇宙はインフレーションによって誕生し、その後のビッグバン膨張によって大きく広がっていると考えられています。そして高温、高密度だった初期の宇宙は、広がるにつれゆっくりと冷えていきました。そして宇宙誕生から約38万年経ったとき「宇宙の晴れ上がり」という現象が起こったのです。

それ以前の宇宙空間は、高温、高密度の状態で原子核と電子がバラバラに飛び回っていました。この「原子核と電子がバラバラ」とはどういう状態なのでしょうか。

まず光は真っすぐに飛べません。本来、光は直進的に飛ぶものですが、自由に飛び回る電子(自由電子と呼ぶ)が光に干渉して妨害するので、真っすぐに飛べないのです。

しかし、宇宙の温度が冷えてきた(それでも数千度ありますが)ことによって、電子が原子核の周囲を回るようになりました。そして自由電子が原子に取り込まれた結果、光への干渉が抑制され、光がまっすぐに進めるようになったのです。

この現象が「霧がかかっていた状態から、霧が消えて遠くまで見通せるようになった状態に変わった」ことに例えられたことから、「宇宙の晴れ上がり」と呼ばれるようになったのです。

天文学辞典 「宇宙の晴れ上がり」
https://astro-dic.jp/clear-up-of-the-universe/

天体望遠鏡の話に戻りましょう。従来の天体望遠鏡は、光、そしてその仲間である電磁波を使って観測します。そして天体望遠鏡で観測できるのは、「光が真っすぐに飛べるようになってからの光、電磁波」です。つまり、晴れ上がる前の宇宙を観測するのは不可能だったのです。

そこに登場したのが、重力波望遠鏡です。重力に宇宙の晴れ上がりは関係ありません。重力波であれば、それ以前の、もしかしたら宇宙誕生の痕跡まで見つけられる可能性があるのです。

重力波とは? 重力波望遠鏡とは?

質量を持つすべての物質は、重力を持っています。重力とは「物と物が引きあう引力」と理解している人もいるかもしれませんが、実は「時空をゆがませる力」のこと。時空をゆがませることが結果的に物と物を引き寄せることになるのです。

そして重力波とは、重力によって生まれたゆがみが、時空を伝わっていく波のような現象のこと。重力波は質量を持った物体が運動したときに発生し、伝わるときに空間を伸び縮みさせるのです。その伸び縮みを捉えようというのが、重力波望遠鏡です。

2015年、世界で初めて重力波を観測

ではどうすれば、重力波を捉えられるのでしょうか。

重力波は、アインシュタインが1910年代に予言したもので、以前から検出を試みてきたのですが、あまりに小さい時空のゆがみなので、検出が非常に困難でした。重力波によって空間が伸び縮みするといっても、その伸び縮みの大きさは原子核の内部にある陽子一個よりもはるかに小さいようなレベルなので、簡単なはずはありません。

そこで開発されたのがレーザー光線を使って時空のゆがみを検出する重力波望遠鏡でした。これは、宇宙に向ける望遠鏡ではありません。地面の下に巨大な設備を作って、レーザー光線を飛ばしてゆがみを検出するのです。

その原理を簡単に説明すると、以下のようになります。1本のレーザー光線を、鏡を使って2本に分けて異なる方向に飛ばします。2本のレーザー光線は元が同じなので、波形も同じになります。しかし、時空がゆがむと2本の波形にわずかな差異が生じます。そのような小さなゆがみを計測する装置が、重力波望遠鏡です。

そして2015年、アメリカの重力波望遠鏡LIGOが、世界で初めて重力波の検出に成功しました。このとき観測したのは、二つのブラックホールの合体によって生じた重力波でした。アインシュタインの予言から100年かけて人類は重力波を見つけたことになります。このLIGOの研究者は2017年にノーベル物理学賞を受賞しています。

日本でも「KAGRA」が観測開始

日本でも2020年から重力波望遠鏡KAGRAが観測を開始しています。KAGRAは、岐阜県にある山の地下に設置されています。共同ホスト機関として、東京大学宇宙線研究所、高エネルギー加速器研究機構、自然科学研究機構国立天文台が名を連ねています。

<国立天文台 重力波望遠鏡KAGRAー時空のゆがみで宇宙を暴くー>

<安東正樹「重力波でさぐる宇宙の大爆発」ー公開講座「爆発」:東大TV>

宇宙に設置する重力波望遠鏡も

さらに、宇宙重力波望遠鏡DECIGOを宇宙に打ち上げようという計画も日本で進められています。地上の重力波望遠鏡と組み合わせて活用することで、より詳細な重力波を検出し、研究しようという取り組みです。

DECIGOとは
https://decigo.jp/wdecigo.html

重力波望遠鏡でわかる現象

電磁波を用いていた天体観測ですが、重力というまったく新しいものを観測することが可能になりました。このことから、従来には検出できなかった新しい情報がわかるようになります。冒頭で、宇宙の晴れ上がり以前の、生まれたばかりの宇宙を観察できるのではないかという話をしましたが、それ以外の研究にも重力波は期待されています。

超新星爆発やブラックホール

ブラックホールは、重い星が重力につぶされることで超新星爆発を起こして生まれる天体です。重力があまりに強いため、ブラックホールに取り込まれたら光や電磁波も外に出られなくなります。従来の天体望遠鏡では限界がありましたが、重力波であれば巨大なブラックホールが作られる様子を観測できるのではないかと期待されています。

ブラックホールや中性子星の合体

宇宙では、ブラックホールや中性子星が連星を構成していることがあります。二つの重い星がお互いの回りを回転しているのです。お互い強い重力を持っているので、いつかは連星が合体することになります。その瞬間に巨大な重力波(巨大といっても、とても小さい波ですが)が発生します。前述した世界で初めて観測した重力波も、二つのブラックホールが合体したときのものでした。

ダークマターやダークエネルギー

宇宙にはダークマター(暗黒物質)やダークエネルギー(暗黒エネルギー)があると考えられています。これは私たちには認識できない物質やエネルギーであり、重力波であれば新しい情報が得られるのではないかと期待されています。

従来の電磁波による観測の他に、この重力波による観測、あるいはニュートリノによる観測などを加えて未知の天体や現象を観測することをマルチメッセンジャー天文学と呼びます。

宇宙の謎を解き明かす【宇宙論】の研究! 誕生と終焉、ダークマターの正体は?宇宙には想像もつかない不思議な現象が起こります。それらを研究することで、宇宙の始まりや終わりを解明する、あるいは宇宙の法則、謎を解き明か...

超ひも理論

この宇宙にある物質(素粒子)は、ひもの形をしているという、超ひも理論と呼ばれる仮説があります。私たちの暮らす宇宙は3次元(縦、横、高さ)に時間を加えた4次元の時空間と思われていますが、超ひも理論によると、この世界は10次元の時空間ということになります。

私たちに認知できない六つの次元のことを「余剰次元」と呼びますが、その研究に重力波が使えるのではないかと期待されています。

この世界は10次元だったのか? 【超ひも理論】の研究から真の宇宙の姿を解明する!この宇宙にはまだまだ解明されていない謎があり、相対性理論や量子論だけでは説明できない現象も残っています。それらの謎を解く究極の理論として...

「重力波」について学べる大学の学部、学科

重力波を扱う重力天文学は、宇宙物理、天文学科などが専門になります。今はまだ重力波の検出ができるようになって間もない時期。これから多くのデータが蓄積されることで、ますます重力波天文学は発展していくことでしょう。

KAGRAの共同ホスト機関に名を連ねている宇宙線研究所は東京大学の機関です。また東京大学の「ビッグバン宇宙国際研究センター」では、宇宙の始まりに関する研究を行っています。

ビッグバン宇宙国際研究センター
http://www.resceu.s.u-tokyo.ac.jp/top.php

参考

KAGRA:大型低音重力波望遠鏡
https://gwcenter.icrr.u-tokyo.ac.jp/