新しいサービス、イノベーションを起こしたくても「既存の規制があって進められない」ということがあります。そこで規制を一時的に緩めたりすることで実証実験などを行いやすくするのが、砂場を意味する「サンドボックス」という制度です。大学が参加するサンドボックスもありますので、イノベーションに興味を持っているなら、覚えておきたい制度です。
「サンドボックス」とは?
世の中にはいろいろな規制が作られています。それらの規制は社会を維持するために必要なものですが、これまでにないような新しい事業、ビジネスモデル、サービスを思いついたとしたときに、「その規制があるために、取り組みが進展しない」というケースもあります。
そのような問題を解消するために考えられたのが「サンドボックス」です。サンドボックス(sandbox)とは砂場のこと。子供が砂場で自由気ままに遊ぶように、いろいろな取り組みを試行錯誤できる場を意味しています。サンドボックスの中では、通常であれば規制によって実行できないようなことも、一部規制を緩める形で行えるようになります。
このサンドボックスを活用すると、「新しいサービスの実証実験をスピーディーに始められる」という利点があります。また「実際にやってみるとこういう課題が生じるのか」ということが見えてきたり、サービスを利用したユーザーの意見を聞いて改善に生かしたりといったことができたりと、いろいろなメリットがあるのです。
日本での「サンドボックス」の例
サンドボックスという制度は、2014年のイギリスにおいて、Fintechと呼ばれるICTを活用した新しい金融サービスの創出を後押しするために、「レギュラトリーサンドボックス」という制度を設けられたのが始まりとされ、香港やタイ、シンガポールなどでも導入されています。
日本でも成長戦略のひとつとして、2018年に生産性向上特別措置法に基づいた「規制のサンドボックス制度」をスタートしています。首相官邸のサイトには、以下のように説明されています。
「規制のサンドボックス制度とは、IoT、ブロックチェーン、ロボット等の新たな技術の実用化や、プラットフォーマー型ビジネス、シェアリングエコノミーなどの新たなビジネスモデルの実施が、現行規制との関係で困難である場合に、新しい技術やビジネスモデルの社会実装に向け、事業者の申請に基づき、規制官庁の認定を受けた実証を行い、実証により得られた情報やデータを用いて規制の見直しに繋げていく制度です」
規制のサンドボックス制度
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/regulatorysandbox.html
この「規制のサンドボックス制度」を活用してさまざまな取り組みがすでに始まっています。
大学のキャンパスで電動キックボードの実証実験
2019年、規制のサンドボックス制度を利用し、マイクロモビリティのシェアリング事業を展開するLUUP(ループ)が横浜国立大学常盤台キャンパス内の一部区域で、また、mobby ride(モビーライド)が九州大学 伊都キャンパス内で電動キックボードを使ったシェアリングサービスを試みました。
キックボードは、タイヤのついた細長いボードの上に立って人間が足でこいで進む乗り物です。電動キックボードは、人力ではなく電動で走るため公道で利用するには道路交通法に従う必要があり、「原動機付自転車」(いわゆる原付きバイク)として扱われます。
そうなると運転には免許やナンバープレート、ヘルメットなどが必要となります。また、自動車が行き交う車道を走行しなくてはいけなくなりますが、スピードの遅い電動キックボードがクルマと同じ道を走るのは危険が伴います。
そこで実験の場として選ばれたのが大学のキャンパスです。キャンパス内は公道ではありませんが自動車が走る道路があり、歩行者が通るという点で公道に近い環境といえます。そこで、キャンパス内での実証実験を通して新しい制度、利用者ニーズ、安全性などを確認しました。
この取り組みを通して知見を蓄積したループは、さらに2020年、新事業特例制度に認定された公道の自転車レーンにおける実証実験を実施。2021年にはヘルメット着用を任意(つまり、ヘルメットを着用しなくてもよい)とする電動キックボードのシェアリングサービスへと結びつけました。
・Luupが国内初・ヘルメット着用任意の電動キックボードシェアアプリを4月23日より提供開始
https://luup.sc/news/2021-04-23-escooter-start/
<都心で電動キックボードのシェアサービス開始へ:LUUP(ループ)>
改造キャンピングカーを宿泊施設に
2019年にDADAが行ったのは、バスを改造したキャンピングカー「BUS HOUSE」をレンタルする実証実験でした。
通常、人を宿泊させる事業を行うには旅館業法に従う必要があります。旅館業法では、宿泊のための「施設」を設けなくてはいけませんが、キャンピングカーは宿泊施設ではありません。
BUS HOUSEは、利用者がWeb上で申し込むと移動可能なBUS HOUSEが宿泊地に用意されるというシステムです。これは規制のサンドボックス制度を利用して、キャンピングカーを「テントの貸し出し」と同じようなものとして扱っているわけです。
宿泊地に移動したBUS HOUSEは、その場でタイヤがロックされるため、利用者によって運転して走らせることはできません。そのため、自動車免許を持たない人でも、利用できるのです。
広島県が設けた「サンドボックス」には大学も参加
国ではなく、県でもサンドボックスが設けられたこともあります。
広島県では、県内の企業が新しい価値の創出などに取り組む県内外の企業や人材を呼び込むなどを目的に、「ひろしまサンドボックス」という制度を設けていました。この制度には大学も参加しています。なお、広島の制度は2021年3月に終了しています。
・ひろしまサンドボックス
https://hiroshima-sandbox.jp/
東京大学 IoTプラットフォームを活用したかき養殖
東京大学は、ひろしまサンドボックスを利用し、地方自治体、企業、地場産業などとともに、ICTやIoT(モノのインターネット)を活用した安定したかきの養殖に取り組みました。
ドローンや水中ドローン、ICTブイなどを活用して海のデータを収集、蓄積し、人工知能(AI)によって分析した情報を漁業者に配信しました。漁業者が、最適なかき養殖の場所を知ることで、生産効率や生産高の向上につなげる研究を行いました。
・ひろしまサンドボックス スマートかき養殖IoTプラットフォーム事業
https://www.u-tokyo.ac.jp/adm/fsi/ja/projects/region/project_00013.html
ひろしまサンドボックスでは、広島大学も、ブロックチェーンとスマートフォンアプリを使っての医療や健康などのデータ管理、流通に向けた取り組みを行っています。
イノベーション創出に向いている「サンドボックス」
これから大学に進もうという人の中には、「世の中をあっと驚かせるような新しいビジネスを始めたい」「イノベーションを起こしたい」「ベンチャー企業を立ち上げたい」という思いを持って勉強しようとしている人もいるでしょう。
しかし、既存の規制、法律が立ちふさがって、前に進めなくなることがあるかもしれません。とはいえ大学という学びの場はいろいろな実験を行いやすく、サンドボックスとの相性が良いといえます。規制が妨げになるようなときは、このような制度を検討してみるのもひとつの方法です。