学力だけでなく、志願者の能力や適性、学習意欲や目的意識、さらに大学が求める学生像に合致しているかなどを総合的に見極めるのが「総合型選抜」です。現在では、国公立、私立を問わず多くの大学で導入されていて、大学受験時の選択肢として一度は検討してみる価値があります。一般選抜や学校推薦型選抜とは異なる、総合型選抜の特徴をしっかり押さえておきましょう。
「総合型選抜」は、自分の「強み」を生かせる入試制度
大学入試には、学力検査が中心の「一般選抜」、高校の校長推薦に基づく「学校推薦型選抜」、そして、今回のテーマである「総合型選抜(旧AO入試」という三つの選抜方法があります。
文部科学省では、総合型選抜を次のように定義しています。
詳細な書類審査と時間をかけた丁寧な面接等を組み合わせることによって、入学志願者の能力・適性や学習に対する意欲、目的意識等を総合的に評価・判定する入試方法。
「一般選抜」や「学校推薦型選抜」との違いは?
一般選抜で評価されるのは「学力」が中心ですが、総合型選抜なら提出書類や面接を通じて、学力以外の面をアピールすることが可能です。あくまで、大学側が求める範囲内でという注釈は付きますが、総合型選抜は自分の「強み」を生かせる入試制度ということができるでしょう。
大学側も同様に、学力検査では測れない志願者のさまざまな能力や個性、「この大学で何をしたいのか」という熱意や目的意識を総合的に評価して、大学側が求めている人材を選ぶことが可能です。
また、学校推薦型選抜とは異なり、学校長の推薦が不要な総合型選抜では、大学側が指定する条件を満たせば誰でも受験できます。
従来の「AO入試」との違いは、必要な学力に対する適切な評価
総合型選抜は、2021年度以前は「AO入試※」と呼ばれていました。AO入試は、各大学が定める大学入学者の受け入れ方針(アドミッションポリシー)に適合する受験生を選抜する入試制度のことです。
では、AO入試と総合型選抜の違いはどこにあるのでしょうか。実は大きな違いはありません。
ただ、AO入試では「知識技能の修得状況に過度に重点を置いた選抜基準としない」という方針が、一部で「学力不問」と捉えられていて、文部科学省ではこの点を問題視していました。大学で学ぶには、当然ながら一定の学力は必要だからです。
そこで、総合型選抜への移行を機に、評価の方法を見直しました。具体的には、総合型選抜の場合も、調査書などの出願書類の審査や面接に加えて、小論文や口頭試問、プレゼンテーション、教科・科目にかかるテスト、資格・検定試験の成績などで、入学志望者の知識や技能・思考力・判断力などをきちんと評価するように定めています。
補足) ※大学によっては現在も「AO入試」の名称も使用しています。
「総合型選抜」の入学者は国公私立大学ともに増加傾向
現在では、私立大学のほとんどが総合型選抜を導入しています。また、私立大学ほどではありませんが、国立大学や公立大学でも総合型選抜の導入が進んでいます。まだ「AO入試」と呼ばれていたときのデータですが、2020年度の入学試験では国立大学の76.8%、公立大学の39.1%が総合型選抜を実施していました。
総合型選抜(AO入試)を利用して、実際に大学に入学した人の割合も年々増加しています。私立大学の場合、2018年度の入学者数のうち11.4%がAO入試によるもので、この数字は2019年度が11.6%、2020年度は12.1%と、少しずつであるものの高くなっています。
一方、国公立大学の場合は、もともと総合型選抜による募集人数が少ないこともあり、2020年度では国立大学入学者数の4.2%、公立大学の3.3%がAO入試総合型選抜の利用者でした。ただ、私立大学と同様に、過去3年間で入学者数の割合は徐々に上がってきています。
※参考)令和2年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要 文部科学省
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2020/1414952_00002.htm
「総合型選抜」は今後ますます拡大する可能性が高い
文部科学省の有識者会議「大学入試のあり方に関する検討会議 提言」では、総合型選抜(および学校推薦型選抜)について次のように述べています。
- 志願者と大学とのより良いマッチングにもつながり得る
- 多様な価値観を持つ多様な人材が集まり新たな価値を創造するキャンパスを実現する観点からも、多面的・総合的な選抜の果たす役割は大きい
- 今後も総合型選抜・学校推薦型選抜を推進することが期待される
つまり、文部科学省の方針が大きく変わることがなければ、総合型選抜は今後も増加していく可能性が高いと考えられます。
「総合型選抜」の選考方法は多種多様
ひと口に「総合型選抜」といっても、具体的な試験の内容は大学・学部によってさまざまです。なぜなら、大学・学部ごとに「求める学生像」が異なるからです。また、多様な学生を採用するために、同じ学部であっても複数の選抜内容を設けている場合もあります。
そのため、もし「総合型選抜を利用して大学合格を目指そう」と考えるなら、まずは自分が目指す大学・学部の総合型選抜がどのような内容なのかを早めに確認しましょう。
レポート、面接、実技、テストなどを組み合わせた選考が一般的
総合的に評価することが「総合型選抜」では重要になるため、志望書類だけ、テストだけ、面接だけなど「○○だけ」で選抜されることはありません。志望理由書+面接、レポート提出+面接、小論文+口頭試問、志望理由書+プレゼンテーション+面接など、複数の方法で選考が行われます。スポーツ系や芸術系の場合は、提出書類+実技というパターンも多くあります。
資格や検定の合格、コンテスト入賞などは大きなポイントに
高校時代に打ち込んだこと、とりわけ資格取得や検定合格、コンテスト入賞など目に見えて結果が出ている場合は、総合型選抜に臨むにあたって大きなプラスポイントになります。大学によっては、コンテスト入賞・出場自体を出願条件にしている場合や、1次審査が免除される場合などもあります。
例)
早稲田大学 先進理工学部特別選抜入学試験
https://www.waseda.jp/fsci/admissions_us/
日本数学オリンピック、全国高校化学グランプリ、日本情報オリンピックなど指定のコンテストなどで所定の成績を収めていることが出願の条件。
慶應義塾大学 総合政策学部・環境情報学部AO入試
https://www.keio.ac.jp/ja/assets/download/admissions/examinations/ao-sfc/ao-sfc2021.pdf
日本数学オリンピック、小泉信三賞全国高校生小論文コンテストなど、指定のコンテストで所定の成績を収めていると1次選考が免除になる。
亜細亜大学 一芸一能入試
https://www.asia-u.ac.jp/admissions/ichigei/
芸術・芸能、競技(囲碁や将棋、カルタなど)、学術・学芸、資格(実用英語技能検定、簿記検定など)、社会的活動、スポーツなどで実績・評価があることが出願の条件になる(自らの判断でも可)。
親族に卒業生・在校生がいることが出願条件になる場合もあり
一部の大学では、親や兄弟、姉妹などの親族に卒業生・在校生がいることが出願条件になるという総合型選抜を設けています。ここでいう「親族」の範囲は大学によって異なります。もちろん、親族の条件だけを満たしていれば合格になるわけではなく、志望理由書や事前課題の提出、面接、学力試験など大学ごとの選考過程を経る必要があります。
例)
・東京農業大学 自己推薦型 東京農大ファミリー総合型選抜
https://www.nodai.ac.jp/admission/info/family/
・大阪人間科学大学 総合型選抜(ファミリー)
https://www.ohs.ac.jp/admissions/univ/family.html
「総合型選抜」はスタートが早いのが特徴
さて、総合型選抜は、一般選抜や学校推薦型選抜と比べて、開始時期が非常に早いのが特徴の一つです。直前になって慌てることがないように、スケジュールのイメージをつかんでおきましょう。
出願は9月から、事前に「エントリー」がある大学も
総合型選抜の出願は、国公立・私立を問わず9月からです。
私立大学の中には、出願前に「エントリー」という段階を設けているところもあり、エントリーは早い大学では6~7月から受け付けています。エントリーは、「総合型選抜を受けるための手続き」という意味で使われていて、エントリーした生徒に出願資格が与えられます。
なお、エントリーが単に「出願」を意味する大学もあるなど、大学ごとに解釈・利用法が異なります。志望する大学の情報をよく確認してください。
合格発表は11月以降、国公立では「共通テスト」を課す場合も
総合型選抜の合格発表は、11月以降と決められています。早い大学では、11月の上旬には合否が判明するということです。
ただし、国公立大学の場合、総合型選抜でも大学入学共通テストを課す場合があります。共通テストは1月の半ば(2022年は1月15日・16日)に実施されるので、合格発表はその後になります。具体的には、国立大学の場合、総合型選抜の合格発表を2月9日まで(2022年度の場合)と定めているので、遅くとも2月上旬には合否が判明します。
※参考)令和4年度大学入学者選抜実施要項について(通知) 文部科学省
https://www.mext.go.jp/content/20210604-mxt_daigakuc02-000005144_1_1.pdf
「総合型選抜」を利用する際に気を付けたいこと
繰り返しになりますが、総合型選抜は一般的な学力検査だけでは伝えきれない、自分の強みを入試に生かせることがメリットです。また、大学入学共通テストが課されない場合は、他の選抜方法より早く合格が決まる可能性があり、早めに大学受験から解放されるのもメリットといってよいでしょう。
多くの大学が総合型選抜を導入する中、自分の希望と合致する大学・学部があれば、利用を検討してみる価値は大いにあるのではないでしょうか。
一方で、「総合型選抜」の利用を考えたときに気を付けたい点もあります。
基本的には「専願」である点に注意する
注意点の一つは、多くの場合、総合型選抜は「専願」が条件になることです。「専願」とは、その大学を第一志望とし、合格が決まったら必ず入学するという意味です。そのため、「合格したら必ず入学したい」と思える大学だけを受ける必要があります。
スタートが早いから、出願条件に合致するからという理由だけで総合型選抜を利用することは避けましょう。なお、大学によっては「併願」を認めている場合もあります。
「一般選抜」の準備についても考えておく
残念ながら、総合型選抜で不合格になることもあります。その場合は、頭を切り替えて一般選抜に臨むことになります。総合型選抜には、小論文やレポート、課題の提出などかなり手間がかかるものもありますが、総合型選抜に絞って全力を投入するのではなく、並行して一般選抜の受験も想定しておく必要があります。