大学の選び方

政府も推進する【大学のDX】! デジタル活用で大学の学習環境はどう変わる?

2021年3月に文部科学省が「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」の事業実施機関を決定しました。プラン実施機関となった大学などでは、インターネットやコンピューター、人工知能(AI)などを活用して学生一人ひとりに合った学びを推進します。

「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」とは

デジタル技術を活用して業務の改革や効率化を行うDX(デジタル・トランスフォーメーション)が企業で進められています。DXは広い意味では、ITやデジタルの技術で人々の生活をよりよいものにするということです。

スマホゲームを例にDXのことを説明しましょう。少し前のスマホゲームは端末上で各自がそれぞれ楽しむものでした。インターネットからダウンロードしたり、アップデートはできますが、友達と一緒に遊ぶとなると一堂に集まって遊んでいました。

しかし、今では多くのゲームがインターネット対戦に対応し、違う場所にいる友達、あるいは世界中の誰かとネットワーク越しに対戦できるゲームが主流となってきました。ネットワークに接続することでサイバー空間にコミュニティーが誕生し、新しい楽しみ方が生まれていったのです。ゲームが実際の地図と連携するなど、サイバー空間と物理的な空間が融合したゲームも浸透しています。

こうした動きはゲームの世界だけではなく、ビジネスや学校教育の世界でも、ITの発展による革新が進みつつあるのです。データの利活用やAIの活用など、より大胆で革新的なDXが展開されています。

大学教育にもDXが求められる時代に

大学でもDXを活用した教育手法の変革が進んでいます。その変革を国として後押しするのが、「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」です。

文部科学省では、このプランを以下のように定義しています。

「大学・高等専門学校においてデジタル技術を積極的に取り入れ、『学修者本位の教育の実現』『学びの質の向上』に資するための取り組みにおける環境を整備し、ポストコロナ時代の高等教育における教育手法を具体化し、その成果の普及を図ることを目的として実施するもの」

簡単にいうと、インターネットやコンピューター、AIなどの先端技術を大学教育に取り入れて、ポストコロナ時代にふさわしい、学生一人ひとりに最適な学びの環境を提供する取り組みを行うということです。

コロナ禍でのリモート授業の増加もきっかけに

教員や学友たちと一緒の教室で授業を受けるのが当たり前だった大学教育ですが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、通学や通常の授業が困難になり、リモートでの授業が増加しました。

リモート授業については、集中力を維持するのが難しいなどの課題はある一方、録画されているので繰り返し学修できる、対面ではないので質問がしやすいなどのメリットもあります。

離れたところにいる学生たちと教員が一緒に授業を進めるというリモート授業は、新しい授業の形といえます。課題を解消しメリットを増やして、うまく活用していくことは、大学にとってDXのひとつの形といえるでしょう。

リモート授業だけではありません。バーチャル・リアリティー(VR)、AI、動画などのデジタルコンテンツ、インターネットを介しての他の大学や海外の大学との共同授業など、大学におけるDXに役立つテクノロジーはいくつもあるはずです。

理系の実験などは「自分の手を動かしてやってみないとだめ」ということから、昔ながらの授業のまま踏襲してきたということもあるでしょう。しかし、コロナ禍で対面授業が困難になっている状況では、「今まで無理と思ってきたことでも、変えられるところは変革しなくてはいけない」という機運も高まっています。

こうした機を捉え、教育現場にデジタルを積極的に取り入れ、大学におけるDXを推進するという狙いから同プランが定められました。

多くの大学や高専がチャレンジするDX

国が示したデジタルを活用した大学・高専教育高度化プランでは、「学修者本位の教育の実現」と「学びの質の向上」の二つの取り組みについて募集が行われました。

「学修者本位の教育の実現」とは、より学生を中心にした教育へ変えていこうという取り組みであり、「学びの質の向上」とはVRやデジタルコンテンツなどを駆使したり、他の大学との連携を強化したりして、教育の質を高めていこうという取り組みです。

文部科学省が2021年1月15日から2月1日まで公募を実施したところ、教育機関から252件の申請があり、そして54件の事業が採択されました。学生側にとってはどのような影響があるのでしょうか。代表的な取り組みを見てみましょう。

東京理科大学

「学修のPDCAサイクルを促進する教学データを用いた個別最適化フィードバックシステムの開発と教育環境整備」
https://www.tus.ac.jp/today/archive/20210314_0614.html

東京理科大学においては、「教育手法の開発」と「教育環境整備」に焦点を当てた取り組みが採択されました。

「教育手法の開発」として、機械学習の手法で全教学データを分析する「学修支援システム」を活用します。学生の指導に対して分析結果をフィードバックすることで、学生一人ひとりの特性や、学修の到達度に合わせた学修を支援しようというものです。

学修の到達度を測定するためのWEBテストも開発しており、結果を分析して学生の指導にフィードバックすることで、最終的には学生の自習能力の向上を助けます。

無線LAN・ネットワーク回線の整備と、大学設置PCのリモートデスクトップ化によって、より良い教育環境を学生へ提供するとしています。

独協医科大学

「データ一元管理とAI解析を用いた学修の最適化と無限学習を目指す大学改革事業」
https://www.dokkyomed.ac.jp/dmu/academy/news/2064

独協医科大学では、AIの活用によって学生の学習を支援しようと考えています。具体的には、学生の学修に関するさまざまなデータをAI解析させ、学修支援に結果を活用します。教職員がデータの解析結果を共有し、連携を図りながら各学生に適した支援を行う仕組み作りを進めていきます。

日本経済大学

「『仲間とともに個性を伸ばす』全学DXプログラム」
https://shibuya.jue.ac.jp/news/digital-transformation_0313/

日本経済大学では、「目標別のオンラインコミュニティ」を設置し、仲間づくりを通して学生の個性に合ったキャリア意識や学習意欲を高める取り組みを提案し、採択されました。

学生の成績だけでなく興味や関心を取り込む「eポートフォリオ(学習記録のデジタル化)」なども導入し、学修管理システムとの連携によって、学生の習熟度に沿った授業やカリキュラムを提案します。

北海道医療大学

「医療系大学における学生参加型AI開発による学修者本位の教育の実現と普及」
https://www.hoku-iryo-u.ac.jp/topics/education_research/267792/

北海道医療大学では、全学生がAIを活用できる環境を目指しています。情報ネットワーク基盤、講義室メディアの拡充、図書館内の学習支援施設などの環境整備はもちろん、全学部の1年次に「情報処理演習」を設置し、基礎的なデータサイエンス教育を実践します。

さらに学生がAI開発に参加する授業科目の開講を準備するほか、小中規模のAIであっても効果を上げる教育モデルを構築し、AIを活用したよりよい教育の普及を進めます。

デジタルの活用で自分に合った学習支援が受けられる

他にもいろいろな大学がデジタルを活用した大学・高専教育高度化プランに採択されています。採択された大学の取り組みは以下のURLで公開されています。

「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」実施機関の決定について
https://www.mext.go.jp/content/20210311-mxt_senmon01-000013151_1.pdf

デジタルを活用した大学・高専教育高度化プランが採択された大学の多くは、IT環境を充実させ、AIや機械学習、VRなどの技術を活用し、より効率的な学習を支援し、以前より一歩進んだ「学び」の提供を目指しています。

また、学習データの解析によって学生の学習状態を客観的に把握し、個々の状況に応じた学習を支援する動きは、従来の画一的な教育スタイルをデジタルによって変革しようとするものです。

最先端のデジタル技術に触れたい、自分に合った学びの経験が得たいという人は、デジタルを活用した大学・高専教育高度化プランを大学選びの条件のひとつに考えてみてはいかがでしょうか。