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人工衛星はどんどん小型化!大学も積極的に研究する【超小型人工衛星】。 学生が開発した衛星も!

従来の大きな人工衛星は開発、運用も大掛かりで国家プロジェクトとして進められていました。しかし、携帯電話が小型化してきたように、今では10cmサイズの非常にコンパクトな人工衛星も作れるようになりました。今回は「超小型人工衛星」の概要や大学での取り組みについて解説します。

注目が高まる超小型人工衛星

私たちの暮らす地球のはるか上空では数多くの人工衛星が回っています。そして毎年1000個以上の新しい人工衛星が打ち上げられています。それらの人工衛星は、科学衛星、気象観測衛星、通信衛星、軍事衛星、地球観測衛星、準天頂衛星など、いろいろな目的で活用されています。

ところで、それらの人工衛星はどれくらいの大きさなのでしょうか? 人工衛星というものは、利用目的に応じて一つひとつ独自に設計されるので、大きさや形もバラバラです。

大きなものとしては宇宙ステーション(有人人工衛星)が挙げられます。宇宙ステーションは、人が長期間にわたって生活しながらさまざまな科学実験などを行うところです。日本も関わっている国際宇宙ステーション(ISS)は、約108.5m×72.8mものサイズとなり、サッカーのピッチ、学校で運動するグラウンドくらいの広さと考えればいいでしょう。

・日本実験棟「きぼう」/国際宇宙ステーション
https://www.jaxa.jp/projects/iss_human/kibo/index_j.html

人が乗らない人工衛星でも大きなものは1000kg以上にも達しますが、近年注目が高まっているのはコンパクトな「超小型人工衛星」です。超小型人工衛星の定義は「100kg未満」だったり、「50kg未満」だったりと一定ではありませんが、「大型人工衛星、中型人工衛星、小型人工衛星」と呼ばれるものと比べると、非常にコンパクトです。1辺10cmの立方体というとても小さなものもあります。

超小型人工衛星の強み

大型人工衛星、中型人工衛星と呼ばれるものの多くは、国家プロジェクトとして国家が主導して開発して打ち上げられています。高機能で信頼性が高く、複雑な用途にも活用できるなどの利点も多いのですが、課題も少なくありません。例えば、設計、製造するにも莫大(ばくだい)な予算と長い期間が必要です。

一方、超小型人工衛星の利点は、なにより軽くてコンパクトであること。ロケットを使って宇宙に打ち上げることを考えると、これは大きなメリットとなります。そして設計、開発も大きなものに比べると容易なので、短期間でたくさん作ることが可能です。そのため学生、院生が在学中に開発、打ち上げることもできます。

また大型の人工衛星の場合、長い時間をかけて開発しているうちに、世の中のトレンドが別のところへ移っていることも考えられます。各国がしのぎを削って技術革新、宇宙開発競争に乗り出しているなかで、スピーディーに新しい研究、目的に活用できる超小型人工衛星が期待されているというわけです。

超小型人工衛星が安く短期間で作れるわけ

超小型人工衛星は、特定の用途を目的とするため機能はシンプルになります。その半面、設計、開発にかかる予算と期間を抑えられます。

例えば、大きな人工衛星に使われる部品が専用設計のカスタムパーツとなるのに対し、超小型人工衛星は電気街で売られているような汎用(はんよう)部品を多用して設計しています。カスタムパーツを作るのは相当な開発コストと期間がかかりますが、汎用部品なら(極端にいえば)店頭で目的にあったものを買ってくるだけで済みます。

打ち上げコストも違います。大きな人工衛星は、専用に打ち上げロケットを用意するのに対し、小型人工衛星は、他の目的で打ち上げられるロケット(の空いたスペース)に載せて宇宙に運びます。最近では、小さな人工衛星専用のロケットも開発されています。また宇宙ステーションに運んだ後、宇宙空間に放出することもあります。

ベンチャーや大学が作る超小型人工衛星も

このような要因から、国家プロジェクトとして運用される大きな人工衛星と違い、大学やベンチャー企業のような機関でも作れるようになったというわけです。なかには設立して間もないベンチャー企業や大学に学生が中心になって開発した超小型人工衛星もあるほどです。

<特別講演「大学で何を学ぶのか?~超小型衛星研究開発を通しての視点~」(東京大学 中須賀真一教授・航空宇宙工学科)>

日本の大学の小型人工衛星

超小型人工衛星の始まりは2003年と割と最近のこと。縦横高さ10cmの立方体である超小型人工衛星「キューブサット」を日本工業大学と東京大学が開発したのです。その経緯、エピソードは東京工業大学の以下のサイトに掲載されているので、興味ある方はご覧ください。

・東京工業大学:超小型人工衛星で宇宙産業を切り拓く
—宇宙への想いを繋ぐ学生と研究者—

https://www.titech.ac.jp/public-relations/research/stories/space-and-satellite

その後も日本の大学では精力的に超小型人人工衛星に取り組んでいます。その取り組みをいくつか紹介します。

「ほどよしプロジェクト」

内閣府の日本発の「ほどよし信頼性工学」を取り入れた超小型衛星による新しい宇宙開発・利用パラダイムの構築」により2010年代に進められたのが、「ほどよしプロジェクト」と呼ばれる超小型人工衛星の研究です。これには東京大学、東北大学、北海道大学、京都大学などが関わりました。ほどよし1号機から4号機までが開発され打ち上げられました。

・ほどよしプロジェクト
https://stage.tksc.jaxa.jp/taurus/member/miyazaki/old/research_HODOYOSHI.html

「ひろがり」

大阪府立大学と室蘭工業大学が共同開発・運用しているのが超小型人工衛星「ひろがり」です。これは、新規展開構造物などの研究のために2021年に打ち上げられたものです。

新規展開構造物の実験とは、小さく畳んだものを宇宙空間に運んで大きく広げるものです。しかし大きなものを宇宙まで運ぶのは大変なこと。そこで小さく畳んだ状態で宇宙空間に運んだあとに展開する実験が行われました。

・室蘭工業大学 宇宙機構造工学研究室
超小型衛星「ひろがり」(大阪府立大学と共同開発)

https://u.muroran-it.ac.jp/sslab/HIROGARI.html

<学生らが開発した超小型人工衛星「ひろがり」が宇宙へ(2021年2月23日)>

超小型人工衛星で役立つ意外なテクノロジー

太陽光パネルなどは大きいほうが能力を発揮します。そこで小さいものを宇宙に運んだあとに大きく広げるための研究が進められています。

オリガミ

紙を折ってツルやカメなどの形にするオリガミは、人工衛星の研究にも応用されています。有名なのが東京大学の名誉教授である三浦公亮氏が考案した「ミウラ折り」と呼ばれるものです。

1枚の大きな紙の地図は、小さく折りたたんでおき、使いたいときにパッと簡単に広げられるように作られています。このとき、小さいものを(からまったり、引っかかったりすることなく)一瞬で広げられるためのひとつの手法が、ミウラ折りという特殊な折り方です。そのしくみは、前述の「ひろがり」でも活用されています。

<第36回ちがさき宇宙教室「自然界から宇宙に広がるミウラ折り」>

3Dプリンター

3Dプリンターを使って宇宙空間で構造物を作る技術です。完成物を宇宙に持っていくのではなく、宇宙で作るという新しいアプローチです。

三菱電機が開発したのは、人工衛星に搭載した3Dプリンターを使って、アンテナを作っていくというものです。このしくみであれば、原材料さえ持っていくことさえできれば、大きくて複雑なものも宇宙で製造できるようになるでしょう。

<三菱電機株式会社:宇宙空間において3Dプリンターで人工衛星アンテナを製造する技術>

<JAXA宇宙航空研究開発機構:日本の宇宙開発の未来のために集結した14の技 -3DプリンタX帯アンテナ 3D-ANT -革新的衛星技術実証2号機>

超小型人工衛星を学べる大学の学部、学科

人工衛星の研究は航空宇宙工学になりますので、研究したいなら「航空宇宙工学科」などを目指すとよいでしょう。東京大学の「超小型衛星センター」、大阪公立大学の「小型宇宙機システム研究センター」(SSSRC)のように、超小型人工衛星の研究拠点を持っている大学もあります。

・東京大学:超小型衛星センター
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/nsat/main.html

・大阪公立大学:SSSRCについて
https://www.omu.ac.jp/eng/sssrc/about-us/

参考

・東京大学国際オープンイノベーション機構
超小型人工衛星の開発と利用
https://www.ioi.t.u-tokyo.ac.jp/program/space/nakasuka.html

・人工衛星 大型衛星と小型衛星
https://www8.cao.go.jp/space/seminar/fy25-dai10/manabe-2.pdf

・JAXA
世界の「超小型衛星革命」に乗り遅れるな―日本に危機感 ~超小型衛星利用シンポジウム2022 レポート(前編)~
https://aerospacebiz.jaxa.jp/topics/news/cubesatlv2022report/

・ファン!ファン!JAXA
地球の周りを回っている人工衛星の数はいくつくらいありますか?
https://fanfun.jaxa.jp/faq/detail/57.html

・一般社団法人 日本航空宇宙工業会
令和2年度政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備・データ利用促進事業費(衛星データの利活用及び国内外の超小型衛星部品に関するサプライチェーンの動向調査)
調査報告書
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2020FY/000046.pdf