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どこでも通信できる時代を支える【アンテナ】技術。スマホやドローン、自動運転や宇宙通信まで、高まる重要度

無線通信では、電波をキャッチするアンテナがとても重要な役割を果たします。ラジオやテレビの放送を受信していると分かりますが、アンテナが接続されていないと、電波はまったく受信できません。今回は、普段はあまり意識することが少ない、無線通信で使われる「アンテナ」について解説します。

電波を使った無線通信は、近代の画期的な発明

近代以降ではさまざまな発見や発明があり、利便性が格段に上がっていますが、そのひとつが電波の利用です。大気中に音声や映像を乗せて、見えないほど遠くまで伝えられる技術は画期的といえます。モバイル通信やテレビ放送など、日常的に電波を使った無線通信の恩恵を受けています。

多種多様なアンテナの用途

アンテナは外から見てわかりにくいこともありますが、電波を扱う機器には必ず使われています。ラジオやテレビ、電波時計、衛星利用測位システム(GPS)といった受信だけでなく、スマホやパソコン、Wi-Fiルーター、スマートスピーカー、ドローンなど送信もできる機器も年々多くなってきている状況です。車の自動料金収受システム(ETC)や人工衛星などとの宇宙通信でも活用されています。また最近では、非接触ICカードでの通信や、機器を充電する目的で電気自体を離れた機器に送信する電力伝送に使われるようにもなっています。

そして通信速度は、今後もスピードアップしていくことでしょう。例えば、5Gから進化する6Gモバイル回線、これから登場する予定のWi-Fi7などの高速な通信の研究、開発が進められています。ほかにも宇宙航空研究開発機構(JAXA)が中心になり研究を進めている宇宙太陽光発電システム(SSPS)でも、宇宙に設置した太陽光パネルで発電した電力を、マイクロ波のレーザー光線を使って送信するというシステムでも、光アンテナが活躍します。こちらは光無線通信のため、今回解説しているアンテナとは原理は異なります。

アンテナというと、お家の屋根の上に立っているテレビアンテナを思い浮かべるかもしれませんが、ここで紹介したように、いろいろなところで利用されているのです。

・宇宙太陽光発電システム(SSPS)
https://www.kenkai.jaxa.jp/research/ssps/ssps-ssps.html

<宇宙から安定した太陽エネルギーを地上に送り届けます/NTT>

アンテナを使った通信の手法

そもそもアンテナとは何でしょうか。アンテナは、電気エネルギーを電波として空間に放出したり取り込んだりする受け渡しの役目を果たす素子です。電子回路からの信号と空中の電波を相互に変換するデバイスと考えても良いでしょう。

アンテナの素材には、(電気を通す導体である必要上)、金属の「導線」や「棒」だったり、網、パネル、プリント基板上の銅箔(どうはく)などの導体が使われます。送信する電波出力にもよりますが、送信中アンテナに触れると感電することもあります。

アンテナについての詳しい説明を進める前に、電波を使って通信をする手法を簡単に解説しておきましょう。無線通信では搬送波(キャリア)と呼ばれる高周波に情報を載せて通信します。この搬送波は特定周波数の正弦波を使っており、搬送波を変調することで情報を載せます。正弦波とは以下の写真のような形状の波になっています。

▼搬送波で使われる正弦波の形状

電波に変調方法を変えて乗せる

変調の方法は各種開発され、例えばアナログ信号のラジオAM放送では振幅変調(Amplitude Modulation)を、FM放送では周波数変調(Frequency Modulation)を使っていて変調方法が異なります。無線通信を行うには、双方で送受信する周波数をピッタリ合わせ、変調方法も合わせる必要があります。変調方法が異なると基本的に通信は成立しません。

ちなみに、モールス信号で知られる電信通信は、搬送波そのものをオンオフする原始的な方法で通信をする例外的なモードです。

電波によるデジタル通信も普及。ノイズを除去して通信する技術も重要に

さらにデジタル情報を無線に乗せることも可能になり、現在のどこでもICTを活用する生活の中で中核となる技術となりました。デジタル変調では、送受信する周波数を変動させないでおく技術や、ノイズリダクション(ノイズ除去)の技術が必要になりますが、狭い帯域でも通信が可能になり、時間差で分割して使うなど、人類の共通資源である電波の周波数を有効に使えるようになりました。

<スペクトラム・アナライザ機能説明_デジタル変調解析/TektronixJapan>

電波として空中に放出するアンテナ

ここで特定周波数に搬送波を通し電波として空中に放出する役割を担うのが、今回のテーマである「アンテナ」です。通信は特定の周波数で行いますが、アンテナはこの特定周波数によってサイズが固定されているのが基本となっています。多少のズレは許容されますが、使える周波数の幅は決まっています。

周波数は、先に紹介した正弦波が1秒間に繰り返される波の数でHz(ヘルツ)という単位で表現されています。秒間1回の波は1Hzです。1MHzは1Hzの100万倍ですので、秒間100万回振幅していることになります。

この振幅の山の頂点間の長さを波長と呼び、これは周波数に応じて変わります。遅い周波数は長く(低速)、高速な周波数では短い(高速)振幅になります。電波として理論上の計算では約300Mm/sという光の速度が使われ、例えば1MHzの波長は300m、よく活用される100MHz(ちなみにFMラジオが76〜108MHz)に変換してみると、波長は3mとなります。

基準となるのは1/2波長のダイポールアンテナ

この特定周波数における波長の、さらに1/2の長さで作られたダイポールアンテナが、もっとも効率よく電波を放出します。つまり、使う周波数とアンテナサイズは密接な関係があるのです。ダイポールアンテナとは、送受信機に接続する2本の線で組まれたケーブルの先端から、2本の導線をまっすぐ左右対称につけたアンテナのことです。

▼左右に広げているダイポールアンテナの例。一番下は利得を上げるために2本を組で使っています

アンテナというと釣りざおのように1本だけ伸ばしたタイプをイメージするかと思いますが、これはこのダイポールアンテナの1本だけを使い、もう1本は地面にアースされていることで代用させているモノポール型になります。効率を高めるために、仮想的なアースを電気的に作ったグランドプレーンというアンテナもよく見かけるタイプです。

▼上に真っすぐ伸びているのがグランドプレーンアンテナです。3本のラジアル(アースの役割)が広がっているのが見えます。下はUHFテレビ用の八木アンテナ

アンテナのサイズは使う周波数で決まる

放射する電波の波長よりもアンテナのサイズを小さくしてしまうと、電波を放出する効率が悪くなります。どうしてもコンパクトにしたい場合には、エレメントを巻くなど工夫して短くすることもあります。逆に波長から得られるサイズよりも大きすぎても、電波は乗りません。最大効率を得るなら、波長に合わせたサイズにする必要があります。1本のアンテナで特定の周波数のみでしか使えないのは不便なため、長さを自動調節したり、複数の長さを1本にまとめたりして近い複数の周波数で使えるようにする、高機能なアンテナもあります。

<HFV330〜ダイポールアンテナ/第一電波工業>

高い周波数になると、アンテナは短くて済むようになりますが、高い周波数の電波は距離による減衰が激しく長距離まで飛ばなくなりますので、複数のアンテナを組み合わせるなどして、利得と指向性を上げる工夫をすることが多くなります。利得(相対利得)は波長の半分のダイポールアンテナを基準にどのくらい感度や送信する電波が上げられるかを、アンテナの性能として表現した数値です。指向性は特定の向きに対して感度を強くすることで、その特定方向では利得が上がります。より遠くにある機器と通信するためには必要な技術です。

単一の棒や銅線のアンテナエレメントを使ったダイポールアンテナを複数並べることで、利得を上げるアンテナは、日本人の八木秀次氏と宇田新太郎氏が開発した八木・宇田アンテナとして広く普及しています。テレビのUHF帯アンテナとしても使われているので見たことがあるかと思います。もっと利得を上げたい場合、同じ形状のアンテナを複数並べスタック化して使うこともあります。

▼テレビのUHF帯アンテナとして使われている八木アンテナの例

さらに遠距離との通信では、おわんのような形状で中心一点に電波を集中させるパラボラアンテナというタイプもよく使われます。遠い宇宙との通信や、減衰の激しい性質を持つ高い周波数で遠距離通信をするという用途で使われます。とても指向性の強いアンテナです。

▼宇宙通信で活用されるパラボラアンテナの例

アンテナと送受信機はピッタリ合わせて設計する

いずれにしても、アンテナは通信する周波数に対して送受信機とペアで考えて設計しないと、正常な電波の送受信ができないことになります。不適切なサイズや調整不良で送信すると、周囲に電波が漏れてしまい障害を与えることもあります。どんな機器でも無線通信をする場合にはアンテナは必須です。パソコンやスマホを見ると、外観からはモバイル回線やWi-Fi通信用のアンテナは見当たりませんが、内部に必ずアンテナが入っています。

電波の送信には資格や免許が必要

無線で電波を出すにはさまざまな制限があり、基本的に国家資格と免許が必要です(受信だけなら制限はありません)。一般的に販売されている電波を出す機器は、送受信機とアンテナはペアで認可を受けていて、改造は禁止されています。アンテナだけを高利得なものに変更するということもできません。例えば、スマホの場合には、携帯電話キャリアが免許を持っていて認可されています。Wi-FiやBluetooth機器の場合、小さな出力、特定周波数帯で許可されるなど、厳密なルールが決められています。これらを知っておくことも、無線技術を仕事に使う場合には重要です。

趣味や実験で電波を出してみたい場合には、アマチュア無線の国家資格を取得すると、アマチュア無線として利用できる周波数帯の中で、資格で扱える範囲の出力で実験できます。アンテナも自由に設計して実験することが可能です。アマチュア無線は世界に同じような資格を持った趣味の人々がいますので、自分で設計したアンテナでどこまで電波が飛んでいくのかを地球規模で試せます。デジタル通信も盛んに行われていて、その仕組みを実際に触れて知ることもできます。アマチュア無線の資格は中高生程度の学力があれば取得が可能ですので、ぜひチャレンジしてみてください。

・日本アマチュア無線連盟
https://www.jarl.org/index_1_hajimeru.html

大学でも進むアンテナの研究

アンテナは今後も進化し多様な使われ方をしていくはずです。電波通信では、高い効率を求めたり広帯域に対応させたり、より高い周波数を開拓し発展していくでしょう。通信以外でも、宇宙太陽光発電から地上に電力を電送したり、道路からBEVへの電送などが研究されています。ほかにも、空間に存在するわずかな電磁波から電力を回収し発電する新しい発電をするなど、アンテナを活用して非接触で電気的なやりとりをする技術を研究していく余地はたくさん残されています。大学でも盛んに研究されています。

・芝浦工業大学 工学部 ワイヤレス通信研究室
https://www.shibaura-it.ac.jp/faculty/engineering/ice/lab/kazuhide_hirose.html

・東北大学 工学部 電気情報物理工学科 通信工学コース
https://oc.eng.tohoku.ac.jp/eipe/lab/course-2/

・日本工業大学  基幹工学部 電気電子通信工学科 電波応用/アンテナ工学研究室
https://www.nit.ac.jp/department/electronic/lab/lab2/antenna

「アンテナ」の技術を学べる大学も学部、学科

このようなアンテナを含めて電波を扱う学問は無線工学と呼ばれています。電気工学や通信工学の一分野です。工学部などの理系学部で学べます。通信工学は、無線以外にも通信プロトコルなどを主に研究しますが、ICTでも通信は無線と有線の区別なく利用されていますので、どちらにも応用できます。ただし電波を使って通信をするアナログの仕組みを知ることは、無線工学ならではといえます。このような無線の知識を持つエンジニアは「RFエンジニア」と呼ばれます。

無線技術士関連は国家資格も多数ありますが、大学の工学部によっては卒業することで一部の試験が免除されることもあります。