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少子化?人口爆発? いったいどっち?【人口学】の研究から見えてくる人間社会の姿

人間の数について研究するのが「人口学」です。日本では5年おきに国勢調査が行われ、総人口、人口構成などが発表されます。人口学では、そのようなデータから、変化の要因や法則、しくみなどを研究します。今回は、少子高齢化時代の対策に欠かせない人口学について解説します。

「人間の数」という視点から人間社会を考える人口学

日本や先進国では少子化、人口減少が懸念される一方、地球全体では人口爆発が大きな課題とされています。

「世界人口白書2021」によると、 2021年の世界人口は78億7500万人(前年比で8000万人増加)、日本人口は1億2610万人(前年比で40万人減少)とのこと。確かに世界全体では人口が増え続け、日本は減り続けているのは間違いないようです。

・世界人口白書2021
https://tokyo.unfpa.org/ja/SWOP2021

いったい人間は多すぎるのでしょうか? それとも少なすぎるのでしょうか?

このような人口にまつわる研究を行うのが「人口学」という分野です。その言葉のとおり、人口学は人間の数に関する学問です。といっても、単に人間の数をカウントするだけの学問ではありません。

「人間の数はどのように変動しているのか?」
「どういう人間が増えて、どういう人間が減っているのか?」
「どこで人間が増えて、どこで減っているのか?」
「そこにはどのような要因、法則があるのか?」

このように、人口の研究を通して、人間社会について考えるのが人口学です。

日本の人口の変遷を縄文時代からたどってみよう

世界では規模が多すぎて実感しにくいかもしれませんので、日本の人口推移を考えてみましょう。内閣府のサイトで公開されている以下の資料によると、次のように記載されています。

・第1節 日本の人口の変化
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2004/pdf_h/pdf/g1010100.pdf

時代 日本の人口
縄文時代 約10万人~約26万人
弥生時代 約60万人
奈良時代 約450万人
平安時代(900年) 約550万人
慶長時代(1600年) 約1,220万人
江戸時代 3,100万人〜3,300万人台

今の1000分の1程度の人口だった縄文時代

狩猟採取生活を送っていた縄文時代の人口は「約10万人~約26万人」ですから、今の人口の1261分の1から485分の1にあたります。ざっくりと1000分の1としておきましょう。

ところで「10万人から26万人」「今の1000分の1」といわれてもピンと来ませんよね。そこでみなさんが全校生徒1000人の高校に通っていると想定して考えてみましょう。1000人の高校生が通っているその高校も、縄文時代だったら、全校生徒はあなた1人ということになります。

農業も始まっておらず、野生動物を狩ったり木の実などを採集して食べていたような縄文時代は、それくらいの人口を支えるのがやっとだったのでしょう。

農業や畜産が始まって人口は5倍に

弥生時代になると、定住、米作りなどの農業、家畜の飼育などが本格的に始まります。食料もだいぶ安定して手に入れられるようになり、「約60万人」へと増加します。

60万人といえば、今の210分の1。先ほどの高校の例でいえば、全校生徒5人に相当します。縄文時代と比べると5倍に増えたのですから、農業や畜産による食料生産の力はすごいものだといえます。

国ができて、さらに人口増加

その後、鉄の農機具などが使われるようになるなど、技術が進むと、食糧の生産量も増えていきます。また飛鳥時代、奈良時代と経て、日本という国の形が定まっていきます。国民からは「租庸調」という税を集め、国という単位で事業が進められるようになります。奈良時代の人口は「約450万人」。

今の28分の1にまでになりました。この段階で全校生徒は36人まで増えたことになります。これくらいになると役割分担しながら少し組織としての行動ができる気がしますね。

経済が活発化し、人口も増えた

関ヶ原の合戦が起こった慶長時代は「約1,220万人」ですから、今の10分の1。その後の江戸時代は商業なども活発になり、人口は「3,100万人〜3,300万人台」と今の4分の1程度に達します。

江戸時代になってやっと全校生徒250人になりました。学校らしい行事もにぎやかに開けるでしょう。

そして明治以降、日本は近代化の流れに乗ります。農業や工業、商業、交通網も発展し、機械も導入されて効率化が進んだ結果、1億人を超えるまでに増加したわけです。また医療の進歩により、一人ひとりの寿命も延びることになりました。以前であれば死亡していたようなけがや病気であっても、生命を失わずに住むようになったことも人口増に寄与します。

このように人口というものは、人の数だけを見て「多いか、少ないか」と考えるのではなく、その他の要素も加味して分析する必要があります。

<鬼頭宏 上智大学経済学部教授 「人口減少問題」2 2014.7.3>

人口から社会を見るとは?

今は5年おきに国勢調査を行って人口に関する統計を記録し、その結果は「現在の日本人の数は○○」と報道されます。人口に興味を持っていない人はそれを聞いても「ふーん」としか思わないのではないでしょうか。

しかしこのように人口について見ていくと食糧生産、経済、医療、そして国の体制、社会の変化、家族のありかたなど、人間の生活を支えるしくみが整備されたり変化したりするにつれ、人口が増減してきたことがわかるはず。また過去や現在だけでなく、将来の人口を予測することで、これからの社会をどのように整備していくかを考えることもできます。

このように人口学を学んでから、人口に関する数値を聞くと以前とは違った意味、解釈、分析ができるようになるのではないでしょうか。

例えば、都市計画や政策を立てるときに、将来の住人の数、年齢構成などを予測できると、より暮らしやすいまちづくりや政策づくりに役立ちます。また新しいビジネスを始めたいというときに、対象となる層がどれくらい存在するかを想像できれば、想定するユーザーにあったデザインやマーケティングにつなげられます。

また、少子化問題になると「若い人に子供をたくさん産んでもらわなくてはいけない」という意見が出ることも多いのですが、そもそも「少子化はいつから始まったのか」と見てみると、みなさんの親、祖父母の世代にすでに始まっているわけです。高齢者から「若い人が子供をたくさん……」と言われたとき、人口学を理解していれば上手にかわすこともできるかもしれません。

人口学の研究分野

紹介したような過去の人口を研究する分野を「歴史人口論」と呼びます。人口学は他にも、性別や年齢などの人口構造を研究する「形式人口学」、社会現象と関連付けて人口を研究する「社会人口学」や「経済人口学」、家族の形に焦点をあてて研究する「家族人口学」など、さまざまな事柄を対象にしています。

人口学から見える日本の問題点

2020年の国勢調査によると、14歳以下、15〜64歳、65歳以上の割合は次のような結果になっています。

・令和2年国勢調査 人口等基本集計結果 結果の概要
https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/kekka/pdf/outline_01.pdf

総人口を年齢3区分別にみると,15歳未満人口は 1503万2千人,15~64歳人口は7508万8千人,65歳以上人口は3602万7千人となっている。総人口に占める割合を2015年と比べると,15歳未満人口は12.6%から11.9%に低下,15~64歳人口は60.9%から59.5%に低下,65歳以上人口は26.6%から28.6%に上昇となっている。

65歳以上人口が1920年は5.3%、1990年は12.1%であったことを考えると上昇し続けています。逆に15歳未満人口の割合は、1920年は36.5%、1990年は18.2%であり、今と比べると割合が高いことに驚きます。

生産年齢人口(5~64 歳)が、15歳未満人口と65歳以上人口を支えることになるので、その比率がどれくらいあるかというバランスが重要です。今後、さらに少子高齢化が進むと考えられている日本では、生産年齢人口の負担が増えていくでしょう。

そうなれば、ますます子供世代を支えるゆとりがなくなり、ますます少子化が加速していくことも予想されます。

バランスの悪い高齢化の進み具合

「若者は東京に出ていき、地方に残るのは高齢者ばかり−−」
もしそうであるなら地方に重きをおいて高齢者対策を進めればいいことになりますが、本当にそうでしょうか。これも国勢調査のデータで見ていきましょう。

総人口に占める65歳以上人口の割合を都道府県別にみると,秋田県が37.5%と最も高く,次いで高知県(35.5%),山口県(34.6%)などとなっており,45道府県で25%以上となっている。一方,沖縄県が22.6%と最も低く,次いで東京都(22.7%),愛知県(25.3%)などとなっている。

このデータに、都道府県ごとの人口と合わせてみましょう。秋田県の人口は95万9502人ですから、37.5%を占める65歳以上の人数は約36万人。一方東京都の人口は1404万7594人ですから、22.7%を占める65歳以上は約319万人になります。

秋田県のほうが高齢者の比率は37.5%と高いのですが、人数で見ると東京都のほうがはるかに多いわけです。こうしてみると、人口の多い大都市圏と少ない地域では異なる高齢者支援を考える必要がありそうですね。

「人口学」を学べる大学の学部、学科

大学では、社会学部、経済学部、人間科学部、医学部などで「人口学」に関する授業が行われています。

日本大学のように、人口学を専門とする研究機関を設けている大学もあります。ここでは「人口・結婚・子育て・医療・介護・労働・都市・住宅等の諸問題に関連する基礎研究、応用研究、政策研究」を行うとしています。人口学を専門に学びたいと考えているなら、専門に研究している大学を探してみてはいかがでしょうか。

・日本大学人口研究所
https://www.eco.nihon-u.ac.jp/research/nupri/

『人口学』が応用できる分野

統計、医療、看護、福祉、都市計画、マーケティング、少子化対策

参考

人口学 (Demography / Population Studies)
https://minato.sip21c.org/demography/

日本人口学会
http://www.paoj.org/